イマドキの小学生、そのインターネット事情(3/3 ページ)
今どきの小学生の間では、インターネットはもう当たり前のものだ。夏休みに入って以来、すっかりネット漬けになっている小学5年のわが娘を見ても、それは実感できる。筆者も娘のネット利用をどう指導するべきか、親として真剣に考えざる得なくなってきた。
例えば筆者と妻との間でも、「今晩ご飯いるの?連絡して!」という短い一文のために、喧嘩になったことがある。
必要事項を伝えているのみだが、この文は最後の「!」一つで印象が悪い。仮に「今晩ご飯いるの?連絡してネ」と書いたなら、そこから読み取れる口調は、まったく違うものになる。書いた側にはもちろん他意はないのだが、たった「!」と「ネ」の違い、データとしては同じ2バイトにしかならない1文字の違いで、人間は簡単に喧嘩するのである。
かつてパソコン通信が「ネット」を意味していた頃は、ユーザーは匿名でありながらも固定IDを持ち、ある程度人物の特定ができた。そこでのコミュニケーションは、今の匿名掲示板からは想像が付かないほど、整然としたモラルの中で行なわれていた。
むろんそこでも、喧嘩は起こる。文字だけで相手を尊重し、自分の主張をしっかり述べるには、それなりの文章力が必要だ。ぶっきらぼうに簡潔すぎる文ではいらぬ反感を招くことになるし、あまりくどくど書きすぎても何が言いたいのかわからなくなる。
筆者もそんな時代からイヤな思いを沢山してきた結果、今のような文体ができあがってきた、と、言えないこともない。
すべての人の文章力、そして考えていることが千差万別な世界の中で、コミュニティが上手く回転するための方法を、ネット社会では長い時間をかけて模索してきた。文字を使って絵を表現する、古くは顔文字から最近の「orz/○| ̄|_ 」のような工夫は、言葉で足りないものを埋める一つの手段だ。
だが文末の言い回しや論旨の展開方法などは、残念ながら簡単なテンプレートのような形で人に伝えることができない。単に「キモイ」とか「逝ってよし」と書かなければいいというような程度の禁則では、モラルにはならないのである。
悪意はなくても、文章だけではちょっとした語尾のニュアンス、余計な表現で、人は簡単に悪意と結びつけてしまう。特に思春期の子供ならば、なおさらだろう。人の機微とは、それほど複雑なものなのだ。
このようなことを指導するのに、完全無菌室の中に置いて説教するだけでは、教育にならないのもまた事実だ。時にはひどい喧嘩の現場を見せることも、反面教師として必要なことかもしれないと思い始めている。これも一つの社会勉強である。
困ったことに、そのような現場はインターネット上では事欠かない。件の埼玉県教育委員会のパンフでは、保護者へのメッセージとして、「インターネットは実社会と同じ」と述べている。しかし物理的暴力が及ばない代わりに、実社会よりも危険と悪意を持った人間の行為が広く影響を与えうる世界という見方も、時には必要だろう。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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