DellとHPが「家電市場」に色気を見せる理由(2/2 ページ)
DellとHPが家電市場、とりわけデジタルテレビとその周辺に強い意欲を示している。大手家電メーカーがしのぎを削る厳しいAV業界に彼らが乗り込もうとするその真の理由はどこにあるのだろうか。
Blu-ray Disc Foundersには現在10社が名を連ねているが、この中に光ディスクの製造を行う必要がないHPとDellが加入しても、(技術的には)あまり意味はない。HPとDellは他社から購入した光ディスクドライブを組み込むだけだからだ。
では何が目的か? HD DVD側に要求したのは、ロイヤリティの分配だった。Blu-ray Disc Foundersに同様の要求をしていてもおかしくはない。いや、そうでなければ、ここまで積極的なコメントを出す理由が見つからない。
今回のHPとDellのBlu-ray Discへのコミットについて、もう一つ考慮する必要があるのは、この発表でHPとDellが失うものは何もないということだ。Blu-ray Discが普及すれば、HPとDellは利益を受けられる。しかし、もしPCのトレンドがHD DVD側に向いたとしても、そのときにはHD DVDドライブを購入して搭載すれば良いだけだ。
これがドライブ製造ベンダーやROMメディアの製造会社ならば、社運をかけた選択となるだろう。しかしPCベンダーであるHPとDellは、どちらに転んでも損はしないのである。
そしてもちろん、AV業界の規格論争に積極的に関わることで、業界内での足場を固めたいという意図もあると考えられる。
PC市場での支配力を軸に家電業界へ
PC業界からAV業界へと挑戦する理由はたくさんある。PCは昨年、二桁成長を達成したとはいえ、成熟産業の様相を見せており、以前のような右肩上がりのストーリーを継続的に描くのは難しい。
ところが米国でのテレビ市場は、リアプロジェクションテレビの性能向上と低価格化に伴う大画面ニーズの高まり、CATVのデジタル化、CableCardの採用など、様々な事情が折り重なり、デジタルテレビが急速に普及。2007年には全米の半分以上の世帯がデジタルテレビを保有するだろうとの予想がもっぱらだ。またHDコンテンツの増加に伴って、HDTV比率も急速に向上している。このテレビのデジタル化に対して、PC方面からの切り口で参入しようというのが、両社の意図のようだ。
また一方でPCのAV機器化をIntelが進めており、AVラックに入るフォームファクタとAV機器ライクな機能を持たせたEntertainment PCが登場する。
現時点でHPとDellが、Intelの提唱するフォームファクタを使うことは発表されていない(米大手ではGatewayが採用予定)。しかし、PCをリビングルームでの利用に適したデバイスに変化させつつ、そのディスプレイとしてデジタルテレビを売り込むというシナリオは、米国市場に限れば十分に成立の可能性がありそうだ。だからこそ、両社はAV業界への色気を隠さない。時を同じくしてPC業界の牽引車となってきたIntelも、家電業界へと進出しようとしているのだ。この機を逃す理由は何もない。
前回のコラムでも述べたように、AV業界はPC業界とは全く異なるルールで動いている。“スペックが同じならば値段が安いものが一番いい”のはPC業界のルールだが、AV業界ではそれが必ずしも一番とはならないからだ。
だから急に業界が変化することはないだろう、などと脳天気な事を言うつもりはない。先行きの予想は難しいが、ひとつだけ確かなことがある。それはHPもDellも、巨大な米国消費者向け市場において、非常に大きな影響力を持つ企業であり、AV業界での経験は少くとも、ブランド力は非常に高いということである。
これまで日本製品は、中国製品の1.5〜2倍の価格付けでもビジネスを続けることができる品質とブランドを持っていた。しかし、HPやDellといった米国人にとってのナショナルブランドのバッジを付けた製品が安価に売られるようになったらどうなるだろうか?
日本のAV家電ベンダーの眼前にはSamsungやLGといった大きなライバルが存在する。だが、一番危険な敵は、もっと別のところにいるのかもしれない。
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