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SaaS不要論、日本は“火種”が違った セールスフォース小出会長が語る落としどころ:「Dreamforce 2026」現地レポート

米国発のSaaS不要論は、日本では異なる経緯で広がったという。Dreamforce 2026の会場で、セールスフォース・ジャパンの小出伸一会長が、日本固有の“火種”とSaaSの行方、FDE体制の強化や課金モデルの転換について語った。

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 「企業の関心はAIそのものから次のステージに移った」――セールスフォース・ジャパンの代表取締役会長 兼 社長の小出伸一氏は述べる。「ChatGPT」公開から4年近くを経て、企業幹部の意識に変化が見られるという。「“AIネイティブカンパニー”を標ぼうしてもその先がない。実際にどのようにAIに投資し、その結果としてのROIがどうなのかを考えなければならない。ここに関心が向き始めている」と同氏は語る。

 Salesforceが2026年9月に米サンフランシスコで開催した年次カンファレンス「Dreamforce 2026」には多くの日本の顧客企業が参加した。人間とAIエージェントが協働する世界を指す“エージェンティック・エンタープライズ”をどう実現していくかが大きなテーマになっていたという。会場では、小出氏をはじめとした日本法人の幹部が日本の記者団の質問に応じた。


セールスフォース・ジャパンの小出伸一氏(筆者撮影)

日本でもFDE体制を強化、パートナーへの影響は?

 Salesforceは“No Software”をスローガンに掲げるSaaSカンパニーとして、26年前から日本企業のクラウド移行を後押ししてきたが、当時のクラウドと今回のAIでは大きな違いがあるという。それはスピードだ。

 「これまでの製品や技術と比べると(進化の)スピードが速い。そのため、AIプロダクトを追いかけるというより、自分たちがどう採用、活用して、ビジネスの成果に結び付けるかを考えていなければ、スピードに追い付くだけで終わってしまうという危機感がある」(小出氏)

 Salesforce自身は「4つのR」に、それらを回し続ける「リバランス」を加えたフレームワークを使った変革を進めている。AIに任せる業務と人間が担う業務を組織・ビジネスモデルとして再定義する「リデザイン」、人間の仕事をより創造的・高付加価値なものにする「リスキリング」、AIエージェントに適切なスキルを持たせる「リトレーニング」、そして双方のスキルセットを踏まえて再配置する「リデプロイメント」。さらに、この4つのRのサイクルを継続的に回す「リバランス」を加えた枠組みだ。

 だが顧客の多くは独自の課題を抱えており、AIを取り込んだエージェンティック・エンタープライズに簡単には進化できないという。そこで、SalesforceはForward Deployed Engineering(FDE)組織を立ち上げ、顧客に伴走する体制を整えてきた。

 FDEは単なる導入コンサルタントではなく、顧客企業の現場に入り込み、データやワークフローの把握からシステムの構築・統合、本番稼働後の継続的な改善までを一貫して担うエンジニアを指す。FDEの起源は20年前のPalantirにさかのぼるといわれており、同社は「Delta」と呼ばれる顧客対応エンジニアを政府機関や金融機関に配置してきた。OpenAIは2025年にFDEチームを立ち上げ、Anthropicも顧客企業に伴走する「Applied AI」グループの増強を進めるなど、AI企業各社がこの職種に力を入れたことが大きな話題となった。背景には、モデルの性能そのものよりも、本番環境への実装が導入の最大の壁になっているという指摘がある。

 Salesforceもこの流れに乗る形で、2026年4月にAgentforce導入の実績が豊富なグローバルパートナーからなる「FDE Partner Network」を立ち上げている。Accenture、Deloitteをローンチパートナーに、PwCやIBM Consulting、Capgemini、KPMGなど30社以上が参加し、ソリューションアーキテクチャの設計からエージェントの挙動設計、本番稼働後のハイパーケア、採用・チェンジマネジメントまでを一貫して支援する体制を敷いている。Salesforceによれば、このネットワークに加盟するパートナー経由の導入が、成功したAgentforce全実装の3分の1を占めるという。

 日本法人もグローバルの戦略に足並みをそろえ、FDE体制の整備を進めている。「日本は投資が厚く、多くのFDEをアサインしている段階」と小出氏。人材については、社内でプリセールスとポストセールスの比率を変えながらFDEにシフトするという内部のトランスフォーメーションも並行して進めており、外部からも採用しているという。さらに国内の多数のパートナー企業との関係も強化し、「FDEアライアンス」といった形で協力を仰いでいるという。

 自社でFDEを増やせば既存のパートナーとは競合しかねない。小出氏は「パートナーさまとわれわれが持っているお客さまには違いがあるので、お互い補完関係でうまくやれる」とし、「競合というよりは協調の方が強い関係」だと説明する。

SaaS不要論、日本での火種は「セキュリティ懸念」

 1年前のDreamforceで大きな話題となったSaaS不要論。引き金は、そのさらに1年前に、スウェーデンの金融スタートアップKlarnaがSalesforceとWorkdayなどを解約する意向を示したことだ。その後、2026年2月にAnthropicが「Claude Cowork」向けのプラグインを公開し、ソフトウェア株が急落すると、“SaaS”と黙示や終末を意味する“Apocalypse”を組み合わせたSaaSpocalypseという言葉も生まれた。

 日本でのSaaS不要論について、小出氏は「Mythosが一つの契機になった」と言う。Anthropicが2026年4月に限定公開し、同年6月に一般提供を始めた新モデル「Claude Mythos」の登場により、「金融機関様や政府関係は非常にセンシティブになった」というのだ。米国発のSaaS不要論が「AIがUIを代替し、SaaSそのものが不要になる」という構図だったのに対し、日本での火種はむしろセキュリティ・脆弱(ぜいじゃく)性への懸念だったと小出氏は説明する。

 その上で小出氏が強調するのは、特定のモデルのバージョンを追いかけ続けることの無意味さだ。

 「Mythosを追いかけていてもOpusなど、いろんな形で新しいバージョンが出てくる。そうすると次のバージョンが出てきたときに、プロセスができていないと追いかけることになってしまう」。重要なのは新モデルが出るたびに一喜一憂することではなく、自社の脆弱性リスクがどこにあるかを可視化する仕組みを先に整えることだという。「まずはバージョンを問わず実際に使ってみて、自社の脆弱性リスクを可視化するプロセスを整えてほしい、とお客さまには伝えている」(小出氏)

 もう一つ、Mythosが日本の顧客の関心を集めた理由がある。コーディング能力の大幅な向上だ。日本の市場はSIerの存在感が大きいため「コーディングやプログラミングが、最初にAI化されてしまうんじゃないか」という不安が顧客の間で広がったという。こうした不安を受けて、「逆にSaaSはコーディングやプログラミングの下にある、ガバナンスやセキュリティといった仕組みを構造的に支えているものだという理解が顧客の間で深まりつつある」と小出氏。「SaaS不要論が意味するのは全てがなくなることではなく、コーディングやプログラミングの領域などSaaSの一部がAIに置き換わるという議論」という受け止めが広がっているとした。

 この理解を後押ししたのが、「ハーネス」概念の広がりだ。取材に同席した専務執行役員 製品統括本部 統括本部長の三戸篤氏は、「モデルで全部やろうと思えばできる。でも膨大なトークンを使う。逆にコストがかかってしまうということに企業も気付き始めている」と指摘する。全ての業務を大規模言語モデルに丸投げするのではなく、モデルが最も得意な部分だけを任せ、それ以外はよりコスト効率の良い方法で処理する――そうした業務設計の考え方が「ハーネス」という言葉で語られるようになってきたという。

 Salesforce自身もDreamforceの直前に「Trusted Enterprise AI Harness」として、安全にAIを活用できる仕組みを発表している。コンテキスト(Trusted Context)、エージェンシー(Trusted Agency)、アクション(Trusted Action)、ガバナンス(Trusted Governance)、セキュリティ(Trusted Security)、モデル(Trusted Models)の6つの「信頼できる機能」を束ね、企業内で乱立するAIエージェントを一元的に可視化・管理できる「AI Control Plane」も備える。

 小出氏が引き合いに出したのが、「AnthropicがSalesforceの大口ユーザーである」という点だ。「AIクラウドが全部できるのであれば、AnthropicはSalesforceを使う必要がないはず。だがわれわれの非常に大きなユーザーでもあるし、OpenAIもそうだ」(小出氏)。モデル開発企業自身がSalesforceを利用しているという実態は、SaaSが全てAIに取って代わられるわけではない、という理解を顧客に促す材料になっているという。

ヘッドレス化でも譲らない、Salesforceの両面戦略

 そのSaaS不要論に対し、Salesforceは4月、AI時代のSaaSの在り方として「Headless 360」を打ち出した。Dreamforceでは、これを含む複数の技術を束ねる上位戦略として「AIforce」を掲げた。CEOのマーク・ベニオフ(Marc Benioff)氏は「Salesforceへのログインは不要」と売り込むが、ヘッドレス化でUIが切り離されれば、顧客がSalesforceの画面に触れる機会は減り、その存在感は薄れかねない。

 これについて、小出氏は「確かにHeadlessだけを見ると、Salesforceが見えなくなる世界がある」と認めつつ、「AIforceは『皆さまが使っている場所、仕事をしている場所でSalesforceが使えます』ということを売りにしているが、その中にちゃんとSalesforceとしての出来合いのものも用意している。皆さんが使いたいもので使っていただくのもいいし、われわれが用意する出来合いのものでもいい」と説明する。

 顧客から見える場所でも存在感を保ちながら強化していく――それがSlackforce(Slack向けのSalesforce統合)であり、Agentforce Coworker(Salesforce内で対話形式に業務を進めるAIエージェント)であり、「Claudeforce」(AnthropicのClaudeとSalesforceの連携機能)でもあるという。「見えなくなる反面、ちゃんと見えるところも強化していくという、両面の戦略を持っている」(小出氏)

 つまりSalesforceの狙いは、UIの主戦場を完全に手放すことでも、逆に固執することでもない。顧客がどのインタフェースを選んでも、その裏側でSalesforceが蓄積してきたデータ・権限・業務ルールが動いている状態を作りつつ、自社の接点も同時に強化する――小出氏の説明からは、そうした両面戦略がうかがえる。

 なお、SalesforceはグローバルではAnthropic、OpenAIなどと協業しているが、ベニオフ氏は日本のSakana AIへの出資に言及し、欧州のMistral AIと並べて紹介した。同社の投資部門であるSalesforce VenturesはSakana AIに出資している。この出資について、小出氏は具体的な狙いへの言及は控えつつも、将来性を見据えたものだと説明する。「今後の日本のマーケットとLLMが、スモールランゲージモデル的な方向に動く可能性もあれば、ローカル色が出てくる可能性もある。インダストリーの観点もある」とし、「Sakana AIに限らず、複数の投資先の一つとして考えた」と位置付けた。

日本のAgentforce、前年比の伸びは「三桁」

 Agentforceの日本市場での導入状況について、小出氏は具体的な数字は非公表としつつも、手応えを語った。「グローバル全体の売上に対して、Agentforce化や使用量、トランザクション数といった消費量ベースの利用は全然引けを取らない。かなり上のところに来ている」。対前年の伸び率は「三桁ボリューム」だといい、日本企業に特有の慎重さ――「トライアンドエラーよりはきちんと終わってから」という傾向――は残るものの、「AIに関してはそんなに差がなくなってきている」との見方を示した。

 なお、これまで製品のグローバル展開時にたびたび課題となってきた、日本語化など日本市場向けの対応にかかる「日本化のリードタイム」についても改善が進んでいるという。

 「われわれの最大のチャレンジは、今までプロダクトの変化が出てきたときに『日本化そのもののリードタイムがある』という議論が常にあったこと。それも改善されていて、日本サイドからのリクエストや画面への対応がかなりスピーディーにできている。製品ギャップ的なところはあまりなく、問題になっていない」と小出氏。

課金モデルはコンサンプションへ、顧客要望に応じ柔軟に

 料金体系にも変化が及ぶ。従来のライセンス型(シート課金)から、使用量に応じたコンサンプション型への移行を求める顧客の声は強まっているという。「お客さまのご要請に合わせてわれわれは変えざるを得ない。そこにキャッチアップできなければ、言葉を選ばずに言うと売り負ける世界が出てきてしまう」と小出氏は率直に語る。そうした需要は実際にあるのかと問われると、「あります、あります」と即答している。

 対応の一つとして紹介したのが、AWSのマーケットプレースのような仕組みを取り入れた、コミット型の新しい料金体系だ。利用額の全体をあらかじめコミットしてもらい、その中で基本ライセンスや「Tableau」といった製品群を柔軟に組み合わせて使えるようにするという。「お客さんもやっぱり先が見えないんだけれども、途中で使い方をこういう風に変えていきたい、というのが非常に柔軟にできるような料金体系に変えてきている。市場の要求、お客さまの要求に合わせた料金体系を出していかないとまずい、という意識を非常に強く持っている」(小出氏)

 予算を立てやすい固定額を望む顧客にはシート課金(一人当たりの定額制)が適しており、逆に使用量が読めない、あるいは成果に応じて払いたいという顧客にはコンサンプション型が向く。顧客の利用度やROIの見え方に応じて、課金モデルをフレキシブルに提供できるようにしていくという方針を示した。

(取材協力:Salesforce)

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