IT部門が頼りなくなった原因はなんだ?:システム部門Q&A(37)(3/3 ページ)
ベンダ側から見ると、最近のユーザー企業のIT部門は、ユーザーニーズをまとめられないなど、レベルが低下しているという指摘が多い。果たして、この問題は「昔のIT部員は優秀で、最近のIT部員の能力は低下している」ことが原因なのか。今回はこの問題を考える。
ではどうすればよいのか?
以上のように、「IT部門は自信がなく、ユーザーは経験スキルがない」ことがユーザーニーズが決まらず、後になって変更が頻発する原因であることを示しました。
では、どうすればよいのでしょうか? 「IT部門よ、自信を持て」とか「ユーザーよ、知識スキルを向上せよ!!」というだけでは解決にはならないでしょう。
社内の人的対策をどうするか
IT部門とユーザーは戦友なのだ
従来は、ユーザーは要求をするだけで、それを実現するのがIT部門の任務であるとされていました。「ユーザーはお客さま」だったわけです。
ところが現在では、ユーザーもニーズを適切に示せないし、IT部門もニーズを満足させる能力がないのです。これは、解決するべき課題が、社内では未知の問題だからです。そこで、「ユーザーの責任か? IT部門の責任か?」などという前に、未知の問題解決のための戦友として協力することが必要になります。
戦友とは上下関係ではなく、対等な仲間として、互いに信頼して自分の長所を生かし、仲間の弱点を補う関係です。「ユーザーはお客さま」という関係のままでは、戦友にはなれないのです。
○計画的ローテーションが非常に有効だ
戦友になるには、相手を理解することが前提になります。それには日常的な付き合いが必要になります。それには公式な会合だけでなく、ノミュニケーションも含めた雑談的な付き合いが効果的です。そして、それがしやすい環境を作ることが大切です。
日常的な触れ合いは重要ですが、どうしても部分的なものになりますし、対象者も限られます。根本的には計画的なローテーションを行うことが期待されます。ローテーションはユーザーの知識スキル向上にも役立ちます。ローテーションが重要なことは、理念的にはよく認識されていますが、現実には不活発な状態です、根本的な原因解明と対策が期待されています。
社外の活用も大事である
社内では無経験であっても、社外ではポピュラーなことがあります。社内だけで解決するのではなく、社外の知恵を活用することも検討するべきです。
○ベンダSEの家庭医機能をどうするか
昔からIT部門にとってベンダSEは貴重な情報源でありアドバイザでした。しかし、ベンダSEにも環境変化による影響が見られます。
インターネットの発展などによって、一般的な情報は比較的容易に得られるようになりました。そうなると、ベンダSEに求められるのは自社の状況に特化した情報になります。従来のSEは、家庭医のようにユーザー企業の全体を理解し、IT全般の相談に乗ることができました。
ところが、IT部門がそうであるようにベンダSEも多様なIT技術に対応できず、狭い分野に特化するようになりました。本来ならば、ベンダ企業が組織として各分野での専門家間でチームを作りユーザー企業を支援することが期待されます。ところが、ベンダ企業内でも特化が行われたり、人材不足や費用の都合があるなど、家庭医としての体制が取りにくい状態です。しかも、ユーザー側の直接の相手であるIT部門が頼りないこともあり、従来のような関係が崩れています。
○非IT活動をどうするか
ベンダSEは、技術面では頼りになるものの、非IT活動の分野では期待できません。経営コンサルタントは、非IT活動の分野における問題の発見や対処方法の検討などには役立ちますが、実際にカード加入者を増加したり、Webサイトでの注文を増やすなどの実活動は、あくまでもユーザー企業の仕事です。
どの分野にどのような社外能力を活用するか。ユーザー企業は、従来以上にこのことを考えるべき状況になってきたのです。
情報システムでの工夫は?
ニーズも実現方法もあいまいなままに、何とか課題を解決する必要があります。そうなると、情報システム開発での工夫が求められます。
システム開発の方法論の導入を
開発する情報システムは改訂が頻発することを前提としなければなりません。表面的なニーズを忠実に実現すると、かえって改訂しにくいシステムになる危険もあります。
基本的な事項に絞った小規模なシステムにして、適宜拡張できるシステムにすることが効果的です。それには、データ中心アプローチ、オブジェクト指向、SOAなど多くの方法論があります。EAのような可視化の方法論もあります。これらの採用を真剣に検討するべきです。
○EUCの普及を
データウェアハウス的利用とは、基幹系システムで収集蓄積したデータを、ユーザーが使いやすい形式のデータベースにして、ユーザーに使いやすいツールを提供することによって、ユーザーが任意の切り口で検索加工する利用形態です。また、ワークフロー管理システムを普及させることにより、基幹系システムのデータ入力の部分をそれに任せることができます。このようなデータウェアハウス的利用やワークフロー管理システム的利用を、ここではEUCと呼びます。
EUCを情報システム開発の前提とすることによって、出力帳票の大部分の処理、データ入力での画面処理やデータチェックなどの処理を基幹系システムから分離できるので、開発・維持する情報システムの規模を小さくすることができます。それだけでなく、ヒューマンインターフェイスの部分が少なくなりますので、情報システムが簡素化され、上述のシステム開発の方法論の導入が容易になります。
まとめ
- IT部門がユーザーニーズをまとめられなくなったのは、IT部門がIT技術や対象業務などの面で自信を失ったからだ
- 自信がなくなったのは、IT部員の努力不足というよりも、ITを取り巻く環境が大きく変化したから
- 環境変化により、ユーザーもニーズを明確に示すことができない状況になってきた。また、非IT活動が情報システム開発に与える影響も大きくなった。それなのに、ユーザーはそれらの認識が欠けている
- 現在のIT化は、未知への挑戦だ。従って、IT部門もユーザーも戦友として協力する関係にあるべきだ。戦友になるには相互理解が必要であり、それにはローテーションを積極的に行うのが効果的である。また、ローテーションは上記のユーザーの認識を高める効果もある
- ベンダSEや経営コンサルタントなど社外資源の活用を考えるべきである
- ニーズが不明確なのだから、柔軟に改訂できる情報システムにすることが重要だ
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筆者プロフィール
木暮 仁(こぐれ ひとし)
東京生まれ。東京工業大学卒業。コスモ石油、コスモコンピュータセンター、東京経営短期大学教授を経て、現在フリー。情報関連資格は技術士(情報工学)、中小企業診断士、ITコーディネータ、システム監査など。経営と情報の関係につき、経営側・提供側・利用側からタテマエとホンネの双方からの検討に興味を持ち、執筆、講演、大学非常勤講師などをしている。著書は「教科書 情報と社会」(日科技連出版社)、「もうかる情報化、会社をつぶす情報化」(リックテレコム)など多数。http://www.kogures.com/hitoshi/にて、大学での授業テキストや講演の内容などを公開している
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