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Amazonのリコメンド機能と天気予報は同じ―捜査技術の第6条「捜査のプロは分類能力が極めて高い」―ビジネス刑事の捜査技術(11)(2/3 ページ)

蓄えた情報や知識を体系化すると、新たに出てきた問題が過去のどの情報や知識に関係するかを推理できるようになる。今回は、捜査の技術第6条「捜査のプロは分類能力が極めて高い」について、データに基づいて推測することの重要性を考える。

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分類判定による仮説の立案と検証

 プロファイリング、リーディングの話を聞いている人には、彼らが予言しているように聞こえているのだが、実は彼らがやっていることは常に分類判定による仮説定義にすぎない。

 彼らにとっては仮説は外れても当たり前、外れてくれても真実に近づけると考えている。仮説を立案して仮説を検証するというルーチンこそ、彼らの技術であり、その能力は有効な仮説を立案するために、どれだけの関連知識と経験を持っているかにかかっている。

 だからこそ、関連知識の部分については、コンピュータによる人工知能、ナレッジデータベース応用への可能性が広がってくるのである。コンピュータを使って、初期情報だけで分類判定させることができれば成功確率は高くなる。このことはビジネス社会でも何ら変わらない。

 優秀な営業担当者も、事前の企業情報だけでその企業の購買担当者のイメージを描いている。そして、面談を繰り返すうちに、購買担当者イメージを詳細化したり、変更したりしている。マーケティングも品質管理も経営企画もすべて同じである。ワールドカップではドイツのゴールキーパーがペナルティキックの方角を見事に予測していた。事前に相手国選手の癖を情報分析していたという。

 詐欺師が使う技術もまた、分類判定による仮説の立案と検証である。酸性と思ってリトマス試験紙で反応を見て、赤色にならなければアルカリ性か中性である。人の悩みのパターンも多そうで少ない。

 人間の悩みの大半は、経済的悩みか人間的悩みのどちらかである。経済的悩みでなければ人間的悩み。もしくはその両方だ。天気予報も同じことで、良い天気か悪い天気。あるいはその両方である。世の中、どちらか一方ということの方が少ないので、誰にでも当たるように誘導したいのであれば、両方いっておけばよいことになる。探るのであれば、片側の反応を見ればいい。

 1人1人の悩みの内容は無限でも、そのパターンは驚くほど少ない。そのパターン、つまり悩みの分類さえしっかりと押さえておけば真実を探り出すことができるのである。

思い込みでだまされることと、プロファイリングとの違いは分類の検証

 立派なスーツを着ている人は勝ち組で、破れた服を着た人は負け組と思ってしまうのは仕方ないことだ。

 ほとんどの場合はそうだからである。詐欺師はこの分類を逆手に取って、人をだましてしまう。捜査員もプロファイラーも同じことで、最初はやはりだまされてしまう。しかし、彼らが最後までだまされ続けないのは、分類はあくまでも仮説にすぎず、検証しなければならないということを知っているからである。

 そして、その知識はかつてだまされたことがあるとか、だます人間を知っているという失敗や経験に裏打ちされている。残念ながら、机上の知識だけでだまされないようにするのは難しく、やはり現場での経験が長いということは、それなりの評価されるべき価値があるのである(長く勤めていても、「仮説は検証しなければならない」ということを理解していない人も中にはいるが)。

CRMシステムは分類を利用した操作技術だ

 新たに取引が始まった顧客が、次に持つ関心事を先回りして推測してリコメンデーションメールを送るという、インターネット事業者が操っているCRMシステムもまた、天気予報やプロファイリング、リーディングと同じ原理に基づいている。

 ゴルフショップで廉価なクラブセットを買う客は初心者であり、その後、半年後によく飛ぶドライバーを買い、その後、アイアンやパターを買いにくることが多い。デジタルオーディオを買う客は、音楽をダウンロードするためにパソコンとインターネット接続が必要になる。パソコンがあっても大容量のハードディスクはあった方が便利だ。

 法人営業でも状況は変わらない。ある機材を発注してきた顧客は、その機材を保管するケースや使用したり保守するための工具も必要なはずである。継続使用する消耗品ならば先々補充する必要も出てくる。

 こうしたストーリーが描けるのであれば、先回りにしてダイレクトメールなどでプロモ−ションしたり、その場でリコメンデーション(同時購買のプロモ−ション)をすることが可能となる。

 CRMシステムでは天気予報と同じように、過去の顧客反応(問い合わせや注文など)に関する大量のデータが蓄積され、統計解析処理されて類似の行動傾向がパターン分類されている。顧客の問い合わせや注文内容がその都度、パターン分類と比較されることによって、同時購買される商品候補を選び出したり、将来発生する注文ニーズを予測するのである。

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