SAPが「自律型エンタープライズ戦略」を始動 AIエージェントが業務を自動実行する時代へ:ITニュースピックアップ
SAPはAI基盤「Business AI Platform」と自律運用群「Autonomous Suite」を発表した。財務や人材、調達分野のAI機能を拡充し、設備保全やERP移行支援も強化。Anthropic、AWS、Google Cloud、Microsoft各社との協業拡大も示した。
SAPは2026年5月13日、年次イベント「SAP Sapphire 2026」で「自律型エンタープライズ構想」を発表した。AIを業務基盤に深く組み込み、企業内の重要業務を自動実行できる環境を整備する。
新たにAI統合基盤「SAP Business AI Platform」(以下、Business AI Platform)と、自律実行機能群「SAP Autonomous Suite」(以下、Autonomous Suite)を投入し、財務や調達、人材管理、サプライチェーン、顧客対応など幅広い分野でAI活用を拡大する方針を示した。
AIエージェントが創出する新たな収益機会
クリスチャン・クラインCEOは、企業の基幹業務では高精度と安全が不可欠だと説明した。Business AI PlatformとAutonomous Suiteを統合することで、AIエージェントを業務プロセスやデータ、ガバナンスに組み込み、正確性や法令順守を確保し、成果につなげる狙いがあると述べた。AI活用を通じ、新たな収益機会の創出とコスト削減を支援する考えも示した。
SAP Autonomous Suite
Business AI Platformは、アプリ開発・拡張を担う「SAP Business Technology Platform」(SAP BTP)と次世代データ基盤の「SAP Business Data Cloud」(SAP BDC)、そしてビジネス特化型AI群の「SAP Business AI」を単一環境へ統合したものだ。企業データやAIモデル、開発環境を統合管理し、AIエージェントの構築や運用を容易にする。
中核機能と位置付けるのが「SAP Knowledge Graph」だ。SAP環境全体に存在する業務データやプロセス、各種エンティティー間の関係を構造化し、AIエージェントへ提供する。AIは単純な文書生成だけでなく、業務文脈を踏まえた判断や実行が容易になる。
開発ツール群「Joule Studio」も投入する。ノーコード開発やプロコード開発、外部AIフレームワーク利用に対応し、開発者やパートナー企業が独自エージェントを構築できる。SAP管理下のインフラで動作するため、企業利用に必要なセキュリティや拡張性も確保する。
SAP Autonomous Suite
新設したAutonomous Suiteにおいて、SAPの既存アプリケーション群にAIエージェント機能を追加実装する。50超の「Joule Assistant」を各業務領域へ展開し、200超の専門AIエージェントを連携させて業務を自動化する。個別タスク処理だけでなく、エンド・ツー・エンド型の業務運用も担う。
Autonomous Close Assistant
財務分野では「Autonomous Close Assistant」を投入する。仕訳入力や照合、エラー修正など決算関連業務を自動化し、数週間を要していた決算処理を数日規模へ短縮できる見通しを示した。
Industry AI
業界別AI機能群「Industry AI」も発表した。業界固有の業務ロジックやデータモデル、規制要件を組み込んだ7種類の自律ソリューションを提供する。
SAP Sapphireにおいて、欧州エネルギー大手RWEとの協業事例も紹介した。洋上風力発電設備の停止時間削減を狙い、AIが障害履歴を分析し、原因候補を抽出する。修理手順や必要工具、他の拠点で利用実績のある修復方法を盛り込んだ作業指示書も自動生成する。
Joule Work
ユーザーインタフェース面では「Joule Work」を公開した。従来型ERPのように複数画面を移動して入力する形から転換し、利用者はAIアシスタント「Joule」に業務目標を指示する形へ移行する。Jouleがワークフローやデータ、各種AIエージェントを自律的に組み合わせ、一連の業務処理を実行する。
Joule Workは利用者の操作を待つだけではなく、関連情報や分析結果を能動的に提示する。定型業務の自動実行機能も備え、利用者が直接操作していない時間帯でも処理を進められる。SAP製品以外の外部システムにも対応し、デスクトップやモバイル、音声インタフェースから利用可能とした。
導入支援の拡充
導入支援策も拡充する。SAPはAI導入促進を目的に、SAPパートナー用1億ユーロ規模のファンドを設立した。パートナー企業はJoule Studioを使い、独自AIエージェントの開発や機能拡張を進められる。
クラウドERPへの移行支援策も強化する。「RISE with SAP」および「GROW with SAP」へJoule Assistant群を標準実装し、利用企業へ即座にAI機能を提供する。RISE with SAP利用企業には初年度から3種類のアシスタントを有効化し、GROW with SAPの利用企業には全機能へのアクセス権を付与する。「SAP S/4HANA」オンプレミス版や「SAP ECC」利用企業にもAI機能を提供し、クラウド移行時の負担軽減を狙う。
移行支援の拡充
AI活用型の移行支援ツールも投入する。システム分析やコード修正、設定変更、テスト作業などを自動化し、ERP移行作業を35%超削減できる可能性があるという。移行プロジェクトの短期化や予測精度向上へつなげる考えだ。
戦略提携も拡大した。Anthropicの大規模言語モデル「Claude」をSAPのAIとして採用し、人事や調達、サプライチェーン分野のAI機能を強化する。Amazon Web Services(AWS)とはBusiness Data Cloudと「Amazon Athena」間のゼロコピー型データ統合を実現する。
Microsoft連携
Google CloudとMicrosoftとは、各社のプラットフォームを跨いだAIエージェント間の相互連携技術を推進する。「Mistral AI」と「Cohere」はSAPクラウドで利用可能なソブリンAIモデルを提供する。n8nはJoule Studioへ視覚型ワークフロー機能を提供し、NVIDIA OpenShellは安全性を重視したAI実行環境を担う。Parloaは「SAP Service Cloud」へAIエージェントを統合し、顧客対応業務の高度化を支援する。
導入支援分野において、PalantirやAccentureが大規模データ移行案件で協業する。ConductはAI活用型クラウドERP移行を支援する役割を担う。
SAPは今回の発表を通じ、ERP中心企業からAI駆動型業務基盤企業への転換を鮮明にした。企業内データや業務プロセス、AIエージェントを統合し、業務運営の自動化範囲を広げる構えだ。
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