どん欲なまでの技術指向が生んだ“忠実な音”〜パイオニア(4/4 ページ)
2001年11月に発売されたパイオニアの「VSA-AX10」は、それまでの国産AVアンプの概念を変えた。ピュアオーディオで培ったノウハウ、デジタルサラウンドなどのテクノロジ、自動音場補正ーーそこにあるのは、貪欲に最新技術を追い求め、高音質に繋がるものすべてに取り組む姿勢だった。
さらに、自動補正後、測定された各スピーカーの特性データをパソコンに転送し、目で見て確認することもできる。Advanced MCACCは、時間軸で周波数特性の変化を追い、直接音を測定している時間帯を特定した上で補正値を割り出している。どの時間帯のデータを使うかは自動的に選択されるが、パソコンの画面でそれを確認し、もし間違った判断を行っているようならばマニュアルで異なる時間帯のデータをを補正用として使うよう、指定することができるのである。
このほかにも、スピーカー距離の補正ではXカーブ(距離に応じて高域の音が減衰する特性をシミュレートしたカーブ)が適用される。この機能は、フロントスピーカーと同じ距離にサラウンドスピーカーが存在するかのようにリスナーに感じさせるものだ。これらAX10シリーズで導入されている技術は、かなりマニアックなコダワリに支えられている。
製品レビューは別途お届けするが、セッティングを追い込んだ時に発揮されるAX10Aiの音場は、ほんとうにすばらしいの一言に尽きる。方向感、つながりともに非常に先鋭的で隙がない。
ハイエンドの成功がミッドレンジ以下の製品を厚くした
AX10シリーズは、AVアンプに“良い音”をもたらした。ここでいう良い音とは、メーカーが演出する音場ではなく、オーディオソースを制作する人々の意図する良い音と音場である。もちろん、自動補正だけでは完璧にまで仕上げることは難しいが、自動補正を行った後のマニュアルによる調整手法を提供している点はすばらしい。
「AX10シリーズによって、ハイエンドのAVユーザーに“パイオニアは音の良いアンプをつくる”メーカーというイメージを与えることができたと思います。AX10を発売して以降、AX10のコンセプトや品質を受け入れ、ファンになったと言ってくれるユーザーもいます。また、AX10シリーズのコンセプトが受け入れられたことで、その技術とブランドイメージを下位モデルに活かせています。たとえば『VSA-AX5i』は、AX10iのテクノロジやノウハウを用いた中級機です。コストによる音質レベルの違いはありますが、機能的には非常に近いものです」とは、AX5iの商品企画も担当した小野寺氏の弁。
絶対的な自信に支えられている成功モデルが上位にあるからこそ、その技術を中級機以下にも活かしていくことができる。つまり、Exclusiveシリーズで培った技術は、AX10、そしてAX5iへと徐々に受け継がれているのである。
最後に小野寺氏に、パイオニアの音とは? と漠然とした質問をぶつけてみた。
「AX10シリーズは、AVアンプの中で最も“世界初”を冠した機能が多い。貪欲に最新技術を追い求め、高音質に繋がるものすべてに取り組む姿勢がわれわれの音を作っていると思います。質の面では、プロの現場で認められている忠実度優先の音がパイオニアの音でしょう。ですから、AX10シリーズも“高忠実”というわれわれの特徴を追い求め、その時々に最高と思える製品を出していますよ。たとえばAX10Aiは、AX10iのDSPとMCACCを強化したマイナーチェンジと思われていますが、音のチューニングがより進んでいます。TAOC(アイシン高丘)と共同開発したシャシーベースは、8カ月もかけて音質チューニングを行いましたし、アナログ部分のチューニングも細かなところで多数あります。結果、全くのモデルチェンジと言っていいほどの差になっています」。
もちろん、そのノウハウは下位機種にも受け継がれていく。AX10iの技術がAX5iに持ち込まれたように、AX10Aiの技術はAX5iの後継機種、そしてさらにパイオニアのオーディオ製品全体へと波及していくだろう。
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