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「AI単体のROI計測は難しい」 カプコンが明かす「創造性」を高めるためのAI投資「Google Cloud Next 2026」現地レポート

「Google Cloud Next '26」にカプコンらが登壇。同社はAIエージェントの活用で月3万時間を削減し、クリエイターが「面白いコンテンツ」作りに集中できる環境を構築した。先進3社が語るAI投資の「ROI論」とは。

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 Google Cloudは2026年4月、米国ラスベガスで開催した年次カンファレンス「Google Cloud Next '26」で多数の事例を公開した。カスタマーパネルセッションでは、日本からゲーム大手カプコンの担当者が登壇し、AIエージェントを活用したゲーム開発の効率化について詳細を明かした。米金融大手のCitiや北米ホームセンター大手のThe Home Depotとともに語られたカプコンの事例は、ゲーム業界にとどまらないエンタープライズAIの可能性を示すものとなった。


左からCitiのアンディ・ジーク氏、The Home Depotのアンジー・ブラウン氏、カプコンの井上真一氏

フルスタックAIで実現するエージェント企業の時代

 セッションの冒頭、Google CloudのCPBO(最高プロダクト・ビジネス責任者)を務めるカーシック・ナレイン(Karthik Narain)氏は、プロダクトエンジニアリングやカスタマーサクセスなどの市場戦略を兼任する立場から、企業がAIを大規模に採用するための条件として「エンタープライズデータへのグラウンディングを伴った推論の質」「低遅延によるリアルタイムインテリジェンス」「スケールを支えるコスト効率」の3つを挙げた。

 グラウンディングとは、AIモデルの回答を企業固有のデータや事実に基づかせることで、ハルシネーションを抑制し、信頼性を高める技術的アプローチを指す。「構造化、非構造化データベースとアプリケーションを横断してリアルタイムに情報を整理し、ナレッジグラフでグラウンディングできなければならない」とナレイン氏は話す。

 低遅延によるリアルタイムインテリジェンスについては、「AIの体験がもたついていたり、リアルタイム情報が得られたりしなければ、採用は広がらない」と言う。

 スケールを支えるコスト効率の「スケール」については、「組織の一部でしかAIを使えないなら、価値は生まれない。効率的で予測可能なコスト構造が必要」と多くの企業を見てきた経験から語る。「ジェヴォンズのパラドックス」(注)に例えて、「技術コストが下がれば採用は加速する。Googleはその効率性を常に追求してきた」とナレイン氏は述べた。

注:技術革新によって資源の利用効率が向上すると、その分コストが低下して需要が拡大し、結果として資源の総消費量がかえって増加する現象。19世紀の英国経済学者ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズ氏が提唱した。

 ナレイン氏はオープン性も強調し、「(Googleがオープンソースにした)Kubernetesのオープンソース化の時代から、Agent-to-Agent(A2A)プロトコル、そして今回発表したエージェンティックデータクラウドまで、われわれはオープン・バイ・デザインを貫いている。データをどこに置いていても、Googleの推論とAI能力を活用できる」と語った。

カプコン:創造性を取り戻せ AIエージェントで月3万時間の削減


井上真一氏

 カプコンは1979年に大阪で創業し、以来40年以上にわたりビデオゲームの開発、販売を手掛けてきた。同社の井上真一氏(CS 第二開発統括 システム基盤部 部長)は、「40年以上前は、1つのゲームを作るのに5〜10人程度のチームで十分だった。しかし現在は、世界中のエンジニアやクリエイターが関わり、1タイトルの開発チームが数百人から数千人規模に膨れ上がっている」と述べる。

 カプコンとGoogle Cloudのパートナーシップは長年にわたる。最初はGoogle Cloudでゲームのプレイ環境を提供することから始まり、ユーザーの行動データをクラウドに蓄積するようになった。その積み重ねが今回のAI活用の土台となっている。

 「Google Cloudにあるユーザーデータと、クリエイター向けに社内で提供するAIソリューションは親和性が高い。リアルタイムで膨大なユーザーデータにアクセスできることで、意思決定のリードタイムがかなり短くなった」と井上氏は語る。

 ゲームユーザーの行動データとクリエイターの開発プロセスがシームレスにつながることで、「ユーザーが今こう感じている」という情報を開発判断に反映できる環境が生まれているのだ。

 一方、規模の拡大とともに深刻化したのが、定型業務の肥大化だ。開発後期になるほどエンジニアはテストや既存コードの維持、管理に追われ、新しいアイデアや革新的な試みに割けるリソースが失われていく。カプコンはこうした状況を「守りの開発」(Defensive Development)と呼んでいる。

 この構造的な問題に対してカプコンが取り組んだ解決策が、AIエージェントによるルーティンワークの自動化だ。「ゲームを作る中には、クリエイティブな仕事とそれに付随する定型的な業務がある。高度な専門性を持つクリエイターには、できるだけ創造的な仕事に集中してもらいたい」(井上氏)。

 その代表例がプレイテストの自動化だ。カプコンはGoogle Cloudの「Gemini Enterprise Agent Platform」を活用し、画面を「見て」判断するビジュアルインスペクションエージェント、バグ発生リスクを予測する予測エージェント、ベテランの知見を蓄積するナレッジ継承エージェント、技術ログを要約するデータ効率化エージェントなど、複数の役割を担うエージェント群を開発した。

 「Monster Hunter Stories 3」などのタイトルでエージェントプレイテストを実施しており、「あるプロジェクトでは月3万時間の削減ができた」と井上氏は明かした。

 カプコンが評価指標として最も重視するのは数値的な効率化ではない。「エンターテインメントをなりわいにしているわれわれにとって最も重要なのは、面白いコンテンツを届けること。この一点に尽きる。技術は全て、面白くできるかどうかで評価している」と井上氏は言い切った。

金融・小売でも広がるエージェントAI

 同セッションに登壇したCitiとThe Home Depotの事例も、エージェントAIの広がりを示している。


アンディ・ジーク氏

 CitiはGoogleの技術を使ってAIアシスタント「Citi Sky」を開発した。同社でウェルス部門を率いるアンディ・ジーク(Andy Sieg)氏は、「ATMが1970〜80年代に銀行の新たなチャネルをもたらしたように、Citi Skyはまったく新しい顧客接点の層、インテリジェンス層を導入するものだ」と説明する。

 顧客がいつでも質問したり行動したりできる環境を実現するもので、Google DeepMindのリアルタイムアバター技術とGeminiの音声・映像モデルを活用し、低遅延の自然な対話を可能にするという。今夏よりCitigold顧客向けに米国で段階的に提供開始を予定している。


アンジー・ブラウン氏

 北米を中心に展開するホームセンター大手The Home Depotからは、CIOのアンジー・ブラウン(Angie Brown)氏が登場し、AI音声エージェントによる電話対応の取り組みを紹介した。

 同社の「Gemini Enterprise for Customer Experience」をベースにしたAIアシスタント「Magic Apron」には、45年分のホームインプルーブメントに関する知識が蓄積されているという。ブラウン氏は「われわれの深い専門知識を、あらゆる顧客接点で届けることが目標だ」と語る。

 50店舗でのパイロット運用では、店舗への電話問い合わせに対してAI音声エージェントが顧客の意図を10秒で把握し、従来の自動音声メニュー(IVR)と比較して4倍速く対応可能なことが確認されたという。

 AI投資のROIについては、カプコンとCiti、Home Depotの3社が共通して「AI支出を単独で切り出すのは難しい」と述べた。例えばHome Depositのブラウン氏は「どのユースケースでもコストベネフィットを測定するが、AIかどうかに関わらず、解決しようとしている戦略的な課題が出発点だ」と語った。Citiのジーク氏は「AIはわれわれのテクノロジーのあらゆる側面を変えつつある。年間110億ドル超のテクノロジー支出においてAIだけを切り分けることはもはや不可能に近い」と述べた。

 カプコンの井上氏もこの見解に同意しつつ、「効率化できた、削減できたということより、そのおかげでクリエイターが創造的なことに集中できたという価値の最大化を重視している」と改めて強調した。

(取材協力:Google)

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