文化や言語の壁を超えるオフショア開発とは?:現地からお届け!中国オフショア最新事情(11)(2/3 ページ)
現代の日本社会では、従業員の雇用形態の多様化は避けられない状況だ。そこで今回は、多様性の中でもオフショア開発者の関心が高い4つの次元に焦点を当てて、プロジェクトマネジメントの領域における多様性マネジメントを説明する。
オフショア開発の多様性4次元を考える
一般的な多様性マネジメントでは、数多くの要因を扱います。ここでは、プロジェクトマネジメントと問題解決の観点から、オフショア開発に関連する多様性を4次元で表します。多様性の4次元とは、1. 言語の多様性、2. 組織の多様性、3. 文化の多様性、4. 地域の多様性の4つとなります。
言語の多様性
言語の多様性とは、文字通りオフショア開発で用いられるコミュニケーション言語が多様化したことを表します。主に日本語、中国語、英語の3カ国語によるコミュニケーション活動が多様性マネジメントの対象です。
言語の多様性は表面的で分かりやすいため、これまでにたくさんの事例や研究成果が報告されています。
参考記事
日本と中国人の英語、現地ではこんな会話がされている (@IT情報マネジメント)
ですが、オフショア開発実務者にとって最も重要な対象言語は「外国人日本語」です。すなわち、中国人ブリッジSEの日本語、インド人営業の日本語など、日本語を母国語としない外国人技術者や、外国人通訳がしゃべる日本語です。
このような「外国人日本語」も重要なマネジメントの対象です。日本企業における言語の多様性マネジメントの重要性は、肌の色や顔、背丈が日本人と近く、流暢(りゅうちょう)な日本語を操る中国ブリッジSEとのコミュニケーションの中で特に実感させられます。
エリート意識の高い日本語通訳(技術力の低いブリッジSE)が暴走し、中国人同士で仲間割れ。日本側は日本語で会話できる通訳・ブリッジSEの意見にのみ耳を傾けるため、混乱に拍車が掛かる、というケースをよく耳にします。
中国人通訳に関する無用なトラブルを避けるために、次の3点に気を付けてください。
- 通訳の向こう側にいる本当に伝えたい人々に向かって話す
- ワンセンテンスごとに逐次翻訳させる
- 結論を先に、理由や説明を後に述べる
中国オフショア開発で通訳やブリッジSEを介して会話する際には、しゃべる前に相手が聞きやすい思考パターンで頭の中を整理します。
外国人との会話で、たまたま日本語という手段を使って話すだけです。残念ながら、日本語通訳としての専門教育を受けたブリッジSEはほとんど存在しません。ですから、相手の力量を把握するまでは、ブリッジSEに複雑な業務知識や日本人固有の思考パターンの変換までを期待してはいけません。
組織の多様性
組織の多様性とは、組織構造の多様性と組織運営の多様性との2つに大別されます。
・組織構造の多様性
組織構造の多様性とは、日本本社と中国法人といった親子関係、ラボ契約による長期的な開発要員の囲い込みなど、多様なチーム形態のことです。
参考記事
おぜん立てされた中国オフショア開発のラボ契約 (@IT情報マネジメント)
・組織構造の多様性が対立原因を隠してしまう
オフショア開発における多様な組織構造は、個人間で生じた軋轢(あつれき)や各種対立の原因を隠してしまうことがあります。
例えば、オフショア開発抵抗勢力の日本人メンバーが、最初から中国に対して冷ややかな態度をとることがあります。このとき、オフショア推進派が日本人メンバーの気持ちを無視して個人攻撃しても、問題解決の糸口は見つかりません。
参考記事
中国オフショア開発をちゅうちょする声、エンジニアのいい分 (@IT情報マネジメント)
・組織運営の多様性
組織運営の多様性とは、組織運営上の大原則や価値観、運営手順、意思決定プロセスの多様性のことです。
・組織運営の多様性が対立原因を隠してしまう
オフショア開発における組織運営の多様性は、日本とオフショア拠点メンバー間に生じた感情的な軋轢や、チームに漂う倦怠(けんたい)感を生む原因を隠してしまうことがあります。
例えば、ブリッジSEへの期待と要求事項が日本と中国の両陣営で統一されていない場合、さらに、オフショアベンダの営業が中国的感覚で「うちは何でもできる」といい放ってしまった場合には、日本と中国の品質格差による対立が感情的なレベルに発展することがあります。このとき、日本陣営と中国陣営の間に挟まれるブリッジSEを個人攻撃しても、問題解決の糸口は見つかりません。
考えられる有効な打つ手の1つは、第三者の進行役を雇い会議体の構造を変えることです。特定の個人に責任を押し付けるのではなく、会議体にメンターを付けて問題解決を図る発想です。ほかにも、日本陣営を小集団に分割して、日本対中国の対立構造を緩和させる、思い切ってキーパーソンを配置転換するなどの荒治療も時には有効です。
文化の多様性
文化の多様性とは、組織で共有される暗黙の了解の多様性、価値観や判断基準の多様性、そして、行動規範の多様性などです。異文化コミュニケーションマネジメントはオフショア開発の要諦ですので、過去に何度も本連載で扱ってきました。詳しくは下記の関連記事をご覧ください。
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地域の多様性
地域の多様性とは、文字通りオフショア開発を委託する国や地域が多様化したことを表します。どちらかといえば、経営層やシニアマネジメント向けの課題です。
日本向けオフショア開発の主戦場は、ダントツで中国です。大きく差がついて第2位がインド。この2カ国を追う存在としてベトナムの台頭が目覚ましく、その後にフィリピン、ネパール、ロシア、そして沖縄や北海道など国内開発地域が続きます。
日本では一部の大企業を除き、これまで地域の多様性が議論されることはほとんどありませんでした。強いて地域の多様性マネジメントを扱う領域を挙げるとすれば、プロジェクトマネジメントオフィス(PMO)の主要機能の1つである“ビジネスアライメント”の文脈が適当でしょう。
いわゆる、ポートフォリオマネジメントの一環として、地域の多様性を扱います。本連載でも何度か地域の多様性を扱ってきました。詳しくは下記の関連記事をご覧ください。
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