「Fit to standard」では足りないものとは? SaaS型ERPが市場の3割に達する条件:IT調査ピックアップ
業務をシステムの標準機能に合わせる「Fit to standard」が、ユーザー企業に根付き始めた。ところが矢野経済研究所は、この考え方には限界があるとみる。それでもSaaS型ERPの市場は2027年に全体の3割に達すると同社は予測する。限界があってもSaaS化が進む、その背景にある考え方とは。
矢野経済研究所は2026年10月8日、国内のERPパッケージライセンス市場に関する調査結果を発表した。2025年の市場規模(エンドユーザー渡し価格ベース)は前年比13.1%増の2020億7000万円と推計した。伸び率は、18.9%増だった2024年より落ち着いた。要因として同社は、インボイス制度への対応が終わったことやAIエージェント製品や課金モデルの動向を見極める企業が増えたこと、「Windows 10」のサポート終了に伴って優先度が後退したことを挙げる。一方で企業のIT投資意欲は衰えておらず、既存システムの刷新が10%を超える成長を支えたという。
同社は、今後のAI活用を見据えてSaaS型のERPを導入する企業も多いとみる。背景にあるのが、システムの標準機能に自社の業務を合わせる「Fit to standard」の考え方だ。同社はこの考え方がユーザー企業に根付き始めたと分析する一方、Fit to standardには「限界」があると指摘する。
「Fit to standard」に限界があっても、SaaS化が進む理由は
それでもSaaS型ERPの利用は今後も進展し、2027年にはSaaSのみの市場が市場全体の3割に達すると同社は予測する。鍵になるのが「クリーンコア」という考え方だ。標準機能に業務を合わせるFit to standardと、何が違うのか。
矢野経済研究所によると、クリーンコアはFit to standardを基本としながらも、ユーザー企業独自のカスタマイズを導入して運用する考え方だ。一般には、ERPの標準部分(コア)には手を加えず、企業固有の要件はコアの外側に用意された拡張の仕組みで実装することを指す(注1)。同社は、Fit to standardが根付き始めたことに加え、クリーンコアが広がり始めたことがSaaS導入の背景にあると分析する。
基幹システムは「記録」から「頭脳」へ
注目点として同社が挙げるのが、ERPとAIエージェントの連携だ。連携は実用段階へ進展する見通しだという。これに伴い基幹システムの役割は、業務データを正確に記録・管理する「System of Record」から、蓄積した情報を基に予測や提案を行って経営の意思決定を支える「System of Intelligence」へ変わると同社はみる。その実現には、AIエージェントが安全に業務を完了できるよう、実績と暗黙知に基づくプロセスを標準化して実装する必要があるという。その上で、AIがルール通りに業務を終えたことを人が確認し、責任を取れる製品が求められるとしている。
ただし現時点では、提供されている全ての製品にAIエージェント機能が搭載されているわけではなく、機能の段階もさまざまだという。複数のAIエージェントが連携して自律的にタスクを実行する製品や、その先の完全自律型の製品をベンダーが提供する段階になれば、ベンダーに求められる役割も変わると同社は予測する。システム構築の伴走から、業務そのものの再設計やAIへの委任判断を支援する伴走への変化だ。
2026年の市場規模は前年比12.8%増の2279億6000万円、2021年から2026年までのCAGR(年平均成長率)は13.0%と同社は予測する。成長を後押しする要因として同社は、既存システムからの移行や刷新に加え、次の2点を挙げる。ERPベンダーによる新規パートナー企業の獲得や既存パートナー企業の対応領域の拡大がもたらす売り上げの伸びと、AIエージェントを活用する土台としてERPを新たに導入したり移行したりする動きだ。2027年は同10.0%増の2508億円、2028年は同8.0%増の2708億円を予測している。
AIについて同社は、短期的には業種・業界に特化したAIエージェントやAIアシスタントが増えると予測する。その上で、ERPに蓄積されたビジネスの背景や状況(コンテキスト)をどう生かすかが重要になり、データと業務プロセスを理解したAIが競争力を持つとの見方を示した。
調査は2026年5〜8月に、ERPパッケージおよびSaaSベンダーを対象として、専門研究員による直接面談(オンラインを含む)と文献調査を併用して実施した。市場規模にはクラウド型利用(IaaS・PaaSとSaaSを含む)の市場を含み、SaaSのみの市場はその内数に当たる。従来型パッケージではコンサルティングやSI、保守サポートなどの関連売上高を含まないが、クラウド型利用ではライセンスに保守運用を含む。
(注1)SAP Learning「Extend S/4HANA with SAP Build: Overview」(https://learning.sap.com/courses/SAP-Build-Clean-Core/overview_e9c858d9-819b-4f1e-a259-3c3813174242)
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