操作パネルの使い勝手は複合機のキモといえるだろう。機能は年々追加されるため、いやがうえにも操作は煩雑になる。メーカーがいくら気張って新機能を追加しても、ユーザーが使用できなければ意味がない。このことはメーカーも重々承知しており、かつての取ってつけたようなインタフェースはここ数年で駆逐され、非常に洗練されてきた。
以下に各メーカーの操作パネルを雑感を交えつつ紹介していこう。ただし、エプソンについてはEP-901F、EP-801A、PM-A840Sの3台がそれぞれ異なるインタフェースを採用しているので、個々に紹介する。
まずはエプソンのEP-901Fだが、中央にビュワー用の3.5型液晶パネルを埋め込んだ7.8型のタッチパネルを採用しているのが特徴だ。操作パネルは上下のチルト調整による角度合わせが行える。タッチパネル内に表示されるモードや機能を指でなぞるだけでよいので、操作は直感的だ。しかも、操作に必要なボタンエリアだけが点灯し、関係ないボタンは消灯するライトナビゲーター方式なので、悩まずに作業できるだろう。
メニューは少々階層が深いものの、タッチパネルだとさほど気にならない。難点は1ページあたりに表示される項目数が少ないことだ。目的によっては数ページを送っていかなければならない。タッチパネルで押しやすいボタンのサイズを確保するために、1ページ内に表示する項目数を絞らねばならなかったのだろう(それにしても無駄なエリアが多いが)。3.5型の液晶パネルでは、マルチフォトカラリオの豊富な機能をフォローしきれなかったということか。
また、液晶モニタにタッチパネル機能を加えた影響で、画面の発色は従来機より少し見劣りする印象だ(かつてのエプソンのハイエンド複合機「PM-T990」は高精細かつ広色域な「Photo Fine Ultra液晶」を搭載していた)。
とはいえ、電源投入から7秒程度で操作できるようになり、タッチパネルの操作感は良好で、印刷中にほかの作業が行えるなど、総じて使いやすい。
EP-801Aの操作パネルは、2.5型の液晶モニタとプッシュ式のボタンを組み合わせたもので、EP-901Fと対照的にレイアウトに余裕がない。ボタンのレイアウト自体は後述するPM-A840Sとあまり変わらないのだが、フラットなボタンを整然と並べてデザインにこだわっている。半面、ボタンがところ狭しと並んでおり、フラットなボタンは少々押しにくく、初めて見たときは機能を把握しにくかった。
これだけのボタンの数ならば、操作パネルにフロントの横幅を目一杯使用してもよかったように思うが、右側はインクカートリッジを装着するエリアなので、ボディの小型化を実現するためにはこれが精一杯なのだろう。操作パネルはEP-901Fと同じように全体がチルトできる構造だ。
左側のモードボタンは一見すると4方向独立のボタンに見えるが、実はモード送りの機能しか持っていない。押すたびにモードが変更され、インジケータと液晶モニタの内容もそれに倣って変化する。後は左右のボタンで項目を送り、作業を進めるだけだ。作業手順はシンプルで分かりやすく、メニューの階層も浅いのだが、情報の一覧性は少々低い。
また、どの操作も表示がフェードイン/アウトしたり、アイコンがスムーズスクロールしたりといった特殊効果が与えられている。店頭での見栄えはよく、所有欲をくすぐる工夫なのかもしれないが、長期にわたって使い込むユーザーにとっては効率的な作業を阻害する要因となるので考え物だ。もっとも、電源投入から8秒程度で操作可能になり、操作のレスポンスもよく、印刷中にほかの作業が行えるのは好印象だ。
PM-A840Sは旧世代のマルチフォトカラリオが共通して採用していたインタフェースを採用している。液晶モニタは2.5型の固定式で、チルト機構がないのは難点だ。ボタンが随分とゆったり配置されているため、新モデルと見比べると洗練されていない印象を受ける人も多いだろう。
ただ、実際に使ってみると、各ボタンが離れていることで機能が把握しやすく、左から右に向かってボタンを順番に押していけば出力にたどり着けるようになっており、操作はしやすい。数代にわたる研さんを重ねただけあって、全体的に過不足なく仕上がっている。機能の一覧性もよく、操作に対する反応も上々だ。使い慣れているということもあるだろうが、個人的にはボタンを狭いスペースに敷き詰めたEP-801Aよりも扱いやすかった。ただし、起動に時間がかかる点と印刷中にほかの操作ができない点ではEP-801Aに見劣りする。
キヤノンのMP980、MP630、MP620は、3モデルで操作パネルのレイアウトが共通化されている。液晶モニタのサイズはMP980が3.5型、MP630とMP620が2.5型と異なるが、発色や一画面に表示できるサムネイルの数などの情報量は変わらない。そのため、2.5型の液晶モニタは少々狭く感じるかもしれない。液晶モニタはいずれもチルト調整が可能だ。
操作パネルは従来機と同様、円形のホイールと4方向ボタン、決定ボタンを組み合わせた「Easy-Scroll Wheel」が特徴だ。機械が苦手な人はズラリと並んだボタンを見るだけで威圧感を受けてしまうものだが、Easy-Scroll Wheelならば拒絶反応を起こさずに済むだろう。しかもメニューはグラフィックスを多用しているため分かりやすい。今回からメモリカードやデジカメを接続するだけで、写真データを液晶モニタに表示するようになったのも親切だ(ほかの製品は接続後にメニュー選択が必要で、印刷までのステップ数が多い)。
また、簡易ながら画面下にナビゲーションメッセージが表示されるので、手探りで作業が進められる。項目そのものが分からない場合でも「ナビ」ボタンを押せば案内してくれる。簡単そうに見えるだけでなく、実際に簡単に操作できるのだ。
メニューは、各モードの下に項目を用意したスタンダードな構造になっている。まれに階層が深い項目もあるが、全般的に2〜3階層に抑えているため煩わしさはない。どのモデルも電源投入から4〜5秒程度と非常に短時間で操作可能になることに加えて、操作に対するレスポンスは良好で、印刷中にほかの操作が行えないことを除けばストレスなく使用できた。
C6380は、フロントパネルにチルト式の2.4型液晶モニタと各種ボタンがズラリと並んでいる。ボタンの多くは独立した機能を持ち、液晶モニタのメニューを見ながら操作を行わずとも各々の機能を即座に実行できる。頻繁に設定を変える必要がないカラーコピー、モノクロコピー、スキャンなどのボタンはなかなかに重宝するだろう。半面、写真印刷モードに移行するためのフォトプリントボタンや赤目除去ボタンなどは必要ないのではないだろうか。
メニューは十字ボタンとOKボタン、戻るボタンで操作を行う。エプソンやキヤノンのように、コピー機能やレイアウトが豊富なわけではないので、メニューの構造は至ってシンプルだ。ただ、階層が深い項目がところどころに存在しており、操作性はあまりよくない。サムネイルの表示数も4コマと少なく、操作パネルの構成ともども、もう少し練り込んだほうがよいように思う。起動時間は長いが、画像送りのレスポンスはよく、印刷中にほかの操作ができるのは便利だ。
以上、7モデルの操作パネルを個別に見てきたが、下表に操作パネルの違いを記した。使い勝手に影響を与える「電源投入から操作可能になるまでの時間」(ストップウォッチによる実測)や「印刷中にほかの操作ができるか」、そして「メモリカードを装着したときに写真データを自動表示するか」といった検証結果も含めたので、併せてチェックしてほしい。
複合機7モデルの操作パネル | |||
---|---|---|---|
製品名 | EP-901F | EP-801A | PM-A840S |
ボタン数 | 2個+タッチパネル | 16個 | 17個 |
液晶モニタ | 3.5型(チルト可) | 2.5型(チルト可) | 2.5型(固定式) |
電源投入から操作可能までの時間 | 6秒99 | 7秒97 | 36秒9 |
メモリカード装着時の自動表示 | − | − | − |
印刷中にほかの操作ができるか | ○ | ○ | − |
複合機7モデルの操作パネル | ||||
---|---|---|---|---|
製品名 | MP980 | MP630 | MP620 | C6380 |
ボタン数 | 16個+ホイール | 16個+ホイール | 16個+ホイール | 19個 |
液晶モニタ | 3.5型(チルト可) | 2.5型(チルト可) | 2.5型(チルト可) | 2.4型(チルト可) |
電源投入から操作可能までの時間 | 4秒43 | 4秒37 | 4秒21 | 22秒18 |
メモリカード装着時の自動表示 | ○ | ○ | ○ | − |
印刷中にほかの操作ができるか | − | − | − | ○ |
ざっと見てきた中で使い勝手がよいのは、やはりEP-901Fだ。メニュー構造にはまだ改良の余地を感じるものの、タッチパネルがもたらす直感的な操作性は万人にすすめられる。起動時間は短めで、印刷中にほかの操作ができるのもよい。それに比べると、EP-801AとPM-A840S、C6380は一長一短といったところだ。
また、真新しさはないが、PIXUS MPシリーズ3モデルのホイール型インタフェースも優れている。印刷中にほかの操作はできないが、起動がとにかく高速なうえ、メモリカードやデジカメを装着すると即座に写真データが自動表示され、スムーズにダイレクトプリントが行える。過去のモデルと操作性が共通なことは、買い替え層への訴求にもつながるだろう。
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