旧ソ連で生まれた問題解決技法。問題(矛盾)を創造的・発明的に解決するための弁証法的な思考法と具体的な方法論??すなわち、膨大かつ綿密な思考・創造支援のための技法とツール、およびシステマチックな問題解決プロセスを提供する、壮大な技術思想体系である。
TRIZは、技術進化・創造的発明というものを「理想性の向上」と見なし、問題をシステム(技術システム)としてとらえて、その要素間の矛盾(弁証法的矛盾)をトレードオフや最適化のようにほどほどの均衡点を探るのではなく、完全に克服することを目指す。
TRIZという表記は、日本語で「発明的問題解決の理論」を意味するロシア語(キリル文字)のТРИЗ(теория решения изобретательских задач)の頭文字をローマ字にしたもの。この表記で世界的に通用するが、英語ではまれにTIPS(theory of inventive problem solving)と書く場合もある。
TRIZで特徴的なのは、過去の特許・発明事例から解決アイデアを抽象的な形で抽出・記録して、膨大な知識ベースに蓄積し、これを具体的な問題に当てはめて創造活動を支援するという点である。この知識ベースは専門分野や製品分野ごとではなく、問題解決の目標別に分類されており、広範な問題に普遍的に適用できるよう体系化されている。
TRIZの知識ベースは多数あるが、最も初期からあってTRIZの土台になっているのが「40の発明原理」(発明原理とその事例集)である。発明(問題解決)というのはまったく新しい原理の発明・発見によるものはほとんどなく、大半は過去の技術や他分野のアイデアの適用・組み合わせであって、そうしたこれまでに登場したアイデアのパターンを網羅的に整理したものが「発明原理」である。いわば“頭の捻り方”のパターン集であり、目の前の課題を解決するヒントはたいていの場合、この中に含まれるということになる。
1. 分割原理 2. 分離原理 3. 局所的性質原理 4. 非対称原理 5. 組み合わせ原理 6. 汎用性原理 7. 入れ子原理 8. つり合い原理 9. 先取り反作用原理 10. 先取り作用原理 11. 事前保護原理 12. 等ポテンシャル原理 13. 逆発想原理 14. 曲面原理 |
15. ダイナミック性原理 16. アバウト原理 17. 多次元移行原理 18. 機械的振動原理 19. 周期的作用原理 20. 連続性原理 21. 高速実行原理 22. 「災いを転じて福となす」の原理 23. フィードバック原理 24. 仲介原理 25. セルフサービス原理 26. 代替原理 27. 「高価な長寿命より安価な短寿命」の原理 |
28. 機械的システム代替原理 29. 流体利用原理 30. 薄膜利用原理 31. 多孔質利用原理 32. 色変原理 33. 均質性原理 34. 排除/再生原理 35. パラメータ変更原理 36. 相変化原理 37. 熱膨張原理 38. 高濃度酸素利用原理 39. 不活性雰囲気利用原理 40. 複合材料原理 |
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40の発明原理 |
40もの発明原理(サブ原理を含めると100以上)をしらみつぶしに探すのは効率的ではないため、求める発明原理に素早くたどり着けるよう、「矛盾マトリクス」というツールも用意されている。
TRIZにはほかにも「技術システム進化の法則」「物質?場分析」「発明標準解」「進化パターンツリー」「技術的問題解決の科学的・工学的効果集」など、膨大な数のツールが提供されている。また、これらツールの適応法を含めて、問題解決の手順を定式化した「ARIZ」(アリーズ)と呼ばれる問題解決ステップもある。
TRIZは、ゲンリック・S・アルトシュラー(Genrikh Saulovich Altshuller)という人物によって創始された。1946年、旧ソ連海軍の特許審査員だった彼は多数の特許を見るうちに、異なる分野・課題で類似の解決策が繰り返し適用されていることに気付き、この基本原理を抽出・整理して発明手法を定式化するという着想を得た。政府の支援を請うことを考えたアルトシュラーは、1948年に書簡をスターリンに送るが、内容にソ連海軍の非効率性を指摘する部分があったため、反体制派として強制労働収容所送りになってしまう。
スターリン死去の翌年(1954年)、特赦で釈放されたアルトシュラーはTRIZ研究を本格化し、さまざまな技術分野の特許(250万件以上といわれる)の分析を進めた。1974年に再び当局から弾圧されるようになるが、その間も研究と人材育成を進め、1985年に一応の完成を見る。ここまでのTRIZを古典的TRIZ(クラシカルTRIZ、ベーシックTRIZ)と呼ぶ。その後は後継者たちが研究を引き継ぎ、1992年の冷戦終結後は西側諸国にも伝えられ、コンピュータ・ソフトウェア化などの新たな展開が進んでいる。これら新しいTRIZを現代版TRIZ(コンテンポラリーTRIZ)などという。
現在でもTRIZは理論面の研究に加えて、従来ツールの拡張・革新、技術トレンド予測といった新手法開発などが行われているほか、QFD(品質機能展開)やタグチメソッドなどとの連携も進められている。また、従来は製造業の製品開発に利用されることが多かったが、一般マネジメントやIT(システム開発)といった分野に適用する例も見られるようになっている。
参考文献
▼「発明的創造の心理学について」 G・S・アルトシュラー、R・B・シャピロ=著/黒澤愼輔=訳/産業能率大学 教育研究所サイト産業能率大学 教育研究所サイト
▼『原理と概念に見る全体像??入門編』 ゲンリック・アルトシューラー=著/日経メカニカル=編/遠藤敬一、高田孝夫=訳/日経BP社/1999年12月
▼『発明発想入門』 G・アリトシュルレル=著/遠藤敬一、高田孝夫=訳/アグネ/1972年5月
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