「ITはすでにインフラ技術としてコモディティ化しており、いまや企業の競争優位や差別化の源泉にはならない」と論じたニコラス・G・カー(Nicholas G. Carr)の論文のこと。『Harvard Business Review』誌の2003年5月号に掲載され、IT業界などからの強い反発とともに論争を巻き起こした。
カーの主張の概要は、次のようなものになる。
- ITの中核的機能(データ蓄積/データ処理/データ転送)はもはや、誰でも入手できるものとなっており、ITさえあれば競争相手との差別化ができるという時代は去った
- ITの価格は下がりつづけており、一般的なIT活用においては先行せずに追従することで購入リスクを小さくできる
- その一方でITはビジネスに不可欠なものになっており、ITマネジメントで注意すべきはチャンスではなく弱点である
- したがって、競争優位を求める積極的なIT投資を避け、コストとリスクを適切に管理すべきだ
この論文でいうITとは、ITユーザーがITベンダから購入するコンピュータのハードウェア、ソフトウェア、ネットワークなどの要素技術のことを指しており、ITを使いこなす能力――ITケイパビリティやIT成熟度、情報活用による創発的イノベーションなどの視点を欠いている。その辺りをこの論文の問題点と指摘する識者も少なくない。
なお、カーは『MIT Salon Management Review』誌 2005年春号に「The End of Corporate Computing」を発表、ITはやがてサービスとして提供されるようになり、企業自身がコンピュータ・システムを購入することはなくなり、従来のような情報システム部門も不要になると述べている。
参考文献
▼「もはやITに戦略的価値はない」 ニコラス・G・カー=著/DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー/ダイヤモンド社/2004年(「IT Doesn't Matter」 Harvard Business Review, May 2003の邦訳)
▼『ITにお金を使うのは、もうおやめなさい』 ニコラス・G・カー=著/清川幸美=訳/ランダムハウス講談社/2005年4月(『Does IT Matter?: Information Technology and the Corrosion of Competitive Advantage』の邦訳)(ブックガイド)
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