AWSが地場クラウドに負ける日が来る? データ主権重視で「力学」に変化:CIO Dive
規制強化や地政学リスクで「データを自国で管理したい」という企業のニーズが強まる今、クラウド市場の力学に変化が生まれている。ある調査によると、世界の経営層の65%がクラウド戦略の変更を余儀なくされているという。顧客流出を食い止めるためにAWSやMicrosoft、Googleが繰り出している打ち手とは。各社の動きを追った。
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マッケンジー・ホランド(Makenzie Holland)(「CIO Dive」シニアニュースライター)
2015年に米国インディアナ州立大学ブルーミントン校でジャーナリズムの学士号を取得。米連邦政府の技術政策担当記者、『Wilmington StarNews』記者、『Wabash Plain Dealer』記者(犯罪・教育担当)を経て現職。
クラウド市場では長年、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft、Googleなどのハイパースケーラーが膨大なインフラと豊富なサービスメニューを武器に地場のクラウドプロバイダーを圧倒してきた。規模の経済が支配するこの市場において、欧州や各国の地場クラウド事業者は慢性的に不利な立場に置かれていた。
しかし近年、その構図が揺らぎ始めている。EUの「GDPR」(一般データ保護規則)をはじめとするデータ主権規制の強化や、強まる米中対立、米国の関税問題、ロシアによるウクライナ侵攻や緊迫する米イラン情勢などの地政学的リスクへの懸念が広がり、「データを誰がどこで管理するか」が企業の意思決定の核心に据えられるようになったのだ。
米国法「CLOUD Act」(CLOUD法)の下では、米国企業が保管するデータは、米国政府の要求に応じる義務が生じる可能性がある。データセンターが物理的に欧州などにある場合もこの例外ではないとの指摘があることから、欧州企業を中心に、地場クラウドプロバイダーへの関心が高まりつつある。
65%の経営幹部がクラウド戦略を「変更済み」
こうした状況に危機感を持つハイパースケーラー各社は、単なるEUリージョンの追加にとどまらず、欧州法人の設立や欧州人材のみによる運用体制の整備など「欧州で欧州のために管理されるクラウド」の実現を競い合っている。
ITサービスを提供するKyndrylの調査レポート「2025 Cloud Readiness」によると、既に経営層の65%がデータに関するリスクへの懸念からクラウド戦略を変更済みだという。同レポートによると、この背景にはグローバルなクラウド環境でデータを保存および管理することに伴う地政学的リスクへの懸念がある(注11)。
データ主権を重視する流れで「逆風」が吹く中で、AWSをはじめとするハイパースケーラーはどのような戦略で顧客流出を食い止めようとしているのか。
「逆風」をどう跳ね返す? AWSらの戦略
AWSは、欧州向けのソブリンクラウド(自国の規制に沿ってデータを運用できるようにするクラウド)の一般提供を開始した(注1)。これはクラウドやITインフラ事業者が、自社データをより強く管理できる環境を企業に提供しようとする最新の取り組みだ。クラウドサービスを構成する全ての要素はEU内に置き、厳格な規制要件に直面する企業のニーズに対応している。
AWSのソブリンクラウド基盤は(注2)、独立したコンピュートリージョンに分割されており、企業のコンテンツや顧客が作成したメタデータ、各種設定などが選択したリージョン内に確実にとどまるよう設計されている。クラウドサービスには、欧州で独立して運用される専用のIDおよびアクセス管理システムや、課金システムも含まれている。
AWSのセバスチャン・ストルマック氏(プリンシパル・デベロッパー・アドボケイト)は、ブログの投稿記事で次のように述べた。「われわれは2023年に独立したクラウド基盤を構築する計画を初めて発表した。そして本日、クラウド基盤は包括的なAWSサービス群を通じて、欧州の顧客が求める最も厳格なデータ主権要件に対応できる状態になった」
ベンダー各社はEUの規則や規制に対応できるよう、エンタープライズ企業向けのソブリンクラウドの提供を急いでいる。同時に、それらの国々の企業にとって、より魅力的に映りつつある地場のクラウドプロバイダーと競争できる体制を整えようとしている。
IBMは2026年1月15日(現地時間、以下同)、企業が運用における管理権限と主導権を維持したままクラウドおよびAIワークロードを展開できるプラットフォーム「Sovereign Core」を発表した(注3)。一方、SAPは2025年12月に「EU AI Cloud」を展開し(注4)、顧客が自社の運用ニーズに応じて適切な主権レベルを選択できるようにしている。
Microsoftは2025年にソブリンクラウドの提供内容に新たな機能を追加した(注5)。またGoogleも自社のソブリンクラウド製品を前進させ、2025年11月にはミュンヘンに「ソブリンクラウド・ハブ」を設立すると発表した(注6)。
調査会社IDCのデイブ・マッカーシー氏(リサーチ担当バイスプレジデント)は「CIO Dive」に対し「主に米国を拠点とするクラウドおよびインフラ企業が、ソブリン型サービスへの投資を推進している背景には企業、とりわけEUの顧客が、各国のデータ規制やデータ主権の問題、関税などの懸念を強く意識するようになっている事情がある」と語った。一方、欧州のユーザー企業の中には地場のクラウドプロバイダーとの連携を検討し始めている企業もあるようだ。
「われわれが生きている世界はそれだけ多くの不確実性を生み出している。企業は自国の管轄地域の中でITシステムが継続して稼働し、保護されるといったことを確実にしたいと考えているのだ」(マッカーシー氏)
EUは大規模なAIインフラの構築や、クラウドおよびデータセンターへの民間投資を促進するための「Cloud and AI Development Act」(クラウド・AI開発法)の推進を含む「AI continent action plan」(AI大陸行動計画)を推進している(注7)(注8)。EUの行政執行機関である欧州委員会は、本行動計画について「研究者や産業界に眠る潜在力をどのように引き出すかを示すものだ」と説明している。
GoogleやMicrosoftをはじめとする企業は、データ主権を重視する流れの中でEU以外の地域にも目を向けている。2025年12月、MicrosoftはカナダのAIやクラウドインフラに対して、2027年までに総額190億カナダドル(約138億米ドル)を投じることを約束した(注9)。この約束にはデータをカナダ国内にとどめるための取り組みも含まれている。
Googleは世界的なテックハブとして台頭しつつあるインドに対し、2025年10月に今後5年間(2026〜2030年)、AIハブの設立を含むプロジェクトに150億ドルを投資する計画を発表した。さらに同年11月には「インドの顧客向けに現地のAIハードウェア容量を拡充し、コンプライアンスとAIに関連する主権を確保するための管理体制を強化する」と公表した(注10)。
出典:AWS European Sovereign Cloud goes live amid vendor push for spend(CIO Dive)
注1:Opening the AWS European Sovereign Cloud(AWS)
注2:AWS taps BCG executive for EU sovereign cloud unit(CIO Dive)
注3:IBM tackles cloud, AI sovereignty with new platform(CIO Dive)
注4:SAP deploys EU AI Cloud in latest push for data sovereignty(CIO Dive)
注5:Microsoft strengthens sovereign cloud capabilities with new services(Microsoft)
注6:Google Cloud Launches First Sovereign Cloud Hub in Munich to Accelerate European Innovation(Google Cloud)
注7:Shaping Europe's leadership in artificial intelligence with the AI continent action plan(European Union)
注8:EU Cloud and AI Development Act | Updates, Compliance(EU)
注9:Microsoft Deepens Its Commitment to Canada with Landmark $19B AI Investment(Microsoft)
注10:Supporting Viksit Bharat: Announcing our newest AI investments in India(Google Cloud)
注11:Regulatory risks push cloud leaders to alter infrastructure plans(CIO Dive)
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