「HDDウォークマン」に関する一考察(3/3 ページ)
HDDウォークマンが発表されて以来、「Vaio Pocket」などソニー内での類似の製品群内での位置づけや、iPodとの種々の比較論など、さまざまな議論が持ち上がっている。こうした問題について、筆者なりに考えてみた。
だが筆者はこれまでに何度か同じことを書いているが、基本的に「圧縮コーデック」と「著作権保護の暗号化技術」は、まったく別物だ。つまりセキュアなMP3というのは、存在しうる。現にソニーでも、ビデオプレーヤーの「HMP-A1」やAIWAブランドのミュージックプレーヤーで、セキュアなMP3を使った再生を実現している。技術は存在するのだ。
本体の操作性に関しては、iPodではスクロールホイールという新しいタイプのインタフェースを搭載して、人々の関心を引いた。新しい感覚の操作性は、アイキャッチの重要な要素だ。VAIO Pocketが新インタフェース「G-Sence」にこだわったのは、この点が分かっているからである。
一方HD1には、インタフェースとしての新しさはなく、非常にストレートだ。筆者の周りのデジモノ好きのあいだで「HD1はイマイチ物欲が湧かない」という声があるのは、おそらくこの点での目新しさが欠けているからであろう。だがiPodのスクロールホイールがやがて当たり前になったように、この問題は時間が解決するのではないかと思っている。
それよりもHD1とSonicStageに欠けているのは、「ID3タグ」に関する理解だ。せいぜいアーティスト、アルバム、曲名、ジャンルぐらいがわかればいいという考え方は、もはや古い。以前筆者は、CDDB最大手のグレースノート社CEOにインタビューしたことがあるが、その中で彼は、今後ユーザーは音楽そのものを集めることよりも、音楽をオペレートする方向に向かうと述べている。
これを具現化しているのが、今のiPodと、iTunesの組み合わせだ。iPodでは、ダウンロードされたID3タグの情報を使って、作曲者別に音楽をソートすることができる。またiTunesでは、発表年ごとに音楽をまとめるといった、非常に複雑な検索およびプレイリストの作成が可能になっている。
結局問題は何か
MP3非対応問題を別にして、日本のユーザーにとってみれば、VAIO PocketとHD1という同じような製品が、なんで同じメーカーから同じタイミングで出なければならないのか、というところに混乱を感じていることだろう。だがそれは、もっと明確にすみ分けが出来れば済んだことなのだ。
個人的な感想だが、HD1のすむべき場所はPCエリアではなく、従来のMDのようなノンPCエリアであるのが正しい姿だったのではないだろうか。つまりPCとつながるのではなく、AnyMusic対応ミニコンポ「NET JUKE」とかに直結するような製品で、言うなれば「入れ替え不要なMD」という扱いであれば、安藤社長が大勢のプレスを集めた記念パーティでのスピーチで、HD1を上下逆さまに取りだしちゃったことなども、多少は大目に見てもらえたのかもしれないのである。
ただ現状は、ノンPCエリアにブロードバンド回線が引かれ、AnyMusic対応ミニコンポが市民権を得ているというタイミングでもない。前に出ればVAIO Pocketと当たり、後ろに下がればHiMDにぶつかるといった、本当に難しいタイミングで出てしまった製品なのである。おそらくソニーとしても、このタイミングがベストだったとは思っていないだろう。
HD1は、モノとしての出来や質感は非常に高い。構造的にもHDD保護機構を設けるなど、他社が考えていなかったアイデアもある。そろそろ旧タイプのiPodから乗り換え機を探していた筆者に取ってみれば、実に悩ましい製品だ。ATRAC3plusも、圧縮技術としては他に劣るものではない。ただ、うちにある1000枚のCDをMP3化するのに半年以上もかかったことを考えると、またそれを一からやり直す気になれない、というところが引っかかっているのである。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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