AIデータセンターの電力問題、答えは「計算処理の引っ越し」か? 日立など5社、横浜と北九州をつないで実証
再生可能エネルギーの電力を使い切れない時間と場所に、AIの計算処理を移す。日立製作所や電源開発など5社が総務省の実証で試みるのは、発電状況に合わせてデータセンターの処理を動かす「ワークロードシフト」だ。横浜と北九州、さらに上越新幹線の沿線で、何を検証するのか。
電源開発、シスコシステムズ、東日本旅客鉄道、日立製作所、ビットメディアの5社は2026年10月8日、総務省の令和8年度「ワット・ビット連携関連実証」に着手したと発表した。ワット・ビット連携は、電力の単位「W」(ワット)と情報通信の単位「bit」(ビット)を組み合わせた造語で、電力と通信の効果的な連携を指す。5社の提案は、総務省が2026年7月に採択した7件のうち「高度なワークロードシフトの実現に向けた社会実証」の区分に当たる(注1)。
5社によると、AIデータセンターの計算需要の拡大に伴う電力需要の増加や、特定の地域・時間帯における再生可能エネルギー(以下、再エネ)の出力抑制の増加といった課題が顕在化している。
実証事業では、横浜と北九州のAIデータセンターを接続し、発電事業者の独自情報などを活用するワークロードシフトの実現可能性と有効性を検証する。実証事業は2026年8月に始まっており、2027年2月1日まで実施する予定だ。
ワークロードシフトとは何か
5社が実証の中心に据えるのが、AI学習や推論の計算処理を対象にしたワークロードシフトだ。検証の舞台は横浜と北九州のAIデータセンターにとどまらず、上越新幹線の沿線にも及ぶ。ワークロードシフトは何を、いつ、どこへ動かす技術なのか。
5社による定義では、ワークロードシフトは計算負荷を時間的または空間的に移動させることで、電力需給バランスの調整やコンピューティングリソースの有効利用を促進する技術を指す。再エネの発電量予測や電力取引価格といった発電事業者の独自情報の他、電力の需給状況、計算資源の利用状況、災害などの情報に応じてAI学習や推論の計算処理を最適な場所と時間に配置する。そのために、電気信号に変換せず光のまま通信するオール光ネットワーク(APN)などを活用し、電力・通信・計算資源を統合的に制御する。
実証で評価するのは、再エネの有効活用と出力抑制の低減、電力需給の安定化、AIデータセンターのレジリエンス向上に対するワークロードシフトの効果だ。出力抑制とは、電力需給のバランスや電力系統の制約によって、発電可能でも太陽光や風力などの発電量を一時的に抑えることを指す。検証内容は次の2点だ。
- ワークロードシフトのシステムの検証: 横浜と北九州のAIデータセンターを、外部インターネットを経由せず特定の拠点間のみを接続するクラウド型ネットワークサービスの回線で接続する。状況に応じて計算処理を拠点間で移す「空間シフト」と、処理を実行する時間をずらす「時間シフト」を行い、再エネの出力抑制の低減や電力コストの抑制といった効果、ワークロードシフトによるAI処理のオーバーヘッド(処理時間の増加など)を検証する。サービス品質を保ちながらワークロードシフトを適用する運用方法も検証する
- 新幹線沿線の光ファイバーを使ったオール光ネットワークの検証: 分散配置したAIデータセンター間を結ぶネットワークの高度化に向けて上越新幹線の越後湯沢、上毛高原、高崎の3駅に光伝送装置を配置し、沿線の既設光ファイバーでオール光ネットワークを構築する。振動や気象の影響下での伝送損失やエラー、通信遅延、ゆらぎなどの通信品質を検証する
各社の役割は次の通りだ。
- 電源開発(代表機関): コンソーシアムの統括、実証の統括、進捗管理と課題管理、実証結果の評価と取りまとめ
- シスコシステムズ: オール光ネットワークの検証環境の設計と構築支援、通信性能と伝送品質の測定、通信要件の検討
- 東日本旅客鉄道: 鉄道通信設備の構築・施工の検討、オール光ネットワークの技術検証の検討
- 日立製作所: ワークロードシフトのシステムの構築、オール光ネットワークの検証環境の構築
- ビットメディア: データセンター内のワークロードシフトのシステムの構築
5社は2026年4月、JR西日本光ネットワークと名古屋鉄道を加えた7社で「広域APN・ワークロードシフト イノベーション推進協議会」を設立し(注2)、今回の実証事業を同協議会の取り組みの一環と位置付けている。実証の結果を踏まえて実環境での段階的な検証を続け、分散配置したAIデータセンターを活用したAI開発・運用基盤のシステム構成とネットワーク構成を検討するとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
関連記事
「デジタルの言葉が聞こえない」と言われた電源開発が、DX開始4年でフィジカルAIに挑むまで
社外取締役に「デジタルの言葉が聞こえてこない」と言われた電源開発が、ドローンやロボットを自ら学習させて現場を動かすフィジカルAIに踏み込む。失敗が許されにくい規制産業で、なぜ「まず試す」文化を根付かせられたのか。同社のDXを率いる小泉真吾氏に聞いた。
ITインフラの要件に“大変化” なぜ「電力」と「冷却」にAI活用が縛られるのか?
AI時代の到来により、ITインフラの要件に大きな変化が訪れています。データセンターを「どこに置くか」「どうやって冷やすか」が、AI活用の制約になるのはなぜか。新しいITインフラの要件に、IT部門がどのように対応すべきでしょうか。
今さら聞けないIOWNのすごさ AIインフラの電力問題を解消する“特効薬”か?
NTTの次世代通信基盤「IOWN」とは何か。AIの進化に伴って顕在化したITインフラの課題を、IOWNはどう解消するのか。実証例を交えてIOWNの仕組みとメリットを整理し、ITインフラにもたらす影響を探る。
“寿命超え”送配電設備をどう延命する? 日立がエネルギーインフラ向けAIサービス「HMAX Energy」を提供開始
AI需要の拡大やデータセンター建設ラッシュが電力需要を押し上げる中、送配電設備の中には寿命を既に超えているものも多い。エネルギーインフラが抱える構造的課題に対応するため、日立と日立エナジーがAIサービス・ソリューション群「HMAX Energy」の提供を開始した。
