日本でシンクライアントへの注目が高まったのは個人情報保護法が本格施行された2005年だった。クライアント内部にデータを保存しないため、情報漏えい対策に有効とされた。大手ベンダの参入が相次ぎ、金融機関を中心に導入が進んだ。次に注目されたのはWinnyを悪用するウイルスによる情報流出が社会的に問題となった2006年。金融機関など情報管理に厳しい業種を超えて、一般企業や官公庁にまでシンクライアントは広がった。
これまではセキュリティ対策がシンクライアントの導入理由だったが、シンクライアントの次の波はテクノロジが誘引するかもしれない。代表的な技術はサーバソリューションとシンクライアントを組み合わせたヴイエムウェアの「VMware VDI(Virtual Desktop Infrastructure)」と、シトリックス・システムズの「XenDesktop」だ。
両ソリューションとも基本の考えは同じで、デスクトップOSをサーバ上で仮想マシンとして稼働し、シンクライアントまたは通常のPCでアクセスして利用する。VMware VDIはVMware ESX Serverを仮想化ソリューションとして利用。XenDesktopはXenの仮想化エンジンを使っている。シンクライアント端末大手の米ワイズテクロノジーのチーフ・マーケティング・オフィサー ジェフ・マクノート(Jeff McNaught)氏は、VMware VDIやXen Desktopの出現で、「旧来のシンクライアントは終わった」と指摘する。
同氏はWindowsのターミナルサービスをベースにした旧来のシンクライアントソリューションは、同社がタスクワーカーと呼ぶ、コールセンターのオペレーターなど限られたアプリケーションしか利用しないユーザー向けと指摘。対して、VMware VDIやXenDesktopは「複数のアプリケーションを使い、デバイスに対して高い要求をするナレッジワーカー向けだ」と話す。
ワイズが訴えたいのはこのような新しいソリューションに対応するには、シンクライアント側も機能を向上する必要があるということだ。機能を拡張することで「いままでのデスクトップと同じパフォーマンス、同じ体験ができるようになる」。
マクノート氏は自社の製品を引き合いに出しながら、これからのシンクライアントソリューションには、モバイルデバイス、マルチメディア対応、利用可能な周辺機器の拡張、マルチディスプレー対応が必要と主張した。いずれもワイズが提供している製品、技術だ。マルチメディア対応では、ICAプロトコルまたはRDPを使った画面転送型のシンクライアントソリューションで、高速な動画配信を実現する「TCX Multimedia 2.0」を提供している。サーバ側ではなくクライアント側でストリーミングデータをデコードするのが特徴。マクノート氏は「小さなビデオから大きなビデオまでシンクライアントで再生し、場合によってはハイビジョンクラスの画質で配信できる」と説明する。
周辺機器のサポートは「TCX USB Virtualizer 1.0」で実現する。一般的にシンクライアントにはプリンタなど限られた周辺機器しか接続して使えないが、TCX USB Virtualizerはサーバ上でローカルのUSBデバイスを認識することが可能で、利用できるUSBデバイスが増える。USBデバイスはプリンタやスキャナのほか、スマートフォンやiPod、外付けのストレージをサポート可能になった。また、ワイズのシンクライアントは最大6つまでのマルチディスプレーをサポートしていて、複数のディスプレーを活用するワークスタイルに対応する。
ワイズは技術の発展でシンクライアントの利用目的が増えることを期待している。これまではセキュリティ対策がシンクライアント導入の理由だったが、機能が向上し、一般のPCに近くなることで、運用管理の向上やサーバリソースの有効活用がその理由に浮上する可能性が高くなる。マクノート氏は「グリーンITを促進するために省電力なシンクライアントの導入を検討する企業も増えたきた」と話した。
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