検索
インタビュー

セキュリティ監視の現場に異変? "人間の2.5倍に増えた"不審な挙動の主とは

クラウドストライクが年次の「脅威ハンティングレポート」2026年版を発表した。全世界の顧客環境を24時間365日監視する同社チームは、この1年で不審な振る舞いにこれまでにない変化を観測したという。人間の操作を上回ったものは何か。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 セキュリティベンダーのクラウドストライクは2026年9月10日、「2026年版脅威ハンティングレポート」を国内で発表した。米国では8月3日(現地時間)に公開されている。同レポートは、同社の脅威ハンティングチーム「OverWatch」が顧客環境で実際に発見し、対応した脅威事案を毎年まとめているものだ。発表に合わせて開かれたオンライン記者説明会では、クラウドストライク合同会社の鈴木滋氏(執行役員 セールスエンジニアリング本部 本部長)が内容を解説した。

 OverWatchはエンドポイントやアイデンティティ、クラウドなど企業環境全体から1日約7兆件のイベントを収集する。AIによる分析で調査が必要な兆候(検知リード)を1日約1400万件に絞り込み、専門のハンターが精査した上で年間約3万6000件の不審な振る舞いを顧客に通知している。今回のレポートによると、侵入アクティビティ全体の増加は前年から約4%にとどまった。前年版で報告された27%増からは鈍化したが、同社はこれを攻撃の沈静化ではなく、攻撃者が単純な大量攻撃をやめて複雑なキャンペーンの開発に時間とリソースを移した結果だとみている。

 一方で2026年版には、これまでのレポートには見られなかった変化が記録された。不審な振る舞いを引き起こす「主体」に関する変化だ。

不審な振る舞い、人間を上回ったのは

 その主体は、「AIエージェント」だ。2026年第1四半期に、AIエージェントが引き起こした不審な振る舞いの検知リード発生率は、人間の操作によるものの2.5倍に達した。従来は人間による操作が大半を占めていたが、その関係が逆転した。


AIエージェントに起因する検知リードの発生率は人間の操作の2.5倍に達した(出典:クラウドストライクの記者説明会資料)

 背景には、AIツールやエージェントが自律的にWebサイトへアクセスし、スクリプトの実行やパッケージのダウンロードを担う機会が増えたことがある。鈴木氏は説明会で、AIエージェントが良かれと思って汚染されたパッケージを取得し、組織内にリスクを持ち込む事例が起きていると説明した。

 レポートは、AIが攻撃者にとって「道具」であり「標的」であり「戦力を倍増させる装置」になったと分析する。攻撃者はAIを利用してペイロードやshellコマンドを生成する一方、企業が利用する大規模言語モデル(LLM)自体も狙う。窃取した認証情報でクラウド上のリソースを乗っ取ってLLMを不正利用する「LLMJacking」では、2分間で約20万件のAPIリクエストが送信されたキャンペーンも観測された。費用を負担するのは被害企業だ。

悪用の88%はPoC公開から48時間以内

 脆弱(ぜいじゃく)性を悪用するまでの時間も一段と縮んだ。2026年1月から6月にかけて同社が観測した、公開PoC(概念実証)が存在する脆弱性の悪用のうち88%は、PoC公開から48時間以内に発生した。中国関連の攻撃者はさらに速く、公開から24時間以内に悪用を始めた事例もあった。

 「React2Shell」と呼ばれる脆弱性(CVE-2025-55182)では、2025年12月3日のパッチ公開から5時間12分後に、顧客環境で最初の悪用試行が検知された。21時間53分後には中国関連の攻撃者GENESIS PANDAが、23時間12分後には同じく中国関連のVAULT PANDAが悪用を開始した。公開から最初の4日間でOverWatchは、80を超える組織で800件を超えるハンティングリードに対応した。


「React2Shell」はパッチ公開から約5時間で悪用試行が検知された(出典:クラウドストライク「2026年版脅威ハンティングレポート」エグゼクティブサマリー)

 ソフトウェアサプライチェーンへの攻撃も広がった。金銭目的の攻撃者ALTERED SPIDERは2026年5月のキャンペーンで、1日に300を超えるソフトウェア依存関係を侵害した。2026年上半期に特定された悪意のあるソフトウェアレジストリー脅威の87%には、npmパッケージが関与していた。北朝鮮関連の攻撃者STARDUST CHOLLIMAは、131の信頼されたAIフレームワークパッケージに悪意のあるコードを仕込んだ。

 アイデンティティを狙う手口も増えている。電話で従業員やヘルプデスクをだますビッシング(電話を使ったフィッシング)による侵入は、2026年前半に2025年後半比で2倍に増えた。アカウントの乗っ取りからデータ窃取までを5分足らずで実行した事例も観測された。認証の仕組み「OAuth 2.0」のデバイスコードフローを悪用するフィッシングの月間試行回数は15倍に急増し、クラウドを意識したサイバー犯罪アクティビティは171%増加した。

 レポートは対策として、AI自体のセキュリティ確保やアイデンティティとSaaSの保護、クロスドメインの可視性確保など5つの推奨事項を挙げている。詳細はレポート本編で確認できる。鈴木氏は説明会で、サプライチェーン対策の一例として、公開から1週間が経過したパッケージのみダウンロードを許可する運用ポリシーを紹介した。

 クラウドストライクのアダム・マイヤーズ氏(Counter Adversary Operations責任者)は次のように述べている。

 「AIは今や攻撃者のオペレーションに組み込まれている。攻撃の計画、実行、拡大方法が変わり、組織が防御しなければならない攻撃対象領域は拡大する一方だ。今後成功するのは、AIの導入と同じくらい積極的にそのセキュリティ対策に取り組み、AIを活用して攻撃者に匹敵するスピードで防御する組織だ」(マイヤーズ氏)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る