国立情報学研究所は5月23日、コンピュータプログラムの技術を応用して物流を効率化し、トラック輸送による大気汚染や燃料消費を抑制する「エコ物流」を実現する研究成果を発表した。
日本全体のCO2排出量のうち、運輸部門は約20%、さらにその中の約90%を自動車が占めるといわれている。特にその多くを占める物流トラックのCO2排出量削減は、地球温暖化対策にとって急務とされている。
トラック輸送の効率化を実現する手段としては、複数の企業で配送業務を共同で行う「共同配送」や、少数のトラックで複数の集荷先を巡回する「ミルクラン方式」などがあるが、現状では普及が進んでいない。その理由を国立情報学研究所教授の佐藤一郎氏は「現実の物流の世界では、あらかじめ決められた集配時間や、鮮度が求められる食品の集配時間を削るための集配順序など、さまざまな制約や要求がある。従来は、こうした制約や要求を満たす個別のトラック集配経路を定め、運用していた。しかし共同配送やミルクラン方式では、個別のニーズを満たす最適の共同集配経路を効率的に探し出す方法がない」と説明する。
同研究所では、こうした問題に対してコンピュータプログラムの技術を応用して解決を図る研究を行ってきた。具体的には、トラックの集配経路や集配条件を簡潔に記述できるプログラミング言語を開発した。集配業者は自社のトラック運行経路をこの言語で記述し、システムのデータベースに登録する。一方、集配先は自社が望む集配条件を同じく記述し、システムに問い合わせる。するとシステムの経路選択エンジンが登録済みの集配経路から条件にマッチし、さらにトラックの移動距離が最短で済むものを独自アルゴリズムで選択・提示するという仕組みだ。このアルゴリズムに、コンピュータプログラム実行・検証の技術が応用されている。
佐藤氏はこの仕組みのメリットについて「CO2排出量削減のためには、トラックの運行距離を減らさなくてはいけない。しかしトラックの運行が集約・効率化されるほど、細かな集配条件・要求に応えることが難しくなる。しかしこの方式なら、共同配送やミルクランのトラック経路の中から条件にマッチしたものを効率的に探し出すことができるので、この相反する2つの課題を両立させることができる」と述べた。
同研究所ではすでにシステムのプロトタイプを構築、動作検証を完了した。トラックの運用計画書からプログラム言語への自動変換が可能で、トラックへの機材搭載は不要だという。また、システムに対する集配経路や集配条件の入力はブラウザ経由で行うため、専用端末は不要。導入・運用コストを最小限に抑えることが可能だという。さらに、このプログラミング言語はRFIDタグや2次元バーコードに記述することもできるため、商品に添付したタグやバーコードから最適な集配トラックを選択することも可能だという。
同様の技術はすでに、博物館の来場者案内システムで導入・運用され、実績を上げているという。今後同研究所では、この技術の物流業界への啓蒙活動を始めるともに、実証実験を行っていく予定だという。
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