PCの技術で完璧な「専用機」を作る:小寺信良(3/3 ページ)
PCは何でもできる魔法の箱。だが、それが弱点であることにも人々は気づき始めている。今後はニッチなニーズを満たすための「専用機化」がPCの目指す一つの方向になるだろう。BeOSを利用して最新の「編集専用機」を作ったメーカーの話から、その理由を探ってみたい。
ノンリニア編集のメタファは、フィルム編集だ。動いてしまって捉えられなかった「動き」をフィルムというメディア内に固定し、動かないようにしてからゆっくり料理するという考え方であった。
だが音の同期、例えばあるインタビュー映像の上に、別のカメラの映像を乗せてリップシンクを取るといった編集は、動かしながらでないとタイミングが合わせられない。DV-7DLのようなシステムは、従来ノンリニア編集では苦手とされていた、このような作業を得意とする。
開発者の室井氏がRolandで最初に手がけたのがリズムコンポーザー「TR-505」であり、その後BOSSブランドのDr.Rhythmシリーズの開発に携わってきたというキャリアも、まんざら無関係ではないだろう。
「専用機」の時代が来るか
PCを何かの専門用途に使うということでスペックを突き詰めていくと、イマドキのPCとしてはものすごく偏ったものになる。例えばDV-7DLでは映像を扱うくせにDVDは見られないし、Webで調べ物もできない。そもそもネットワークにつながらないのである。
だが、ビデオ編集のことだけを考えたら、WindowsやMacを使ったシステムよりも安心できる。OSの作法を覚える必要がまったくないため、今までPCを触ったことがない人でも、そこそこ使えてしまう。
もちろん編集の作法や常識は別に覚えてもらわなくてはならないが、それがちゃんとできている人にとっては、DV-7DLは“PC”ではなく、ただの「編集機」なのである。
「ファイルシステムを使ってデータ管理をする良さもあるんですが、取り込んだ画像の場所を忘れたり、プロジェクト内にあるべきファイルがなくなったりといったことも起こり得ます。そもそもファイル操作ということが、編集という作業からはちょっと外れますよね。われわれとしては、極力編集とは関係ない部分は排除しようという考え方なんです。」(室井氏)
DV-7シリーズは、本来コンシューマー向けの製品だが、開発拠点である長野県松本を中心に、口コミで学校や自治体などでも導入が広がりつつある。さらに最近では、CATVなどの放送業務でも採用例が増え始めている。
第30回ケーブルテレビ大賞グランプリを受賞した、上田ケーブルビジョン制作「僕はボクだから 〜山崎福太郎君〜」は、シリーズの旧モデル「DV-7R」を使って制作された。
特殊なことができるのが、専用機とは限らない。余計なものを排除して、作業に集中できる環境を提供してくれるもの、それだけで十分なのだ。背負い込むよりも捨てていく。PCの進化の先には、そういう世界があってもいい。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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