ドラマ『クロエマ』を考察 問題解決を目指さない新感覚占いミステリーが誕生! エマの正体って? なぜ火事に気付けたのか?【ドラマ考察・レビュー】(1/2 ページ)
多部未華子氏と杉咲花氏のダブル主演で話題を呼んでいる、Prime Video独占配信ドラマ『クロエマ』。原作は『逃げるは恥だが役に立つ』で一世を風靡した漫画家・海野つなみ氏の連載漫画。今回は、そんな新作ドラマ『クロエマ』の魅力を考察していきます。エマの正体についても最後に考察しているので、そちらもご覧ください。
なんか癖になる……。多部未華子氏と杉咲花氏のダブル主演で話題を呼んでいる、Prime Video独占配信ドラマ『クロエマ』。キャラクターの軽妙なやり取りはもちろん、油断していると、たまに鋭いセリフがぽーんと飛んでくることもあって、軽やかさの中に毒を含んだ表現に、私は中毒性を覚えてしまいました。みなさんは『クロエマ』をどう見ましたか?
原作は『逃げるは恥だが役に立つ』で一世を風靡した漫画家・海野つなみ氏の連載漫画で、制作陣にはPrime Originalドラマとして人気を博した『1122 いいふうふ』の今泉力哉監督、脚本は今泉かおり氏が務めています。
俳優陣から制作陣、原作者に至るまで、今の日本エンタメをけん引するトップランナーたちが集結した1作です。今回は、そんな新作ドラマ『クロエマ』の魅力を考察していきます。エマの正体についても最後に考察しているので、そちらもご覧ください。
木島祥尭
ライター、作家。Fav-Logではアニメや映画の考察、ゲーム、ファッション、スポーツ用品の記事などを担当。ライター業と並行して、小説や漫画原作のお仕事も引き受けています。『第33回シナリオS1グランプリ』奨励賞受賞、著作に『自殺が存在しない国』(幻冬舎)、原作担当作に『仕組みという名の檻の壊し方』(フローラル出版/ビジネス書グランプリノミネート作)、『嘘つきカノジョの影盛さん』(コミックシーモア/原作)など。好きな数字は「0」。Twitter:@kirimachannel
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ドラマ『クロエマ』を考察:占いは答えじゃない。問題解決にこだわらない新感覚ミステリー
本作は、資産家で占い師のクロエ、家も恋人も失ったエマの2人を軸に、占いの店「Sort(ソール)」を訪れる相談者の謎を解明していくという物語。公式のあらすじにも「占いミステリー」と紹介されている通り、ミステリーとして楽しめる作品です。ただし一般的な問題解決型のミステリーとはひと味違って、謎の解明はそこそこに、人生の悩みや問いを続けながら、いつの間にか終幕を迎えている、そんな独特な感覚を味わえるのが特徴です。
「占いは答えではなく、きっかけに過ぎない」というクロエの占いに対するセリフが印象的ですが、こうした答えや問題解決にこだわらない姿勢は、物語全体を貫いています。第1話では、相談者の隠し事が解明されるものの、それでも「寂しさ」という問題が残り続けます。第2話では早々に男女の四角関係が解明されますが、後半、自己愛や依存、劣等感などの問題が噴出し、収集が付かないという展開になっていたかと思います。
「クロエさんが漫画とかドラマみたいに、みんなの問題をうまく解決するのかと思ってました」と言うエマに対し、「他人に対して何かできるかもなんて、おこがましかったよ」と答えるクロエ。このように劇中で漫画やドラマを引き合いに出している場合は「ほかの作品とうちは違いますよ」と差別化をアピールする、メタ的なメッセージが入っていることも少なくありません。
その観点からすると、上記のやり取りは「ほかのドラマや漫画とは違い、うちは問題解決を主題にしていません」と宣言しているようにも見えます。ここが『クロエマ』らしいと言いますか、特殊なところですよね。解決できない問題を抱えながら、でも、占いで捉え方を変えることで、人生が変わるかもしれないという諦観が感じられます。
そもそも店名の「Sort(ソール)」自体、分類する、並べ替えるなどの意味ですから、クロエとエマにできることは、相談者のぐちゃぐちゃの頭を整理することくらいなのでしょう。
2人が、相談者それぞれの考え方や悩みに寄り添ったり、感情を推理したり、見守ったりすることはあっても、外野である自分たちに、当事者の課題を解決することはできない。占い自体が人を“助ける”ことはなく、占いを受けた当人が自分で“助かる”ものというスタンスで、一歩引いた視点から紡がれている、一風変わったドラマと言えます。
第1話の相談者も、第3話の悪質な口コミを書いた相談者も、基本は占いをきっかけに、自分で助かっている印象を受けました。これは最終話の「どんな事実も、どう捉えるかは自分次第」というセリフでも繰り返されていることですし、冒頭で触れた「占いは答えではなく、きっかけに過ぎない」というクロエの発言とも重なるポイントです。
占いを通して、人の悩みや隠し事という謎を推理はするが、解決はしない(できない)という、新しいタイプのミステリーと言えるかもしれませんね。
ドラマ『クロエマ』を考察:2話がマジでえげつない……。パフェのシーンまで全部つながる完璧な構成
みなさんは全5話ある中で、どの回が印象に残っていますか? 私はなんと言っても第2話の修羅場回ですね。相談者の四角関係を面白がったクロエが、修羅場を設定した結果、酷いことになる、あの回です。まだご覧になっていない方は、ぜひ見てください。『クロエマ』の良さが、凝縮されているお話になっていますから。
序盤から中盤にかけて四角関係を解明していく流れも楽しいのですが、後半の修羅場では、男女4人それぞれが抱えている悩みや個性が、見事に描き分けられていましたよね。特にモラハラ男特有の、相手の自尊感情を削る話し方はリアル過ぎて鳥肌が立ちました……。
「またダンマリですか」「俺が居なきゃ何もできないもんな」と、まくし立てながら、今カノを追い詰める場面は演技が上手過ぎて、私は休み休み見ましたね。個人的にあの手の詰められ方には憶えがあるので、結構しんどくなるレベルでした。しかも、いざ自分のことを責められると、案外打たれ弱いところも妙に現実味がありましたね。
それからモラハラ男の元カノに、アプローチをかけているイケメンも非常にリアルでした。「カースト高い女子は気後れする」「美人じゃないから安心する」などと言いながら、相手に対し、無意識に容姿マウントを取っていましたよね。
それからモラハラ男の今カノも、完全に被害者なのですが、普段黙っている人が一番辛辣だったり、17~19歳の大事な時期をクズ男に費やしてしまったと思いたくないから、モラハラ男と自分がお似合いだと言い聞かせていたり……あの修羅場には、三者三様の自己愛が描かれていたように思います。
辻村深月氏の『傲慢と善良』ではないですが、それぞれが「オレ/私は正しい」という善良さをアピールし続ける一方で、誰も自分の傲慢さには気づかない。相手を責める割に自分には甘い、自己愛に溺れている様子が、えげつないくらい表現されていました。クロエが手に持ったナポリタンを、テーブルに置けなくなる気持ちも分かります……。
ただ、四角関係の中で、実は1人だけ、ほかの3人とは違うフェーズに到達している人物がいました。それはモラハラ男の元カノ・美作遥(みまさかはるか)です。実は四角関係のうち、美作の占いシーンだけ、ほぼフルの長尺で描写されていたのです。
ほかの3人の場合はダイジェスト的に占いの様子を短く見せるか、そもそも占いを受けていません。美作の占いだけ、最初から最後まできっちり映されており、これには意味があると考えられます。構成上、彼女だけ特別扱いを受けているわけですから。
では、美作はほか3人と何が違ったのでしょうか。私が思うに、美作だけ“自己愛”や“依存”の段階を終えて、“自立”や“自己受容”のフェーズに入っていたのかもしれません。
占いのシーンで、クロエに「容姿のことを気にしている。でも前向きにとらえている」と言われ、美作は「デブとかブスとか言ってくる人いるけど、別にこっちはそれで楽しく生きてるし」「わざわざ相手に言ってバカにするのって、自分が上に立ちたいだけじゃん?」と返します。
劇中で、美作は世間的に容姿がいまいち(個人的にはむしろ良い方だと思うのですが……)という扱いを受けていますが、セリフから分かる通り、本人はもはやコンプレックスを乗り越えているように見えます。さらに趣味として、タマゴサンドめぐりの様子をSNSで発信するなど、美作は“自分を自分で楽しませる”手段も手に入れている様子です。
一方でほかの3人はみな、誰かを頼らないと自分の幸せが成り立たない、あるいは他人を使って自己愛を保ちたいという、三者三様の依存的な態度を表明しているように見えます。美作だけ、誰かの評価にはもはや関心が無く、自分は自分というスタンスを獲得しているので、ほかの3人と比較して自立している印象があります。
美作は一段階成長したフェーズにいるため、モラハラ男の軽薄さを見抜いているし、イケメンが結局容姿にこだわっていることにも気づいており、今カノの依存的なあり方にもツッコミできるわけです。唯一、全員を客観的に把握していると言いますか。
美作は自己愛のために恋愛をする段階をおそらく抜けていて、自分の機嫌は自分で取れるので、もっと互いに尊重し合う自律的な恋愛関係を結びたいのかもしれません。その観点からすると、自己愛グループの恋愛観には、もう付いていけないし、可哀そうにな……という一歩引いた眼差しを持っているように見えます。
特に象徴的だったのが、今カノの馬場律子が辛辣なセリフを言って、場が凍りついたシーン。律子が1人ナポリタンを爆食いし始め、モラハラ男が律子の言葉に涙を流し、モデルのイケメンはうつむくだけという中、美作だけが泣いているモラハラ男にペーパーナプキンを渡しているんですよね。
全員が自分の感情でいっぱいいっぱいになっている中、1人だけ周りが見えていて、他人のために行動しているわけです。この点からも、美作は自己愛に沈んでいる彼らとは違うフェーズに到達しているものと考えられます。
こうした“自己受容”や“自分の幸せは自分で見つける”というテーマは、最後のパフェのシーンでも、クロエの言葉や下門くんのエピソードなどを介して繰り返されているため、自己受容の域に達している、美作が2話の主人公だったと言えるかもしれません。
なお、2話以外にも当てはまりますが『クロエマ』が面白いのは、パフェのシーンが単なるおしゃれ演出ではなく、その話のテーマを回収する役割を担っている点です。パフェを食べながら、それぞれの視点で、今回起こった出来事の感想戦を行うようなイメージですかね。リアリティの面、細かな言葉選び、所作でキャラの真意を伝えるところ、それからパフェでのテーマ回収など、あらゆる面で卓越しているのが2話でした。
ドラマ『クロエマ』を考察:なぜ火事に気づいたのか? エマの正体と特殊能力について
『クロエマ』はすでに全5話の配信が終わり、最終話を迎えましたが、非常に気になる終わり方でしたよね。クロエの家庭事情や、エマのバックボーンも分からないままなので、シーズン2が期待されるところです。何より気になるのが、家なき子として彷徨っていたエマのバックボーンは、一体どういったものなのでしょうか?
原作未読の私ですが、エマに関する謎を少しだけ考察してみようかと思います。現時点でのエマのバックボーンに関わる情報を整理しておくと、まず間違いないのは、カリスマ占い師・寧山新月(ねいさんしんげつ)と何らかの関係があるということですね。
3話のエマの発言によると、テレビで見た寧山新月の朝食には、エマの母親が作ってくれたオムハムエッグとそっくりの品が出ていたとのこと。さらに4話で、寧山はエマの下の名前を口にしながら「宵(しょう)の行方を捜せ」と言っていましたし、エマと寧山、あともう1人の子供が並んで映るスリーショットの写真もありました。
また4話では、布団で横たわる誰かに向かって、寧山が「無理をさせ過ぎたな、暁(ぎょう)」と呼び掛けていました。「宵」も「暁」も、どちらも時間帯を表す言葉。名前の方向性は似ています。そして先ほどのスリーショット写真から推測すると、真ん中は寧山、その左右に並んでいる子供の片方が宵、もう片方を暁と考えるのが自然だと思われます。
ここで引っかかるのは「無理をさせ過ぎたな、暁(ぎょう)」というセリフです。さて、どんな無理をさせたのでしょうか。普通に類推できるのは、寧山は稀代の占い師ですから、未来予知に関わる何らかの力を暁が持っていて、その力を使い過ぎてしまったということなのかもしれません。子供を犠牲にして成り立つ、闇の占星術的なことですかね。
また写真に並んで映っていたことから考えて、暁と宵が兄妹の可能性もあります。もし血を引いていれば、暁と同じ能力を宵が有していることもあり得ます。そう考えると「宵(しょう)の行方を捜せ」というのは、暁と同じ力を持つ宵を連れて来い、というようにも取れます。
ややスピリチュアル過ぎるかもしれませんが、あながち的外れでもないと思っています。理由は2つあります。1つ目は最終話に、やたらと「鬼」の話題が出て来た点です。あれは最終話の相談者・田中奏大の本名と関わっていたというオチですが、次回以降の伏線という印象も拭えません。
女性連れ去り連続殺人事件や田中奏大との出会いなど、『クロエマ』はメインのエピソードを展開しつつ、次回以降、重要になる単語や人物をサッと登場させるという、作劇を行う傾向があります。その点で私は「鬼」もなんらかの伏線なんじゃないかと踏んでいます。劇中でも“鬼”というワードについて考えを深めた時、エマは突如、目がくらんで倒れてしまいました。意味もなく倒れるとは思えないので「鬼」に関わることを思い出すと気絶するように暗示がかけられているとか、なんらかの超常的能力と関係している可能性は否定できないでしょう。
2つ目は期せずしてクロエを救っている点です。エマは1話の火事、最終話の誘拐殺人からクロエを未然に救っています。1話が印象的なのですが、寝ている最中に「なんだ? 火?」とお告げのように、瞼の裏に炎のイメージが浮かんでいましたよね。
すでに母屋が燃え始めていたから、刺激されて夢に火が出て来たとも言えそうですが、離れで寝ていたエマが、母屋の火事に気付くまでには少々時間差がありました。そもそもエマは火事の渦中にいて、慌てて目を覚ましたわけではありません。火の夢を見て何となく目を覚まし、台所で水を飲む余裕もありました。
その後に、ようやくカーテンを開けて、火事に気づくわけなので、やはり夢を見てから、火事に気付くまでラグがあるんですよね。そのため、火の夢は火事になる前に見ているものと推測され、夢は予言的なものだったと考えられます。エマは無意識に未来予知のスキルを発動してしまっていた可能性があるのです。
最終話で田中奏大の危険性になんとなく気づいていたのはエマですし、あと見逃しがちですが、第4話で行方不明になった設計事務所の建築士・大庵理華(だいあんりか)を見つけたのも、なぜかエマが突然単独行動を取り、家電量販店に行ってテレビ中継に映る大庵を発見したからでした。エマは何かと勘が鋭いんですよね。
こうした観点から見てもエマが“鬼”と、寧山の家に関わる特殊能力を持っていることが予測されます。もしかすると、母親は寧山家の宿命から娘を守るために、連れだしたのかもしれません。とはいえ、エマは寧山のことを覚えていないようですし、どうして忘れてしまっているのかは気がかりなところです。
ざっくりな考察で恐縮ですが、現時点で推測できるのはここまで。真相はシーズン2を待つか、原作を読むしかなさそうですね。エマのバックボーン、そしてクロエのバックボーンがどう関わるかも含め、今後の展開が楽しみです。
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