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もっと安くなる、賢い見積もりの取り方企業システム戦略の基礎知識(6)(2/2 ページ)

システム関連コストの削減は、情報システム部門にとっては大きなミッションだ。今回は効果的なシステム投資を実現するための見積もりの方法について考えていこう

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人月の矛盾

 ソフトウェアの開発費用は、『作業時間(人月)』に単位金額を乗じて決める。つまり、製造コストのほとんどが人件費だ。その生産性は、使用する開発ツールやプログラミング言語、開発手法、人の能力などで決まる。

 従って、同じ画面数のシステムであっても、生産性によってシステム構築費用は、大きく異なる。業者から一式1000万円の見積もりであっても、生産性によって1/2?1/3にもなる。

 実は、ここに大きな矛盾がある。それは、ソフトウェアの生産性は個人の能力に最も左右されるという点だ。例えば、同じ画面・機能のプログラムであっても、優秀な人なら1カ月、ところが新人や不慣れな人では2カ月かかる。その場合、単価が、1人月で100万円とすると、出来の悪い人がやった方が200万円と高額になってしまう。個人能力による生産性の差は、最大で10倍以上という調査結果もある。

 発注側からすれば一定の画面・機能を求め、それに対して対価を払おうというのであって、同じものが入手できれば誰がやろうと同じ価値であるはずである。にもかかわらず、価格が違うというのは明らかに矛盾がある。作業時間の原単位としてプログラムの行数(命令数)で提示している業者もあるかもしれないが結果は同じ。優秀な人が書けば、1000行で実現できる機能を、出来の悪い人が書けば、2000行になるかもしれない。また、最近の生産性の高い開発ツールを使用すれば、逆にプログラムの行数は極端に少なくなる。

 このように作業時間やプログラム行数を基礎とした、人月による見積もり金額というのは非常に大きな矛盾を抱えている。そこで、先に述べたファンクションポイント法が考案された。

オーバースペックなハードウェア

 システムはハードウェアとソフトウェアから構成されており、同時利用人数、利用回数、データ量などによって性能が決まり、それが価格に影響する。同時利用人数が5人、利用回数が1日に数回、データ量が数万件のシステムに、果たして高価なサーバやデータベースソフトが必要だろうか。これらを、前もって明確にしておくことで、不必要に高いハードウェアやソフトウェアを購入する必要がなくなる。

 考えてみてほしい。最近の市販パソコンは10万円程度のものでも、性能は20年前の大型汎用コンピュータをはるかにしのいでいる。昔は、その非力なマシンで、基幹システムであれ、生産管理システムであれ動かしてきたのである。また、大型コンピュータと異なり、いまのパソコンは簡単に、しかも格安で性能をアップすることができる。負荷が増加して応答時間が遅くなってから、メモリなどを追加しても遅くはない。

 データベースソフトにしても、最初から高価なものを使用するより、データ量や利用人数、頻度の増加に合わせてグレードアップするのがよい。最近では、無償でも商用品に引けを取らないオープンソースのデータベースソフトもある。最初は、そのようなものを利用しておいて、後で商用のデータベースソフトに簡単に取り換えることができるようなプログラムの作り方はある。とにかく、有名な商用品はライセンス料が高く、利用人数分必要になるため、それだけで数十?百万円にもなってしまう。信頼性やサポートは、必ずしも金額に比例するとは限らない。データベースソフト自体が、どれだけのビジネス価値を生み出すのかよく考えよう。

 信頼性の面で業者がよく提案してくるのが、ハードウェアの2重化対策だ。ホストコンピュータを否定しダウンサイジングさせておきながら、信頼性の確保のために同じものを2セット用意しましょうというのだから理解に苦しむ。

 実のところ、1秒たりとも止まっては困るようなシステムはそんなに多くはないはずだ。システムは機械系と人間系の混在系であり、万一機械が止まっても人間系で業務が継続できるようにシステム全体を設計すればよいのだ。ちょっと近所へ買い物に行くのにベンツを買うようなマネは、避けたいものだ。

 次回は、業者との契約におけるチェック・ポイントについて解説する。

著者紹介

▼著者名 青島 弘幸(あおしま ひろゆき)

「企業システム戦略家」(企業システム戦略研究会代表)

日本システムアナリスト協会正会員、経済産業省認定 高度情報処理技術者(システムアナリスト、プロジェクトマネージャ、システム監査技術者)

大手製造業のシステム部門にて、20年以上、生産管理システムを中心に多数のシステム開発・保守を手掛けるとともに、システム開発標準策定、ファンクションポイント法による見積もり基準の策定、汎用ソフトウェア部品の開発など「最小の投資で最大の効果を得、会社を強くする」システム戦略の研究・実践に一貫して取り組んでいる。趣味は、乗馬、空手道、速読。

システム構築駆け込み寺」を運営している。

メールアドレス:hiroyuki_aoshima@mail.goo.ne.jp


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