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戦略と技術のコラボレーションで事業をつくる例で学ぶビジネスモデリング(8)(2/4 ページ)

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システムだけではない広い視野から大きな仕事に挑戦する

 久慈部長からさらに詳しい話を聞いて会社に戻った湯舟と野田は、コーヒー・コーナーで討議を始めた。

 「何だか、結局すごいテーマをもらっちゃったことになるな、あれって結局、“新しい広告媒体を開発してくれ”って話、でしょ?」

 コーヒーをつぎながら湯舟がいう。野田はコーヒーをすすりながら答える。

 「まあ、いってみれば、そういうことになっちゃう。ネットも含め、既存媒体じゃダメ、もっと一般にリーチできる媒体が必要だ、と」

  「誰だよ、普通にネット広告の話ができればいいからなんていってたのは」

 野田の向かいに腰を下ろして、少し恨めしい気分で湯舟はつぶやいた。野田にそういわれて、湯舟は今日の同行を了解したのだ。

 「しょうがないじゃん、紹介してくれた前職の連れがそういってたんだから。オレだって驚いてるって。それはそれとして、面白そうな話でもある」

  「面白そうではあるけどさ……、なんか、腹積もりでも?」

コーヒーが熱過ぎて、猫舌の湯舟はまだ口が付けられない。野田は、にやりと笑った。

 「広告媒体を作れ、ってことなら、広告屋と組めばいいんじゃないかとね」

  「広告代理店ってこと? 大掛かりになり過ぎないか?」

  「代理店だけじゃなく、媒体側もだろうな。そりゃ、大掛かりにはなるさ、大きなネタなんだから」

 誰かのおみやげらしいクッキーの缶を開けながら、野田は事もなげにいう。

 「ブログがそこそこいけてるって話なんだから、それをベースにもう少しなんとかする、ってのはダメなのかな」

 気を付けてコーヒーをすすりながら湯舟はいった。代理店や媒体を巻き込んで、一体どんな話にしようというのだ。もしそんな話になるというなら、システム屋である自分の出番は、まだずいぶん先のことじゃないのか。クッキーをくわえた野田が答える。


<<ポイント>> 自分の仕事の枠を自分で決めてしまうのは、成長の限界を作ることにもなりかねない。特に方向付けを行う段階では、ゼロベースで発想できることが重要。


 「なくはないだろうけど、それくらいはたぶん、久慈さんの方でやるさ」

  「まあね、そうかもしれない……」

 クッキーの缶を差し出す野田へ、首を横に振った。甘いものは苦手だ。甘いもの、熱いものは苦手。辛いものは得意なのだが。

 「で、こないだ湯舟が見せてくれた、なんか携帯の新しいサービス。何とかカードとかってあったじゃない」

 湯舟は先日3年ぶりに携帯電話の端末を買い替えて、ここ最近は暇さえあれば新しい機能をいじり倒していた。知らない機能やサービスばかりで、これでITコンサル名乗っちゃダメだよなぁ、と野田に自嘲したものだ。

 「ああ、ピタカね」

 ピタカは、湯舟が加入している携帯キャリアの独自サービスで、モバイルWebサイトや非接触ICを経由して入手できる、デジタルカードのサービス名だ。実体は所定のフォーマットのテキストファイルで、画像やリンクなどのURLを組み込めるようになっている。メールに添付したり、Bluetoothや赤外線を通じて、ユーザー同士でやりとりできるらしい。


<<ポイント>> 技術やビジネスなど、自分の商売のタネには、できるだけアンテナを高く張っておく。アンテナにちょっとでも引っ掛かったら、納得するまで掘り下げてみる。


 「あれを使って何かできないか?」

「うーん、こないだ調べた限りでは、仕様上は、複製を防げないってところが、使い道を限定してしまうかな、って思った。基本的に、クーポンとかのばらまき用なんだな。ただ、埋め込む画像はサーバ側で制御できるから、そこで制御しようと思えばできるかな……」

 湯舟は記憶をたどりながら考え考え話した。野田が笑った。

 「ちょっと、ちょっと。もう少しオレにも分かるように説明してくれ」

「分かるように説明してくれって、こっちだってピタカの専門家じゃないし、そっちが何をしたいかも分かんないし、それをいうなら、そっちこそ何をしたいか説明してくれよ!」

 湯舟は少し腹を立てた。

 「そりゃそうだな。けどな、何ができるかは湯舟にしか分からんし、こっちはそれがビジネスになるかを考えることしかできないし。でも、どう? 何かできそうじゃない?」

  「だから、少なくとも、普通のクーポンビジネスはできるよ、現実にやってるし」

  「でも、普通のクーポンと同じじゃ、わざわざこの技術に投資してやる意味はないもんな。何が普通のクーポンと違ってくるんだろうってところ、あるいはクーポンを離れて何か、ってところ。そうだなぁ、『普通のクーポンより配布コストが下がります』『クーポンが口コミで広がります』なんて話だったり……。あとはいま湯舟がいった、画像はなんか制御できるって、どんな制御ができて、どんな役に立つのか、とか……」

 「あぁ……、そうね、配布の話でいけば、非接触ICのリーダライタをどこに置くのか、それはコストという話にもなるし、駅でスタンプラリーをやって乗客増みたいな話にもなる、とか、そういう広がりはあるね」

 「そうそう、そんな感じ。結構ネタがありそうじゃない?」

 「そうだね、いくつかぼんやりとはあるね」

 「さすが。じゃあ、湯舟の方で、もう少しそのピタカの詳細を調べて、ネタを集めておいてよ、こっちは、提携とか、ビジネススキームを考えてみる」

 何だか、うまく乗せられているような気がしつつも、湯舟はコーヒーをすすりながらうなずいた。コーヒーはもう十分に冷めていた。


<<ポイント>> 「非技術者と技術的な話ができる」ことは必須スキル。聞き手が重視するポイントに絞って説明する。


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