ソニー、ビクター、松下――「HDV」をめぐる攻防(3/3 ページ)
民生用DVテープにHD解像度のMPEG-2を記録する「HDV」が、放送関係者の間で予想外の関心を集めている。この“思わぬ流れ”をめぐってソニーや松下、ビクターなど、放送用カメラ大手がそれぞれの思惑で動き始めた。そこに思わぬ伏兵の登場もあって……。
HDVカメラに関しては、今年3月のCeBITでモックアップを参考出展して以来、今回のNABでもまったく同じ状態で出展してきた。さらに4月26日には、「実はHDVカメラを開発しています」という、いやもう知ってるからみんな、みたいなツッコミどころ満載な発表までカマしている。
これまでの経緯を見る限り、ソニーの対応はあきらかに「話題つなぎ」である。発売はクリスマスシーズンということだが、HDV規格策定が昨年9月だから、タイミング的にはもう実動モデルができあがっていてもおかしくない。要するにソニー本体は出したいんだけど、販社がまだ売りたくないということなのではないだろうか。
というのも、今のタイミングでHDVカメラを出してしまうと、かつてDVカメラの影響でプロ用SDカメラが売れなくなったように、現状の市場バランスが壊れてしまう可能性があるからだ。逆に言えば、それだけHDVカメラが良くできちゃったのでは?という勘ぐりもできる。
だがそれがクリスマスなのかどうなのかは知らないが、いずれは世に出る。ソニーとしてはそれまでに、HDVが機能的に届かないハイエンド方向で、なんとか足場を固めておきたいはずだ。そこにはHDV規格メンバーであるが故に、自らのコンシューマー製品でプロ部門の首を絞めてしまうという、自虐の構造をナントカ回避したい思惑が見え隠れする。
伏兵は……
大手放送機器メーカーが寝首をかかれないよう気をつけなければならないのが、キヤノンの動向だ。キヤノンはこれまで放送機器としては、監視用やお天気カメラは別として、いわゆるカムコーダーを作ったことがない。だがビデオレンズではフジノンと並んで、放送業界ではもっともポピュラーなメーカーである。
キヤノンもHDV協賛メーカーだが、好調な放送分野のレンズ市場で新たにあつれきを生むようなこと、すなわちプロ・業務用としてHDVカメラをリリースする確率は低いだろう。そのかわり、コンシューマー市場で売りながらもプロが使っておかしくないという“アウトコース低めギリギリのクサい球”、前出のXL1Sスタイルの「レンズ交換型HDVカメラ」を出すことはありえる。
もしこれがタイミング良く出てきたら、欧米のミドルレンジ以下の制作会社は、一気にHDVに走る可能性もある。なにせ編集側のソリューションは既に実働し始めているのだから、HDコンテンツ制作のワークフローの中で、あとはカメラだけなのである。
昨年のNABレポートは、「コンシューマー技術がプロを支える時代」というテーマで書いた。今年はさらにそれがより加速してきており、映像制作におけるプロとアマチュアの機材の差は、確実に狭くなってきた。違いは、「使う人の差」でしかなくなってくる時代が、やってこようとしている。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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