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「フォローアップ率1〜2%」をAIで変える Qualtrics製品担当トップが語る次のフェーズ

Qualtricsが年次イベントで打ち出したのは、AIによる「理解から行動」へのギャップ解消だ。同社製品担当トップのブラッド・アンダーソン氏に、全社インフラを目指す戦略や独自データによる競争優位、フォローアップ率を劇的に変える「Agentic AI」の可能性を聞いた。

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ブラッド・アンダーソン氏(筆者撮影)

 Qualtrics(クアルトリクス)は顧客や従業員の体験データを収集、管理する「Experience Management」(XM)サービスを提供している。同社は2026年3月、米シアトルにて年次カンファレンス「X4 2026」(以下、X4)を開催した。新CEO体制で初となる今回のX4で打ち出されたのは、顧客の声を「聴く、理解する、行動する」の3ステップにおけるギャップを、AIによっていかに埋めるかという戦略だ。

 会場にて、同社プロダクト、UX、エンジニアリング担当プレジデントのBrad Anderson(ブラッド・アンダーソン)氏に、新体制下の製品戦略やAI時代の競争優位性を聞いた。

XMを「Microsoft 365」のような全社インフラへ

――2021年の参画以来、製品部門を率いてきた。以前からXMを「Microsoft 365」のようなビジネスに不可欠なツールにしたいと語っていたが、進捗(しんちょく)はどうか。

アンダーソン氏: Microsoftに約19年勤務した経験から、私はよくXMを「Microsoft Office」(以下、Office)に例える。Officeも、最初は「Microsoft PowerPoint」がマーケティング、「Microsoft Excel」(以下、Excel)が財務といった特定部門から浸透し、やがて組織全体の標準インフラへと広がった。

 私が5年前にQualtricsに入社したとき、Qualtricsを使っているのはCX(顧客体験)やリサーチのチームで、それ以外ではほとんど使われていなかった。しかし、人事や幹部が従業員の体験を、営業やマーケティングが顧客の体験を把握することは、職種を問わず極めて重要だ。そこで、Officeのように「誰もが使いこなし、価値を享受できる」状態を目指してきた。

 例えば、世界に約1万軒の物件を持つホテル大手のMarriott(マリオット)は、各ホテルのマネジャーがゲストの体験を把握することが難しいという課題を抱えていた。チェックアウトした後に送るサーベイのフィードバック、複数のレビューサイトへの投稿を把握することは困難だった。そこで「Qualtrics」を導入し、マネジャーに特化したXMプラットフォームを構築した。これにアクセスするだけで、優先すべき顧客の声と、次に取るべき推奨アクションを即座に確認できる。

 Excelが財務担当にとっての必須ツールになったように、XMも業務に欠かせない基盤にしていきたい。そして全従業員がデータを見ながら改善に動く文化を醸成するのが狙いだ。その浸透度は数字にも表れており、2025年の月間アクティブユーザー数(MAU)は前年比43%増を記録している。

――2026年に入りCEOが交代し、新たにJason Maynard(ジェイソン・メイナード)氏が就任した。プロダクト戦略にどのような変化があるか。

アンダーソン氏: OracleやNetSuiteで大きな実績を上げたメイナード氏は、Qualtricsに「スケール」と「効率」の視点をもたらしている。

 現在、われわれが最も注力しているのは、データをいかにAIが使えるものにするかだ。単にデータを投入するだけでもある程度のパターンは見つかるが、それでは不十分だ。データに構造を持たせ、「何が顧客で、何が従業員か、それぞれの属性や関係性は何か」という文脈を明確に定義することで、AIは初めて高度な推論が可能になる。

 データに意味と構造という「厚み」を持たせ、AIが文脈を深く理解できる環境を作る。これが、メイナード体制下で最も集中している取り組みだ。

実績を重視する日本市場とAIによる自動化

――ターゲット層を「アーリーマジョリティー」と設定している。そのためにどのような機能強化を進めているか。また、日本市場をどう見ているか。

アンダーソン氏: テキストアナリティクスを例に挙げる。従来、これを利用するにはカスタマージャーニーや分析トピックを人間が手作業で定義する必要があり、膨大なコストと時間がかかっていた。

 そこで生成AIを導入し、サーベイデータやコールセンターの音声ログを渡すだけで、ユーザージャーニーとトピックモデルを自動生成する機能を発表した。かつて数カ月を要した作業が、今は数時間で完結する。AIの進化により、アーリーマジョリティーでも容易に使いこなせる環境が整った。


マルチチャネルで顧客がどこに“イライラ”を感じているのかなどの体験が分かる(出典:Qualtricsのプレスリリース)

 日本市場を決してレイトマジョリティーとは考えていない。ただし、新技術をむやみに試すのではなく、実績を見極めてから動く堅実な層だ。確信を持てば動くのが日本の組織であり、そこに対してAIによる成功事例を提示していく。

自社ホスティングによるコストと柔軟性の両立

――AIモデルが乱立する中、選定基準と活用状況は。

アンダーソン氏: 選定基準は精度、スピード、コストの3軸だ。現在は主に、「Microsoft Azure」で提供されるOpenAIのモデルと、自社データセンターでホスティングするMetaの「Llama」を併用している。

 Llamaを自社でホスティングする最大の理由はコスト構造だ。Qualtricsのシステムでは、60秒ごとに約7万5000回の回答ボタンが押されている。その自由記述を全てトークン課金のAPIで処理すればコストが膨大になるが、自社ホスティングならコンピュートとストレージの費用だけで済む。大量処理にはLlamaを、高度な柔軟性が必要な場面では別のモデルを、といった使い分けが不可欠だ。

 また、政府の規制や技術進化により、モデルが使えなくなるリスクもある。特定のモデルに依存せず、状況に応じて迅速に切り替えられる柔軟性は、プラットフォームとして不可欠だ。

――「SaaS終焉(しゅうえん)論」に代表されるように、AIは既存ビジネスを破壊するとも予想される。Qualtricsの優位性はどこにあるか。

アンダーソン氏: 企業を評価するときに最初に立てる問いは、「他の誰も持てない固有のデータセットを持っているかどうか」ということだ。それがない組織は、AIの影響をネガティブに受ける可能性があると考えている。

 その点で、Qualtricsには、20年分にわたる人間の行動や選好に関するデータが蓄積されている。その大部分は外部に公開されない企業の内部データ(サーベイや通話記録)だ。これらを匿名化、集計して活用することで、人間の行動を予測する能力が生まれる。この膨大なデータセットこそが、汎用(はんよう)的なLLMを拡張、強化できるわれわれの核心的な競争優位だ。

――技術ロードマップは。

アンダーソン氏: 次のフェーズは、理解から行動へのギャップを埋めることだ。実態として、顧客フィードバックに対する企業のフォローアップ率は、業界平均でわずか1〜2%にとどまっている。リソース不足ゆえに聞いて終わりになっているのが現状だ。

 ここに、今回強化した「Agentic AI」を投入する。AIがフィードバックの背景を即座に理解し、適切なアクションを自律的に実行する。

 顧客の声を受けて企業が適切に対応すれば、ブランドへの信頼は高まりやすい。Qualtricsは、こうした対応をAIでより多くの顧客に広げることを目指している。

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