「生産性は上がったがROIが見えない」 AI活用を成果につなげるデータ基盤の条件
AIエージェントによる業務変革が進む一方、データの分散やコスト急増によってROIにつながらないケースが増えている。企業がデータやAIの主権を取り戻し、成果へつなげるための課題解決アプローチをClouderaに聞いた。
AIエージェントの企業利用が急速に進んでいる。AIエージェントは判断を伴う業務も対象にできるため、従来のチャットbotやコンテンツ生成にとどまらず、業務プロセスそのものを変革する可能性を秘めている。
一方で、データの分散化や推論コストの増加、セキュリティやガバナンスの確保といった課題が壁となり、PoC(概念実証)にとどまり具体的なROI(投資対効果)へつながっていないケースも多い。
そうした中、課題解決の鍵として「3つのAnywhere」と「3つの主権」を提唱するのが、ハイブリッドデータプラットフォームを提供するClouderaだ。同社が考えるデータ活用の未来とアプローチについて話を聞いた。
データ、クラウド、AIモデルで主権を取り戻すことが重要
──AIエージェントの企業利用や業務プロセスの自動化が進む中、どのような相談や課題が多く寄せられているのでしょうか。
山賀裕二氏(以下、山賀氏): 2026年に入ってからよく相談を受けるのが、AIのROIをどう上げていくかである。AIによって一人一人の生産性は確かに向上した。ただ、それをマネジメントが把握し、経営目標を実現するための数字として計測していくことは簡単ではない。
今後、AIエージェントが広まる中で、複数の業務にまたがって効果を確認する必要がある。一方で、ROIを計るためにはユーザーへのアクセス権やガバナンス、セキュリティなどのリスクの可視化が必要だ。業務変革や企業変革に向けたROI向上が大きなカギになっている。
──具体的には企業はどんな課題に直面しているのでしょうか。
山賀氏: 課題の一つは、データが分散してコントロールが効かなくなっていることだ。例えば、製品や出荷に対する問い合わせの業務でSaaSを利用しているとする。一般的には問い合わせを受けたとき、人が間に入って生産側や物流側の部門と調整する。AIエージェントの目的の一つは、こうした人の介在をスキップして処理を自動化することにある。しかし実際は、生産側のデータがオンプレミス環境に閉じ閉じられているといった理由から、AIエージェントがデータにアクセスできず、人の作業を代替できない。その結果、本来期待されていた業務効率化や自動化が進みにくくなってしまう。
また、AIが生成したアウトプットに対する説明責任の確保が困難である点も課題だ。AIが利用するデータがどこから取得され、どのように加工・活用されたのかというプロセスが可視化されていないため、最終的な出力結果に対して人間側が責任を持てなくなってしまう。
──従来のデータ管理の課題がAIの進展でより明確になったとも言えそうです。
山賀氏: データの課題に加えて、AI特有の課題やクラウド管理の課題もある。特に近年相談を受けるのはAIの推論コストの増加だ。
クラウドのLLM(大規模言語モデル)でPoCを実施し、本番運用へ移行すると、扱うデータやプロセスが急増して想定外のコストが発生することが多い。コストが予想通り収まったという企業は、ほとんど見たことがない。一方で、オンプレミスでLLMを運用・管理しようとすると、基盤構築や運用管理のコストが膨らむ。さらに、LLMや基盤のバージョンアップを継続的に担う人材をどう確保するかという問題も生じる。
このように、企業はデータ、クラウド、AIモデルという3つの領域で課題に直面している。解決の鍵は、これら3領域に対するコントロール(主権)を自らの手にとり戻すことだ。
主権を取り戻すためには「3つのAnywhere」を実現することが重要
──企業はどのようにしてコントロールを取り戻せばよいのでしょうか。
山賀氏: Clouderaでは、企業自らがコントロールを取り戻した状態のことをデータ主権、インフラ主権、モデル主権と呼んでいる。これら3つの主権を確立していくことが不可欠だ。
データ領域においては、さまざまな場所にデータが分散しているからこそ、データをむやみに移動させず横断的に参照し、分散した状態のままどこからでも扱えるようにすることが重要となる。例えば、工場や店舗などのセンサーから収集されるデータやAIデータなどを含めて、どのデータがどこからきてどう処理されているか、データのリネージ(生成・加工履歴)を把握し可視化できるようにする。これによって監査性が高まり、データに対する説明責任を果たせるようになる。Clouderaでは、どこからでもデータを使えるようにする考え方を「Data Anywhere」と呼んでいる。
インフラについては、オンプレミスからクラウドまでさまざまな環境をまたぎ、一貫したガバナンスのもと制御できるようにする。パブリッククラウドは、「Amazon Web Service」(AWS)、「Microsoft Azure」(Azure)、「Google Cloud」(GCP)など複数のサービスを必要に応じて使い分けているため、一貫したガバナンスで制御できる。さまざまなクラウド環境を使えるようにする考え方を「Cloud Anywhere」と呼んでいる。
AIについても同様だ。クラウドのさまざまなLLM、オンプレミスのローカルLLMはもちろん、増え続ける推論コストを適切に管理しながらROIを向上させる。例えば、ローカルに1つのバケツを用意しておき、業務の重要度に応じてLLMを使い分けるといったアプローチが考えられる。どこでもAIを使えるようにする考え方を「AI Anywhere」と呼んでいる。
──3つのAnywhereを実現することが、データやインフラ、AIの主権を取り戻すことになるのですね。
山賀氏: そうだ。主権を持つということは自分たちがコントロールする権利を持つということだ。現在はベンダーに100%ロックインされない状況を作ることは困難だが、できるだけニュートラルな状態を維持することは可能だ。そうすることで環境変化に柔軟に対応できるようになる。近年のAIの進化を見れば明らかなように、今後テクノロジーは想定を上回るスピードで進化していくだろう。その中で自分たちの意思で変化に対応していくことが重要だ。
データを仮想的に統合し、場所を問わずに活用・管理できるようにする
──Clouderaのオープンソース(OSS)をベースとする強みや、ベンダーロックインを防ぐアプローチについて教えてください。
吉田栄信氏(以下、吉田氏): Clouderaは2008年の創業以来、データレイクハウスやAIプラットフォームなどを提供し、ハイブリッド環境でのデータ活用を支援してきた。その中で重視しているのがOSSの価値を生かした非ロックイン環境の提供だ。
多くのクラウドベンダーもOSSを活用しているが、自社仕様にカスタマイズして製品をラップして提供することが多く、他環境への移行が難しくなり、結果的にロックインが進んでしまう。これに対しClouderaでは、OSSはできるだけ標準のまま提供し、必要な機能を全てアドオンで付加するアプローチをとっている。
──分散したデータを統合するために、どのようなアプローチをとっているのですか。
吉田氏: 分散したデータを一カ所に統合するのではなく、分散したまま一貫して扱うことでデータ統合を実現するというアプローチだ。
具体的には、AWSやAzure、GCPといったクラウドのデータ、オンプレミスのOracleなどのデータ、さらにはSnowflake、Databricks、Clouderaといったデータプラットフォーム内のデータや、Spark、Flink、DuckDBなどのクエリエンジンで処理されたデータなどを対象としている。これらをオープンテーブルフォーマット(OTF)である「Apache Iceberg」によって統合し、企業自らが主権を持つストレージとして構成する仕組みだ。
これらのデータに対しては、「Cloudera Trino」や「Cloudera SDX」(Shared Data Experience)を活用することで、データの仮想化と一元的なアクセス制御を実現する。さらに、データカタログを使ったリネージの管理やデータの可視化、メタデータ管理も可能だ。これにより、データが発生した瞬間に価値へ変える「Data in Motion」という考え方を推進している。
AIエージェントが安全にデータにアクセスし、自律的に業務処理
──データ統合だけでなく、それらのデータをAIやAIエージェントで安全に活用するための仕組みはどうなっているのでしょうか。
吉田氏: AIについてもアプローチは同じだ。利用する複数のAIモデルは、「Cloudera AI」という基盤で管理する。この基盤では、AIモデルとAIアプリの開発環境である「AI Workbench」と、AIモデルとAIアプリの稼働環境である「AI Inference Service」を提供し、1つの基盤でマルチLLMを安全に利用できるようにする。
近年、AIエージェントを活用する際にオンプレミスやクラウドに分散したデータにどうアクセスするかが課題になっている。AIのアウトプットに対する説明責任の課題もある。そこでClouderaは、AIエージェントを集約し、MCPによるアクセスを一元管理することで、セキュリティとガバナンスを確保する。具体的には、ソースから消費先までのルートを特定し、AIが参照するデータの信頼性を確保する。また、一貫したアクセス制御、データマスキング、監査ログの取得もする。
──特定クラウドへの依存を防ぎ、多様な環境を柔軟に活用するための仕組みについて教えてください。
吉田氏: クラウドについても同様で、モジュールやアーキテクチャ、インフラに依存せず、ユーザーに選択の自由を提供する。
まず、全ての環境をコントロールする「Cloudera AWC」コンソールがある。データウェアハウスやストリーム分析、ワークフローオーレストレート、AIなどのエンジンはClouderaのマーケットプレースから自由に選択できる。クラウドベンダーやオンプレミスのインフラは、Kubernetesサービスで共通基盤化され、それぞれの環境に依存することなく利用できる。Google Cloudのデータ分析サービスと、AzureのIoTサービスを組み合わせて利用し、統合管理できる。
──AIのROIを向上させていくかどうかが課題とのことでした。どう解決できるのでしょうか。
山賀氏: AIエージェントが自律的に業務処理をする環境を作っていくことがカギになる。
例えば、顧客から商品や在庫の問い合わせがあったとき、AIエージェントが自律的に工場のデータを見て、データを安全に管理しながら必要な回答を素早く返す。回答を返すだけでなく、在庫の手当てや必要なタイミングで人が介在し、受発注などの業務処理まで自律的に実施できるようになるとROIに大きく寄与できるようになる。
今はまだデータが分散しており、安全にデータにアクセスする環境も整っていない状況だ。チャットbotで問い合わせに対する回答はできても、業務処理までは進んでいない。AIエージェントが自律的に業務処理する環境を目指して取り組みを進める企業が増えてきている。
──これからの時代に向けて、企業や経営層が意識すべきリーダーシップや組織の在り方についてメッセージをお願いします。
山賀氏: 自分たちの主権を持つことが重要な時代に入っている。主権の在り方は企業ごとに異なっている。自分たちの主権とは何か、それに必要なテクノロジーは何かを考え続けることが求められている。その役目を誰が担うかも重要だ。CEO(最高経営責任者)なのか、CIO(最高情報責任者)なのか、CDO(CDO)なのか。米国ではデータ&AI最高責任者(CDAIO)という役職も生まれている。企業の中での責任の持ち方、リーダーシップの取り方をあらためて考え直すタイミングだ。そうしたお手伝いも含めて企業の取り組みをサポートしていく。
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