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「AIはSaaSの敵ではない」 ServiceNow CEOが語る“SaaS終焉論”の誤解と共存「ServiceNow Knowledge 2026」現地レポート

「SaaS終焉論」が囁かれる中、ServiceNowのCEOビル・マクダーモット氏は「AIは思考するが行動作為はできない」と反論。他社製のAIも一元管理する新構想や、NVIDIAらの活用事例を交え、共存の現実と2030年に向けた成長戦略を語った。

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 AIによってSaaSが不要になる――いわゆる”SaaS終焉論”がSaaSベンダーの株価を下げている。ServiceNowも例外ではない。1年前に200ドル付近を推移していた同社の株価は現在、その半分ほどの価格で取引されている(執筆時)。

 だが、CEOとしてServiceNowを率いるビル・マクダーモット(Bill McDermott)氏は強気だ。「AIはSaaSを脅かすどころか、SaaSがなければ企業は(AIを)活用できない」とマクダーモット氏は話す。同社が米国ラスベガスで2026年5月5〜7日(現地時間)まで開催した年次イベントでの記者向けのセッションで、このような見解を語った。


ビル・マクダーモット氏(筆者撮影)

AIは「考える」が「行動しない」 SaaSが果たす役割は?

 生成AIやAIエージェントが業務アプリケーションのUIを変え、多くの操作を自動化するようになった。これがSaaSが不要になるのではないかという懸念を生み、SaaS終焉論につながっている。

 「市場では、ServiceNowを含むSaaS企業がAIによって恩恵を受けるのか、それとも打撃を受けるのかという議論が続いている。顧客にServiceNowをどう説明しているのか」――この問いに対してマクダーモット氏は「資本市場の議論とは戦わない」と前置きしつつも、「株式市場と顧客との間にはギャップがある」と述べる。それを示す動きとして、「言語モデル企業がサービスを持つ企業を買収しようとしている」とマクダーモット氏は指摘した。「言語モデルだけで業務は回らない。エンタープライズを運営することはできない」。

 株式市場をよそに「顧客側では全く異なることが起きている」とマクダーモット氏は話す。実際にイベントでは、多数の事例が発表された。その1社がKnowledgeに合わせて提携拡大を発表したFedexだ。

 FedExのグローバルネットワークが1日に生成する2ペタバイトのデータを、FedEx DataworksのインテリジェンスとしてServiceNowのワークフローに直接組み込み、サプライチェーンの混乱を検知して自動的に対処するソリューションを共同開発した。これにより、出荷遅延を検知した時点でワークフローが自動起動し、調達チームがシステムを切り替えることなくリアルタイムで意思決定できるという。

 「service to cash(受注から入金まで)」「hire to retire(採用から退職まで)」「procure to pay(調達から支払いまで)」――こうした一連の業務プロセスをAIが自律的に実行するためには、ルールとガバナンスを持つプラットフォームが不可欠だ、とServiceNowのプラットフォームの重要性を指摘した。

 「AIは考えることができる。しかし、行動はできない」とマクダーモット氏は役割の違いを主張する。LLM(大規模言語モデル)は確率論的に答えを返す。同じ質問を3回すれば、3通りの答えが返ってくることもある。それ自体は有益だが、企業の業務プロセスに適用するには根本的な問題がある。「エンタープライズに確率論的なソリューションは通用しない。毎回、正確に実行されなければならない」とマクダーモット氏。そして、「AIが思考し、ServiceNowが行動する」と両者は共存することを強調した。

 AIに対しては「不安を抱いていることは理解できる。だが、多くの人々は“AIのニュアンス”を十分に理解していない」とマクダーモット氏。人員削減の文脈でしか語られないことが多いが、それは本質ではないという。同氏は2030年までにドイツと英国、日本、米国の合計で5000万人のテック人材が不足するという見通しを示し、「AIは効率化ツールではなく、労働力不足を補う構造的な解決策だ」と位置付けた。

CRM、ITSMなどでの競合に自信、セキュリティは大きな投資分野

 このように、AIはSaaSの価値を否定するものではなく、むしろ逆だというのがマクダーモット氏の考えだ。AIが普及すればするほど、その下にあるSaaSの重要性が高まるとする。

 AI時代のServiceNowの役割を決定づける技術が、「AI Control Tower」だ。根底にあるのは、自社のエージェントだけでなく、他社のエージェントも含めて一元管理する「エージェントのエージェント」を目指すというビジョンだ。これは”プラットフォームのためのプラットフォーム”というこれまでの戦略からの飛躍となる。

 このビジョンを支えるのが、近年相次いだ買収だ。Veza(アイデンティティーガバナンス)、Armis(OT・IoTセキュリティ)、そしてMoveWorks(AIエージェント)の3社は、いずれもガバナンスを補強するものとなる。イベントでは、MoveWorksが従業員が自然言語で社内のあらゆるシステムを操作する「Otto」として発表された。今後は、既存の「NowAssist」がこの下に入ることになる。マクダーモット氏はAIが自律的に処理を完結させることから、Ottoを「エージェティック・フロントドア(エージェントの窓口)」と称した。

 マクダーモット氏は「われわれは他社のエージェントも管理する。他社はわれわれのエージェントを管理できない。なぜなら、彼らはわれわれと同じことを同じやり方ではできないからだ」と差別化を強調した。

 だが競争は激化している。ServiceNowがCRM領域に拡大しているように、CRM領域を得意とするSalesforceはServiceNowの土壌であるITSM(ITサービス管理)領域への拡大を進めている。ITSMではAtlassianもアグレッシブだ。また、ハイパースケーラー側もインフラ側からテリトリーの拡大を図っている。

 マクダーモット氏は、まずハイパースケーラーについて「Amazon Web Services(AWS)、Google Cloud、Microsoft Azureはわれわれのプラットフォームとの統合を深化する良好な関係」と述べる。ハイパースケーラーとの契約(コミットメント枠)からServiceNowの利用料を充当できる仕組みを整えている点も強調した。

 ServiceNowが狙う領域として挙げたのは、セキュリティやCRM、従業員体験、アプリケーション開発などだ。セキュリティでは、「既に10億ドル超のビジネスだが、Armisの買収によって数十億ドル規模に拡大する。さらにVezaがアイデンティティー管理を担うことで、AI Control Tower構想が実現する」という。さらには「2031〜32年までに、セキュリティがServiceNow最大の事業になってもおかしくはない」と述べた。

 CRMではNVIDIAを例にとって、「NVIDIAのスーパーコンピュータの受注はかつて、最も複雑な業務の一つだった。膨大な構成オプションと価格設定、見積もり、そして出荷――数日かかることも珍しくなかった。それをServiceNowが解決した。今では数分で完了している」と紹介した。

 「ServiceNowはNVIDIAのビジネスを変えたのだ」とマクダーモット氏は胸を張る。「受注管理や出荷、カスタマーサービスを1つのプラットフォームで完結させる。これがServiceNowのCRMだ。既に、AIを活用して新興市場に直接参入したり、ハードウェアビジネスをサービス型収益モデルに転換して利益を拡大したりする顧客もいる」と続けた。

 主力事業であるITSMについて、マクダーモット氏は自社を「ITにおけるERP」と位置付ける。低価格帯市場で競合の参入が相次いでいる事実に触れつつも、「このコア領域は絶対に他社には渡さない」と強い自信をのぞかせた。

 マクダーモット氏の自信を裏付けるのが財務指標だ。2019年のCEO就任時に約35億ドルだった売り上げは、2025年には約160億ドルに達した。就任時の売上規模に相当する新たな事業が、毎年生まれていることになる。「毎年新しいServiceNowが生まれている」と同氏は話す。

 今後の見通しとして、マクダーモット氏は会期中に開催されたFinancial Analyst Day 2026で「2030年までに300億ドル以上のサブスクリプション売上達成」とコミットを示している。「これは私一人の野心的な数字ではなく、経営チーム全員がボトムアップで積み上げ、信じている数字だ」。実際に、契約済みの将来収益を示すRPO(残存履行義務)は既に約300億ドルと、現在の年間収益の約2倍に積み上がっているという。「RPOが収益の2倍あれば、健全な企業だ」と述べた。

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