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「AI単独の導入は“失敗のレシピ”だ」 ServiceNowの製品トップが語る、企業AIの盲点「ServiceNow Knowledge 2026」現地レポート

AIの挙動が見えず不安を抱える企業に対し、ServiceNowの製品トップは「土台なしのAI単独導入こそがそのリスクを生む」と指摘する。同社が打開策として注力するAI制御塔戦略や企業買収の真意をKnowledge 2026で聞いた。

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アミット・ザヴェリー氏

 「AIだけを単独で導入するのは“失敗のレシピ”だ」――ServiceNowでプラットフォームおよびプロダクト全体を統括するアミット・ザヴェリー(Amit Zavery)氏(社長、CPO《最高製品責任者》 兼 COO《最高執行責任者》)はそう断言する。

 Oracleで25年のキャリアを積み、その後、Google Cloudの売り上げを70億ドルから410億ドル超へ成長させた実績を持つ同氏は、技術変革の現場を第一線で見続けてきた。だからこそ、現在のエージェントAIブームの裏で、企業が「自社のAIが裏で何をしているか分からない」という深刻な不安を抱え始めている現実も敏感に捉えている。

 同社が「AI Control Tower」に注力する背景と今後のプラットフォーム戦略について、ServiceNowが2026年5月に米国ラスベガスで開催したカンファレンス「Knowledge 2026」で話を聞いた。

クラウド移行とは異なる「AIシフト」の速さ

――Oracle、Google Cloudで実績を積み、現在はServiceNowでAI時代に向けた体制を構築している。大きな変革を経験してきた中で、今回のAIシフトをどのようにみているか。

ザヴェリー氏: 一番大きな違いは「速さ」だ。クラウドへの移行は10年かけてゆっくり進んだ。企業には時間の余裕があり、自社のペースで段階的に対応できた。しかし、AIの進化と普及のスピードはそれを大きく上回り、企業に十分な準備期間はない。通常であれば5〜8年かかるような変化が、圧縮されたタイムラインの中で起きている。われわれ自身のロードマップでさえ、1年前の計画と現在の実装は大きく異なる。

 顧客側の関与度も全く異なる。クラウド移行の時代は、ITベンダー側が先行し、顧客がそこについていくという構図だった。しかし今は顧客自身も積極的に動いており、われわれも彼らとともに走らなければならない。

――ServiceNowはITSM(ITサービスマネジメント)企業として出発し、今や幅広い業務領域をカバーしています。その進化の軸にあるものは何か。

ザヴェリー氏: コアにある考え方は一貫している。「複雑なビジネスプロセスを結果に結び付ける」ということだ。ITで培った技術、つまり、インシデントの検知やトリアージ、解決というプロセスは、セキュリティやHR、財務、サプライチェーン、カスタマーサービスなど、あらゆる業務領域で応用できる。

 AIはこの延長線上にある。ただし、私自身は「AIだけを単独で導入するのは“失敗のレシピ”」と考えている。構造やサポート、セキュリティ、コンプライアンスという土台があって初めて、企業はAIの価値を安全に享受できる。AIを導入すること自体が目的になってしまうリスクは大きい。

なぜ今「AIの制御塔(Control Tower)」が必要なのか

――カンファレンスでの目玉の一つであり、今後のServiceNowの方向性を決定づけているのが「AI Control Tower」だ。なぜこの分野を手掛ける判断をしたのか。

ザヴェリー氏: AI Control Towerは、複数のAIエージェント間のオーケストレーションを担い、複数のLLM(大規模言語モデル)を統合管理する。エージェントが期待通りの結果を出すことを保証しながら、エンタープライズに求められるセキュリティとコンプライアンスを維持する仕組みだ。

 2024〜2025年から顧客の声が変わってきた。「AIが何をしているか、把握する手段がない」「AIの挙動を誰も制御できていない」「どんなセキュリティリスクがあるのか分からない」「全体の状況が全く見えない」という不安が次々と出てきた。

 そこで、ServiceNowがCMDB(Configuration Management Database:構成管理データベース)で長年培ってきたアプローチを応用できると考えた。CMDBはハードウェアやソフトウェアの資産を一元管理する。AIエージェントも「ソフトウェア資産」の一つだ。どう検知し、どう監視し、どう管理するか。この発想の延長でAI Control Towerを構築した。実際に、CMDBのメリットを感じている顧客はすぐに理解してくれた。

企業の負担をなくす「AI Specialist」の仕組み

――「Autonomous Workforce」(AI社員)および、それに含まれる役割ベースのAIである「AI Specialist」も強化している。どのような世界を描いているのか。

ザヴェリー氏: HRやIT、カスタマーサービスなど業務領域ごとに約20種類のAI Specialistを用意している。通常であれば人間が2日かかる処理を20分で完了できるものもある。

 AI活用を推進するためには、従来のアプローチでは企業が多大なコストと労力を強いられた。AIのパーツを自分で調達し、組み合わせ、テストし、デプロイしなければならない。しかもそれで終わりではない。AI技術は急速に進化しており、デプロイした翌日には新しいモデルや手法が登場する。その変化を追い続けながら、セキュリティやコンプライアンスも維持しなければならない。これはほとんどの企業が望む姿ではない。AI Specialistはその発想を根本から変える。

 ITチケットの対応であれば、レベル1からレベル3のサポートエンジニアに相当するスキルを持つAI Specialistが、管理コンソールに自動的に表示される。担当者はそこから必要なAI Specialistを選んで追加するだけだ。新たなプラットフォームの導入や複雑なアーキテクチャ設計は不要で、数週間で稼働できる。

 われわれも社内で検証している。そこから得た教訓の一つが、「最初から広げすぎない」ことだ。まず社内で最も多く寄せられる問い合わせや依頼を洗い出し、上位4〜5件に絞り込む。そのユースケースに限定してAI Specialistを徹底的にチューニングし、解決率がどれだけ上がったかをメトリクスで確認する。土台ができてから対象を広げていく。この順序を守ることが定着につながる。

3社の戦略的買収でそろった「必要なピース」

――Armis、Vesa、Moveworksという3件の買収が相次いた。それぞれはどのような位置付けか。

ザヴェリー氏: いずれも、AI戦略の「穴」を埋めるための買収だ。

 Armisは、IoTデバイスやOTデバイス、医療機器など、IT以外の物理的な資産のサイバーセキュリティを専門とする。ServiceNowのCMDBと統合することで、ITとOTの資産を一つのスタックで可視化、管理できるようになる。製造業の多い日本をはじめ、規模の大きなOT環境を持つ企業にとっては特に重要な組み合わせになる。買収が完了したばかりで、現在CMDBおよびOT、ITシステムへの統合を進めているところだ。

 Vesaは、AIエージェントのアイデンティティーガバナンスに特化している。AIエージェントが増え続ける環境では、「何が、どの権限で、何をするか」の管理が極めて重要になる。VesaはすでにAI Control Towerに統合済みで、稼働を開始している。

 「MoveWorks」はAIネイティブの従業員体験ソリューションだ。これまでITはIT部門、HRはHR部門とバラバラに問い合わせる必要があった。MoveWorksの統合により、従業員が部門をまたいで一カ所から質問、依頼でき、その場で解決される体験を実現する。

 「必要なものはそろった」というのが正直な認識だ。今後も小規模な買収は続けるが、大型の買収を急ぐつもりはない。

――AnthropicやOpenAI、Google、Microsoftなど、競合になり得る企業とも提携している。「誰でもウエルカムだ」と基調講演で述べたが、このようなオープン戦略と競合のバランスをどのように捉えているか。

ザヴェリー氏: ソフトウェア業界は昔からそういうものだ。どの企業とも競合でもあり、パートナーでもある。

 重要なのは役割の違いを理解することだ。これらの企業は「テクノロジーを作る」のが得意だ。しかし、そのテクノロジーをエンタープライズの現場で機能させる「ソリューション」を作るのはわれわれだ。彼らはその点でServiceNowを必要としている。エンタープライズ顧客はわれわれのプラットフォームを使っており、彼らはその顧客に届けるためにServiceNowと組みたいと考えている。

 「AIがServiceNowを置き換える」という議論もあるが、現実は逆だ。OpenAI、Google、Anthropicといった企業がわれわれのもとに来て、一緒にやろうと言っている。

「月次リリース」への移行がもたらす顧客の選択肢

――2026年4月に月次リリースへの移行を発表した。顧客への影響をどうみているか。

ザヴェリー氏: 今回のリリース変更の根底にある考え方は「顧客に選択肢を与える」ことだ。月次リリースを望む顧客はそれを選び、引き続き6カ月サイクルを望む顧客はそれも選べる。われわれがリリース頻度を決めるのではなく、顧客が自分の環境に合わせて判断する。

 新機能を開発しても、半年ごとのリリースを待たなければ顧客に届けられない――そこに合理性はないと考えた。一方で、安定性を最優先にしたい顧客がいることも理解している。月次でリリースしながら、6カ月分をまとめたパッケージ更新も継続する。この両立がソリューションを提供する側の責任だと考えている。

――最後に、AI導入を検討している日本企業へのアドバイスを。

ザヴェリー氏: まず、AI技術を単独で買おうとしないことだ。安全で信頼性の高いプラットフォームから始めること。これは特に、製造業やインフラ企業など、OT環境を抱える組織にとって重要だ。

 可視性と制御――この2つが、企業におけるAI導入の出発点だ。自分のAIエージェントが何をしているかを把握し、制御できるという確信がなければ、どれだけ優れたAI技術も現場では機能しない。AI Control TowerとArmisの組み合わせから始めることを、多くの顧客に勧めている。技術変革の速さが増す中で、最も重要なのは「速さ」ではなく「信頼」だ。

(取材協力:ServiceNow)

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