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建設・不動産業界が目指すべき、“明日の基幹システム”特別企画:業界研究(2/2 ページ)

「バブル崩壊」で大きな痛手を受け、長くその傷が癒えなかった建設・不動産業界。グローバル化の影響が少なかったこの業界にも、そのグローバル化の波が押し寄せようとしている。そんな建設・不動産業界各社に必要とされる企業システムを考察する。

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現行システムをチェックしてみよう

 何だ、ありていな情報開示の勧めか??といわないでほしい。まずは、次のチェックリストで自社の現行システムの現状を再確認していただきたい。次章以降で、先進的な企業での成功事例や、逆に先送り作戦を採択した場合に想定される将来的損失の具体例などに言及しながら、各チェック項目の持つ意味を詳しく見てみよう。あらためて、基幹システム構築/再構築を検討する際の、参考となれば幸いである。

Check1:企業価値を正しく把握できるシステムか

■サブチェック項目

  • 全社の情報を集中的に管理できるか
  • 少なくとも前日の実績データを把握できるか
  • 節目ごとに社内けん制が入るシステムか

 厳しい時代の総決算として、国内外の事業会社やファンドから再建支援を受けるという企業が散見されるようになった。この場合、株主が変われば経営者も変わる。かつてのように、現場のことを知り尽くした人がトップに上り詰めるという時代ではない。プロの経営者が、期限付きのコミットメントを持って、企業の経営に当たるという時代が、現実に到来しているのである。

 彼らの役目は、企業全体を利益の出る体質にしていくことに限らない。不採算事業からの撤退や、場合によっては自社をほかの企業に高値で売却することも含まれる。さまざまな異論はあろうが、一定期間に最大の利益を生むことがプロの経営者に課せられた役目であり、そのための手段として、事業/企業の売買も、極めて有効な手段の1つなのだ。その際、彼らが依拠できるものは凸凹をならしたり、悪いところをオブラートに包んだりしていない“真実”のデータだけである。

 こうした傾向は投資会社などに限ったことではない。筆者がERP導入決定のお手伝いをしたある専門工事会社でも、社長自ら「建設業にもPOSの発想が必要」という表現で“日次決算”の必要性を説き、そのために発生源でのデータ入力を徹底し、不必要な集計や締め処理を省く一方で、購買は必ず予算チェックプロセスを経由するという仕組みを活用している。また、数年前外資傘下に入った別の専門工事会社では、「顧客に請求した割合」をもって工事進行基準の進ちょく率とする管理会計の仕組みを使い、業績管理と売掛回収の内部けん制を同時に実現している。

Check2:企業活動を適切に振り返ることができるか

■サブチェック項目

  • 随時、処理の基準を変更できるか
  • 仮定に基づくシミュレーションが行えるか
  • 任意の会計期間や過年度との累積通算・比較が容易に行えるか

 リアルタイムのデータ分析機能で的確な経営判断をサポートします??というPR文を掲げるソフトウェアパッケージがあるが、厳密にいうと正しい表現ではないと思う。情報システムがサポートできる範囲というのは、経営的な判断がなされた時点の想定と、現実の成果とを比較し、その原因(と想定されるもの)を探り出すまでであって、結果として次なる操縦かんの微調整がよりスムーズなものになるかもしれないというだけの話である。

 ともあれ、これらのことを容易に実現するには、当初時点の想定値を仮定条件とともに保管しておき、任意の時点での実績値と随時比較することだ。比較の際には部門・商品・エリアなどの多角的な分析軸が設定できなくてはならない。また、実績値の管理についても複数の配賦基準を設定し、処理前後の値を包括的に比較し得る仕組みなどが望ましい。

 筆者がプロジェクトに携わった複数の建設会社でも、予定配賦と実績配賦を統合的に管理することで月次決算の早期化を実現したケースや、業績/発生の予測と実績値をタイムリーに比較できるようにしたケースなどがある。

 さらに米国のREIT(不動産投資信託)などでは、想定インフレ率や、契約満了時の想定解約率、空室期間、修繕費の見込みなどに基づく収支予測を自動計算する仕組みによって、将来の事業計画、キャッシュフローベースでの投資効果判定などを効率的に行えるようになっている。

Check3:企業活動の展開を妨げないシステムか(技術面)

■サブチェック項目

  • システムの設計・仕様を十分に理解した人がいるか
  • 技術的進化に追随できるか
  • 社外に開いているシステムか

 かつては汎用機上でそれ専用のコンピュータ言語で開発されたシステムも、ロジック・コンバージョンでダウンサイジングを行ったり、Webブラウザで画面表示したりすることが可能となっている。これらの技術を使えば、一見“今風”のシステムを構築することができ、それで十分なようにも思える。

 しかし、恐らく多くのケースにおいて、この手法では社外に開いたシステムを構築することは困難である。“SOA(Service Oriented Architecture)”などというと、単なるIT業界のはやり言葉のように思われるかもしれないが、「情報革命」による“中抜き”の時代には、不動産店に足を運ばないと物件情報が見られないとか、ゼネコン・サブコンといった重層構造の下で受注を行うといったビジネスモデルは遠からず立ち行かなくなる。実際、すでに流通業界などでは、卸に口銭は支払うが実際の物流はメーカー直取引というような例も出始めている。

 こうした状況下では、従来取引関係のなかった相手をも含む多数同士を連携する“デジタル・マーケットプレイス”のような仕組みが不可欠となるが、この企業の外側に開いたシステムとのデータ連携を自動化するには、個別アプリケーションやシステムアーキテクチャの違いを乗り越えられるシステム設計が不可欠だ。そのためには、独自OSの世界にクローズされた汎用機システムや、リレーショナルデータベースを想定しないテーブル設計、イベントドリブンでない処理ロジックでは、柔軟な対応が期待できないだろうということだ。

 次項でも見るグローバル化の流れの中で、周回遅れどころが2周遅れにならないうちに、お化粧直しにとどまらない対策を講じられたいと思う。

Check4:企業活動の展開を妨げないシステムか(業務面)

■サブチェック項目

  • 組織・人員の流動化に耐えられるか
  • 業務手順の変更に耐えられるか
  • グローバル化に耐えられるか

 もはやグローバル化の流れを押し戻すことはできない。護送船団といわれた金融業界の様変わりもすでに久しく、ドメスティックな業界の代表のようにいわれた不動産業でも証券化ビジネスの普及を呼び水に外資の存在感が急速に強まっている。西友への出資で話題を呼んだ小売の雄

ウォルマートも、サブテナントへの店舗貸付業者としての側面を強く持っている。建設でも防火設備やエレベータをはじめ専門工事では、すでに事業会社としての外資参入が進んでいる。「最後の砦(とりで)」であったゼネコン業界でも、米投資銀行からの出資がなされるというニュースが記憶に新しい。

 「ウチは株式も公開していない地域密着型の工務店だから」というような次元の問題ではない。主要顧客が外資系になる場合もあるだろう。

 (いわゆる外資系の)親会社あるいは主要顧客からの要求は有無をいわさぬものであるため、企業システムに与えるインパクトも甚大である。

 筆者が担当している某不動産会社では、あるとき、外資系投資会社から賃貸物件の管理を大量受託した。月次の家賃請求?入金管理というような現場実務は社有物件と大差ないが、事後の処理は、使用する勘定科目(売上と預り金)、計上タイミング(発生主義と現金主義)、さらに英語でのレポート作成などと大きく異なる内容が求められた。このケースでは、従来社有物件賃貸に使用していたERPパッケージの一部設定変更のみで対応できたのだが、一からシステムを開発するアプローチでは、対応までに膨大な手間と期間がかかったり、最悪の場合は“外部物件の管理受託”というビジネスチャンスを失うことになったりする危険もあったわけである。

 また、ある外資傘下に入った流通大手では、(従来、表計算ソフトなどで行っていた)店舗設備とテナント管理のための仕組みとして、全社共通のパッケージシステムを至急導入することが指示されたのである。

差別化ポイントが“誠意”のままでよいか?

 “誠意”――いまから10年近く前、まだインターネット売買に特化する前の某証券会社の社長が、当時の外交営業マンに対して「君たちの“売り物”は何か?」を尋ねた際の答えだそうである。

 長年の経験に裏打ちされた相場の知識は十分に有していても、一戦(売買)ごとの勝敗は水物だ。株式取引に掛かる手数料についても自由化以前の話であり、ましてや四大証券(当時)に比べてもかなり小規模な会社では、“誠意”という言葉に集約される、小まめな訪問と情報提供ということくらいしか差別化要素が見つからなかったということなのだろうが、いまや世はすっかり様変わりし、ネット証券の全盛といっていい時代になっている。この世界ではすでに「安さ」を武器にする手数料競争は終わりを告げ、次のフェイズに突入している。

 翻って建設・不動産業界はどうだろう。顧客と事業者の間の情報格差は相変わらず大きく、不動産仲介手数料が割り引かれたという話は、あまり耳にしない。本稿で述べた内容の多くも、自社の環境に照らしてみた場合にいま一つピンと来ない、ないしは「未来予想図」のように感ぜられる方も多いかもしれない。

 しかしながら、Check4:グローバル化の項でも述べたとおり、時代の波は確実に近寄ってきている。筆者には、3年前の北海道の収賄疑惑あたりから先般の道路公団関連の談合疑惑摘発まで、もろもろの事件がこうした大きな社会変化のうねりが作り出す波しぶきであるような気がしてならない。

著者紹介

▼著者名 大久保 享信(おおくぼ たかのぶ)

日本ピープルソフト株式会社シニアソリューションコンサルタント

東京生まれ、東京大学文学部卒

平成元年スターツ(株)入社?経営企画室配属後、2度の全社基幹システム構築プロジェクトに社内リーダーとして携わる。1998年より現職、建設・不動産・サービス業などを中心に、同業界においては米国トップシェアのJD Edwards ERP製品の日本国内への紹介、個別企業における導入決定支援に携わる。


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