New York Timesの8月末の報道によると、大手レコード会社の半数が、Appleに対し、iTunes Music Store(iTMS)への楽曲ライセンス契約を更新しないと脅しをかけている。自分たちの懐がもっと潤うビジネスモデルを望んでいるという。
こうした噂は、AppleがiTMSを開設した当初からあるが、現行の契約が来年早々に期限切れとなることから、レコード会社が自らその愚かさを示す時期が到来したというわけだ。
Appleは、iTMSの開設からこれまでに5億曲以上を販売している。それらがすべて1曲ずつ売れたと仮定すると、Appleは5億ドル弱を売り上げ、レコード会社は3億5000万ドルを得たことになる(一部のアーティスト・作曲家によると、作者・演奏者の稼ぎは12ドル前後だという)。だがすべてが1曲ずつ売れたわけではなく、多くは、1曲当たりの価格が安くなるアルバムとして販売されたものであるため、レコード会社に流れた金は3億5000万ドルより若干少ないはずだ。
とはいえ、ざっとAmazonでCDのアルバム価格を見ると、Appleを通じてアルバムをダウンロード販売する際のレコード会社の実入りは十分にいい。ブラック・アイド・ピーズ、マライア・キャリー、ローリング・ストーンズの最新アルバムのAmazon価格は10ドル99セント。かたやAppleでの価格は、ブラック・アイド・ピーズとマライア・キャリーが9ドル99セント、ローリング・ストーンズが12ドル99セントだ。レコード会社は、Appleで曲を販売する場合は何かを実際に製造する必要がなく(曲のデジタルコピーを1部渡すだけ)、かたやAmazonで販売する場合は製造と物流のコストが掛かることを思い出そう。
アルバム販売の場合、AmazonよりAppleを通した方がレコード会社が損をすると見るのは難しい。本当の問題は、アルバムに収録された曲のうち購入に値するのが1曲か2曲にすぎないことと、Appleを使えばその1〜2曲のみ購入が可能で、どうでもいい残りの曲に金を払う必要がないことにあるのかもしれない。わたしの考えでは、本当の問題点は2つある。レコード会社が新しい技術を恐れていることと、強欲さを抑えられずにいることだ――その強欲さが命取りになることがはっきりとしているにもかかわらず。
メディア企業、つまりレコード会社と映画会社は、ビデオデッキからMP3プレーヤー、P2Pネットワークまで、あらゆる新技術と必死になって戦ってきた。メディア企業は、戦いに敗れるたびに金をもうけている。一番いい例がビデオ(DVD)の販売。これは映画会社にとって重要な収入源となった。
戦いに勝つと、メディア企業は稼げなかった。一例を挙げるとデジタルオーディオテープ(DAT)。レコード会社側が勝利して著作権料を徴収できるようになったはいいが、DATは市場で失敗した。レコード会社にとってはiTMSも、同じ文脈において恐れるべき、統制すべき新技術なのだ。
強欲な愚かさは息をのむばかりだ。Appleは、正しくやれば合法音楽ダウンロード提供が成功できることを証明してみせたが、レコード業界の動きは、法を守っている人を違法なダウンロードに向かわせてしまう恐れがある。一部のレコード会社は、その機会をとらえようとしているかのようだ。
(筆者注:ハーバード大学といえど、レコード会社がやたら頻繁にみせるレベルの愚かさの身に付け方を教えるのは難しい。だが大学としてこの話題についての意見を表明してはおらず、本稿はわたしの私見である。)
※本稿筆者スコット・ブラッドナーはハーバード大学の情報システムコンサルタント。
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