ベトナム人との違いを受け入れ、先入観に気付こう:世界のオフショア事情(7)(2/3 ページ)
前回はオフショア開発における日本人人材に焦点を当てたので、今回は受注側であるベトナム人人材に焦点を当て、それぞれの違いを浮き彫りにする。
ベトナム人のモチベーション
次に、モチベーションの源について考えてみたいと思います。
私たちは、どのようなものを会社に求めているでしょうか? どのような会社であれば、従業員が働きたいと思うでしょうか?
あるベトナムのIT企業が、従業員を対象にアンケートを実施したところ、従業員が会社に望むものは、
- 給料
- 教育・成長の機会
- 会社から認められること
の3つだったといいます。
日本で同じような聞き取りをしたある企業では、
- 人間関係
- 安定
- 会社からの評価
のような項目が多いことからも、日本とベトナムの違いが見て取れます。
なお、欧米ではどのようなものが求められるかというと、
- 成長やキャリアアップのための機会
- 個々の働き方に合っていること
などがあがったといいます。この結果は、多数を対象にした統計ではありませんが、特徴が出ているように思います。
従業員の定着率が中国・インドより高いとはいえ、ベトナムでも近年徐々に転職率が高まってきています。すると、「育っても転職してしまうので結局教育しても意味がない」という意見が出てくるかもしれません。しかし、筆者はその認識は間違っていると思います。
「いまの会社で」という意識のあるなしにかかわらず、誰もが将来の高級人材を目指してIT産業に入ってきます。そのような人材が発注相手にいる限り、指導・教育はやめるべきではありません。
ポイントは、「リーダーを育てることができるリーダーを育てる」ことにあると思います。つまり、発注先企業内において、「自律的に良いサイクルを回せるような指導的立場の人を育成する」ということです。時間の経過とともにマネージャが育ち、マネージャがリーダーを育成します。ですが、それを意識して行うかどうかによって達成するスピードと中身が変わってきます。
オフショア開発者向け会員誌である「Global Sourcing Review」に寄稿してくださっている、芋たこ北京さんは、
「『多面的に継続的に、かつ期待感とともに“機会”を与え続ける』ことが、中国人人材の成長を促すことができる」(2008、Global Sourcing Review 2008年12月号、オフショア大學刊)。
と説明しています。
また、「小さな出来事でも『自分の能力を高められる機会である』と位置付け、メンバーに認識してもらうとよい」といいます。ここまでできれば、教えられる側も「教育されている」というより、「自然に導かれている」という感覚となってくるのではないでしょうか。ベトナムでも、このようなやり方は同様に有効であるといえるでしょう。
ベトナム人材の横顔
脱線しますが、何人かのベトナム人材にどういった人がいるかを少し紹介してみたいと思います。
ホアンさんの場合
ホアンさんはベトナムの一流大学であるハノイ工科大学を卒業し、ベトナムの現地資本企業に就職しました。
そこでは日本向けの案件が多く、ホアンさんもチームリーダーを任せられるにつれ、日本語を覚えていきました。そして、2005年に日本向け案件を中心とした15名規模の会社を設立しました。日本語専攻はしておらず、日本への留学経験や長期滞在経験がないにもかかわらず、流暢(りゅうちょう)な日本語を話します。
人望が厚く、技術も分かって日本語も話せることから、日本企業との良好な関係を築けているようです。この会社は.NET系の技術に強く、日本市場を熟知したメンバーをそろえていることから、「これからも強みを生かして会社を大きくしていきたい」との思いを語っています。
ホアさんの場合
ホアさんは大学時代をベトナムで過ごした後、日本に渡りました。
日本の語学学校を卒業した後、日本のIT企業に入社しました。周りの日本人とまったく変わらない仕事を行い、日本人らしいしぐさも見られます。
現在ホアさんはほかのIT企業内で常駐作業に当たっており、「チャンスがあれば、さまざまな提案ができる。この日本でのチャンスを生かして成功したい。そしていつかは、ベトナムと日本をつなぐビジネスを立ち上げたい」といいます。
彼の親せきも分野は違うものの、日本と取り引きのある貿易会社を経営しており、その思考の流れは自然なのでしょう。
アインさんの場合
もともとは、ベトナムの現地資本の企業でコミュニケータ(IT企業内の通訳)として働いていたアインさんは、現在日本企業内でブリッジSEとしてトレーニングを受けながら働いています。
コミュニケーションとさまざまな調整、交渉には自信があり、勉強意欲も非常に高い彼女は、IT知識・スキルを早く吸収して、ステップアップすることに熱意を持っています。
日本企業側の期待も高く、これがうまくいけばモデルケースとして展開したいという思いもあります。彼女は「確かに覚えることが山ほどあるけど、やりがいがあってとても楽しい。早くスキルを覚えて、日越のためにより多くのことをしたい」といいます。
ベトさんの場合
ベトさんはベトナムで外語大を卒業し、在ベトナム日系企業で働いた後、個人で日本からの輸入品を売る店を経営したり、日系企業のためのベトナム進出支援など、いくつかのビジネスを手がけてきました。
いまはまたサラリーマンとしてIT企業に入り、営業寄りのブリッジとして日本に滞在しています。初めて日本に来たとは思えない日本語の流暢(りゅうちょう)さで、ビジネスを仕切る姿は頼もしくもあります。
彼もまた上昇志向が強く、「数年後には再度何らかの形で自分のビジネスをしたい」といいます。そのため、現在の仕事に対する集中ぶりは、目を見張るものがあります。
これらの人材が共通している点は、上昇志向が非常に強く、話すときには希望と自信に満ちあふれている様子です。
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