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レガシー資産は捨てなくていい? OutSystemsが考える、基幹システムを作り替えないAI活用

AI導入に慎重な日本企業は、グローバルに比べて出遅れているのか。OutSystemsのマーティンCEOは、その慎重さこそがPoCから本番への移行で強みになると語る。「個人の生産性は上がったが、PLやBSへの効果は不透明」という経営層の悩みに、基幹システムを作り替えないAI活用でどう応えるのか。

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 AIエージェントをエンタープライズシステムの開発や運用に活用する動きが進んでいる。既にWebアプリケーションなどの開発現場ではコーディングエージェントが広く使われており、ここにきて活発化しているのは、メインフレームなどレガシーシステムのコードをAIエージェントでモダナイズする取り組みだ。

 こうした状況の中、ローコード開発プラットフォームを提供するOutSystemsも、AI機能を軸とした対応を進めている。同社は、AIエージェントのエンタープライズシステムへの適用や、レガシーシステムのモダナイゼーションを支えるAI機能の提供などを通じて、ローコード開発プラットフォームをAI開発プラットフォームに進化させている。

 「単なるコーディング自動化」と「基幹システムのAI統合」の違いはどこにあるのか。OutSystemsのウッドソン・マーティン(Woodson Martin)CEOと日本法人 代表取締役会長 兼 CEOの手島主税氏に話を聞いた。

日本企業におけるAI導入にアドバンテージがある理由

──企業を取り巻くトレンドをどう捉えていますか。


OutSystems ウッドソン・マーティンCEO(筆者撮影、以下同)

マーティン氏: トレンドの一つがAIだ。生成AIやAIエージェントを中心に採用が広がっている。例えば、物流企業のDHLでは、OutSystemsのプラットフォームを活用して、新規プロジェクトの承認や契約のライフサイクル管理をサポートするアプリケーションを5日で作り上げた。このアプリによって年間1640時間の工数を削減した。このように、プラットフォームを活用することで開発効率を高められる。

 ただ、こうした成果を出している企業はごく一部だ。現在のAI活用は、チャットbotをはじめとする対顧客などの限られた領域にとどまっている。ワークフローへの組み込みや、業務プロセスの変革に向けた本格的な活用は始まったばかりだ。

──日本での取り組み状況はどうでしょうか。

マーティン氏: これまでに5回来日し、多くの顧客と話をしてきた。そうして感じたのは、グローバルの取り組みに比べると、日本ではAIの採用に慎重だということだ。新しい技術が登場したからといってすぐに導入を決めるわけではない。

 ただ、これはアドバンテージでもある。日本企業はガバナンスやソブリニティ、既存システムへの適合性などを最初から考慮して作り込む。そのため、パイロット版をそのまま本番に移行しやすいというメリットがある。PoC(概念実証)から本番に移行して失敗するケースはグローバルに比べて少ない。

 IDCによると、日本のAI市場規模(支出額)は2025年の約2.4兆円から、2029年には約2.9倍の約6.9兆円に拡大する見込みだ。また2029年には多くのワークロードにAIが組み込まれるというレポートを出している。日本企業は慎重であるために成功の道筋が見えやすいというアドバンテージがある。

──日本企業にアドバンテージがあるという点について、もう少し詳しく教えてもらえますか。

マーティン氏: AIの価値をどう享受するのかという点だ。ワークフローにAIを組み込む際は、いかに深くコアビジネス(基幹システム)に実装できるかがカギになる。AI導入ありきでスタートした企業の多くはコアビジネスへの実装が不十分で、今になってアーキテクチャを見直したり、システムへの実装をやり直したりしている。最初からアーキテクチャや実装を作り込むことで、AIの価値を享受しやすくなる。

──AIの価値とは何だと考えていますか。

マーティン氏: つい「優れたAIモデル(LLM)は何か」に注目してしまうが、LLMは企業の競争力を生むわけではない。AIの価値は、AIを業務プロセスに統合することで、企業が持つ資産を価値に変えていくことにある。資産を価値に変えていくためには、企業が独自に持つデータ、既存システム、企業特有のコンプライアンスルールなどを深く知ることが重要だ。多くの場合、それができないがために課題にぶつかっている。

AIを入れるほど複雑になる 94%が懸念する「AIスプロール」

──AIの価値を引き出す上で何が課題になっているのでしょうか。

マーティン氏: OutSystemsでは2026年4月、AI開発の現状について調査レポートを公表した。「2026 State of AI Development」というもので、それによると、94%のITリーダーが「AIスプロール(AIの乱立)によって、新たな複雑性、技術的負債、セキュリティリスクが生まれていることが課題だ」と回答した。

 複雑性やセキュリティなどは従来も課題だったが、AIによってその課題がさらに深刻化している。なぜ、AIが複雑性やセキュリティの問題を深刻化させるのか。その理由は、AIがコンテキストを理解しないまま運用されていることにある。AIエージェント自体の導入は簡単だ。しかし、コンテキストを理解しなければ、AIスプロールは拡大する一方だ。

──日本でもAIスプロールなどの課題が起きていますか。


OutSystems日本法人 代表取締役会長 兼 CEOの手島主税氏

手島氏: 多くの日本企業は、PoCから本番運用に入り始めた段階なので、これから大きな課題になっていくと考えている。現状の課題としては、「データがAIレディになっていない」「システムのサイロ化」「AIによる情報漏えい」などのリスクがある。

 中でも大きな課題は「AIで実際にどんな成果が出ているのか分からない」というものだ。特に経営層からは「AIで確かに個人の生産性は上がった。しかし、部門や企業全体で見たときにPL(損益計算書)やBS(貸借対照表)に影響を与えるまで生産性が上がっているかどうか不透明だ」という相談が頻繁にある。

──企業に対してどのようなアドバイスをしているのですか。

手島氏: 例えば、PoCから本番運用への移行については、失敗する理由が3つあると考えている。「実行する人材が不足していること」「AIを導入する目的が明確でないこと」「ROI(投資対効果)を適切に導き出せないこと」だ。これら3つを解決するためには、「AI機能を活用した効率化」「目的を明確化するための意思決定」「プラットフォームを活用したROIの見える化」がポイントになる。実際に取り組みを進める場合、コアビジネスの業務プロセスにAIを組み込みながら、自社データを使って価値を引き出していくことになる。

──基幹システムへのAIの組み込みというのは、実際にどう進めるのでしょうか。

マーティン氏: AIに対するCIO(最高情報責任者)の考え方は変わってきている。数年前まではAIを活用するために既存の業務プロセスそのものを作り替えようと考えるCIOが多かった。しかし、既存システムの作り替えには膨大なコストと期間がかかる。そこで、AIエージェントを使って、既存システムはそのままアセットとして生かし、AIをラッパー(既存システムを変更せず外側からかぶせる仕組み)のようにかぶせることで価値を引き出すというアプローチに変わっている。

OutSystemsを活用するMUFG、日本郵船、東京エレクトロン、ホンダ

──実際に成果を挙げている企業の事例を教えてください。

マーティン氏: 三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、OutSystemsを使って米国銀行持株会社法(BHC法)対応業務を支えるための新システムを開発した。同社では、BHC法に対応するための年次報告や出資情報の確認・検証、グローバルな規制対応などを膨大な「Microsoft Excel」ファイルを使い、手作業でこなしていた。OutSystemsを採用したことでBHC法担当部門のユーザー自らが継続的にアプリケーションを開発、運用できるようになり、業務効率は最大30%向上し、出資情報の管理や検証業務が高度化した。

手島氏: AI活用の事例としては、日本郵船(NYK Line)や東京エレクトロン(TEL)の事例がある。日本郵船では、コアビジネスを担うSAPシステムをアセットとして活用するため、OutSystemsに組み込まれたAIをラッパーとして活用している。わずか1カ月でSAPのクリーンコア戦略に沿ったモジュラーアプリを開発した。

 また、東京エレクトロンは、SAPシステムのさまざまな周辺システムをOutSystemsで開発している。例えば、SAPデータの財務会計モジュールに現場のユーザーがデータを入力できるアプリなどだ。こうした周辺システムを開発、運用する中で、OutSystemsのAIエージェントを活用している。

 本田技研工業(ホンダ)の事例も特徴的だ。同社は、全社的なDXを推進する中でOutSystemsを採用した。3年半で37の業務アプリケーションを開発し、研究開発、設計、品質管理、アフターサービス、コーポレート部門など幅広い領域の業務を刷新した。業務効率は30%向上し、開発・運用コストを800万ドル以上削減した。300人の開発者を支えるCenter of Excellence(CoE)を構築し、全社規模でのアプリケーション開発体制を確立。現在は、そのDX基盤を生かしてエージェントAIの活用にも取り組んでいる。

──他社のAIプラットフォームやAIエージェントとの違いを教えてください。

マーティン氏: OutSystemsの強みは、25年にわたってローコード開発プラットフォームを提供してきたことにより、企業の業務プロセスに深く根を下ろしていることにある。プラットフォーム上でLLMによる推論やAIエージェントを使う場合も、AIがコアビジネスのコンテキストを理解するため、業務プロセスを作り替えずに既存システムをアセットとして生かしながら価値を引き出せる。信頼性とガバナンスが強みだ。

手島氏: 基幹システムとの連携という点では、AIからSAPのデータを更新できるのも特徴だ。ローコード開発プラットフォームとしてエンタープライズ領域で培ってきたノウハウがあり、業務プロセスへの高度な組み込みが可能だ。プラットフォーム上で提供するハーネス(AIエージェントの動作を制御する仕組み)やガードレールによって安全性を確保している。

AIに企業の「地図」を持たせる Enterprise Context Graphとは何か

──技術的なポイントやアーキテクチャを教えてください。

マーティン氏: AIにエンタープライズの業務を理解させる仕組みが「Enterprise Context Graph」だ。企業システムを構成するさまざまなシステム、アプリケーション、データの関連性をマッピングし、活用しやすくするものだ。この「地図」があるおかげで、AIエージェントは企業独自のコンテキストを理解し処理を進められる。

 エージェントとしては独自のエージェントシステム「Mentor」を提供している。データモデル設計、UI構築、ロジック記述、セキュリティ、コード検証などの20以上の専門エージェントとスキルで構成される。対話型のインタフェースで、Webアプリ、サービス、ライブラリなどを開発できる。今後は、全社ワークフローやモバイルアプリの開発も可能になる。

 なお、OutSystemsのプラットフォームは、MCP(Model Context Protocol)やAPIを公開しており、外部から機能を制御できる。今後は「Claude Code」や「Cursor」「Codex」など、AIエージェントを使って開発、操作することも可能になる。また、OutSystemsでAIエージェントアプリを自動生成する機能「Agent Workbench」も提供している。

──今後の展開を教えてください。

マーティン氏: AWSとのパートナーシップにより、「AWS Transform」「Kiro」「Amazon Bedrock」などを活用したレガシーシステムのモダナイゼーションを支援する取り組みをスタートさせた。COBOLコードなどを自社のコンテキストを踏まえて分析し、OutSystemsのプラットフォームにモダナイズされた新しいシステムを再構築できる。日本には、基幹システムのモダナイゼーションに悩む企業が多い。レガシーシステムのモダナイゼーションからAIによる新しい価値創出まで、日本企業の取り組みを支援していく。

──ROIが見えないという課題もこうした機能で解消できるのですか。

手島氏: そうだ。まず、どのアプリケーションやデータがつながっているかが見えるようになる。また、目的や基準、スケジュールなどを決め、進捗(しんちょく)率を見ながら、経営指標としてのROIを管理していく。

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