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中国とまったく対照的なベトナムオフショア事情世界のオフショア事情(3)(3/4 ページ)

今回は、日本の小規模ソフトウェアベンダにおけるベトナムオフショア初体験の模様をインタビュー形式で紹介する。

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「外部設計書に記述するので待ってください」と回答された!

――ベトナム語で書かれた質問票を目の当たりにして、どんな気持ちでしたか?

廣中氏 このときの心理状態を思い出すと、少々英語に疲れていました。ベトナム拠点からくるメールはすべて英語でしたから、日本語で運営・管理できる中国オフショア開発と比べて私自身が不安になっていたようです。何はともあれ、これ以降、私が書くメールは日本語、ベトナム拠点から届くメールは英語という、クロスランゲージなコミュニケーションが始まりました。

――共通語がない状態でベトナム開発がスタートしたのですね。危険な条件だと思いますが、いかがでしょうか

廣中氏 その時は無我夢中でしたから何ともいえません。でも後から思ったのですが、得意な言語でメッセージを書く、というのはやはり正解でした。お互いに責任を持てる言語で書きます。読む場合は、前後のやりとりから文脈によって推測できます。不得手な言語で間違って書いてしまった場合、間違いや意思疎通の齟齬(そご)に気付くまでに無駄な時間を浪費してしまいます。

 要件定義書に対する質問の多くに、「外部設計書に記述するので待ってください」という回答が多くなってしまいました。多くのプロジェクトがそうであるように、このプロジェクトも短納期でした。本来は、外部設計書が完成して全体の整合性が取れて、お客さまからレビューをいただいた後に開発会社には設計書を送るのですが、昨今の事情がそれを許してくれません。仕方がありませんので、できた設計書をさみだれ式に送りました。

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――また、危ないキーワードが出てきましたね。日本とベトナムで設計作業を並行して、資料を「さみだれ式」に送ったのですね

廣中氏 このような、いかにも日本的なやり方については、発注前によく伝えました。例えば、設計書の後半部分を作成しているときに、前半部分への仕様変更が発生してしまうリスクなどについて、よく話し合いました。設計書を送るたびに、幾つかの質問を受けました。すると、ベトナム拠点の技術者がシステムを理解していく様子が伝わってきます。現地で既存システムのビルドも完了し、実際にモノを動かしながら仕様を確認しているようでした。

完成品以外は出さない技術者魂を持ったベトナム人

――最初の納品はどうでしたか?

廣中氏 設計書が一段落したところで、受け入れテスト環境を構築しました。試しに、ベトナムから最新の成果物を送ってもらい、受け入れテスト環境に導入してみたところ実際にモノが動きました。ベトナムでオフショア開発をしていると実感した瞬間でした。以後は、進ちょく表を眺めながら、完成した部分から受け入れテストを実施します。問題があれば、バグ票を記述して送ります。バグの修正も早く、満足できるものでした。

――思いのほか順調ですね

廣中氏 そうはいっても、プロジェクトも終盤に差しかかってくると何かと忙しくなってきます。

 日本側としては早く修正確認を実施したいのに、ベトナムから肝心の成果物がなかなか到着しないという事態が発生しました。メールで催促しても反応がなく、電話してもうんともすんともいいません。2度目の催促の電話をかけたときに、ようやく彼らの状況が理解できました。

――どういうことでしょうか?

廣中氏 私がお付き合いしてきた中国の開発会社は、良い意味でも悪い意味でも私の要求に素直でした。成果物を送ってほしいと伝えれば、ちょっとした問題があってもすぐに最新リソースを送ってくれました。ところが彼らは違いました。ベトナム拠点の開発リーダーは、あくまでも自分たちの開発手順に従っているのです。従って、「彼らの開発手順に従い、きちんとテストを終えたものでなければ成果物として提出しない」というポリシーでした。つまり、“根っからの技術者”として回答をしているのです。その後に届いた成果物に大きな問題はありませんでした。

――無事に納品されてよかったですね。結果オーライかもしれませんし、ベトナムの職人魂が生んだ美談かもしれません。個人的な体験ではありますが、中国とベトナムの対比が興味深いです。もう少し、コミュニケーション活動についてお聞かせください

廣中氏 4カ月のプロジェクトでは、MLに400通弱のメールのやりとりが発生しました。これは私が携わった中国でのシステム開発に比べると少なめです。ただし、1通1通のメールの内容は濃いように感じます。回答する際、「設計書の○○を参照してください」とか「質問票の○○番と同様です」といった、いままでの資料をよく読んでほしいといったたぐいの質問は皆無でした。

 私が経験した中国オフショア開発では、通訳が個々の担当者からの質問をそのまま伝えてくることがあり、開発側のリーダーの存在感を薄く感じていました。言い換えると、中国開発で経験したリーダーは優秀な技術者でしたが、優秀なマネージャとは言い難いと感じていました。今回のベトナム初挑戦では、リーダーが個々の質問を理解し、整理してから送ってきます。従って、1通のメールに複数の質問が記載されますし、内容を理解しているので同様の質問を繰り返すことがなかったものと感じています。マネジメントの質が良かったということだと思います。

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