ついに子どもも被害者に? 個人情報流出事件についての考察(3/3 ページ)
個人情報の流出が毎日のようにニュースになっているが、子を持つ親として見逃せないのが先月明らかになった日能研の個人情報流出事件だ。未成年者の情報流出では過去最大規模になる可能性を持つこの事件をベースに、個人情報の流出の影響や原因といったものについて考えてみよう。
まあそれはそうだろう。いくら本社の人間が権威をちらつかせて乗り込んできても、相手が確信犯ならば尻尾を出すようなヘマはすまい。今後は外部の専門委員を擁した新体制で調査を続けるとあるが、おそらくこれの意味するところは、ようやく犯人捜しを情報処理に詳しい外部の人間なり組織に依頼したということだろう。逆に言えば、流出から今まで専門家に依頼せず、社内の人間だけでなんとかしようとしていたらしい。
どうも彼らには、未成年者の情報流出という基本的な「事の重大さ」がよくわかっていないらしい。今回流出したデータに載っている子供たちは、これから確実に中学受験、高校受験、大学受験と進んでいく。3年ごとに確実に受験ビジネスにとっての顧客になるのである。
受験ビジネスの執拗さに関しては、ちょうど1年ほど前にコラムを書いたことがあるので、併せて読んで頂ければと思う。
また、今回流出した子供たちの年齢は、小学校3〜6年生というから、年齢にして8歳から12歳の間である。ということは引っ越しでもしない限り、少なくともあと10年ぐらいは未成年者として親とともにその住所に住み、その電話番号で連絡が付けられるわけだ。性別のデータもあることから、これが風俗ビジネスにつながったら大変なことになる。
年頃になった男の子宛にはエロビデオや風俗情報誌のDMが大量に舞い込み、女の子宛にはテレクラ勧誘を始め変態的イタズラ電話が連日鳴り続けることになる。社会のダークサイドに対する対処がうまくできない未成年だからこそ、架空請求などの詐欺に簡単にひっかかってしまう可能性は高い。
つまり日能研の流出データは、今後10年以上にわたり、未成年者を食い物にする犯罪の温床と成りうるデータなのだ。流出された側にとっては、かなりのレベルでシャレにならない。
どうケリをつけるのか
最後に、データ流出に対する事後処理についてまとめてみたい。最近は社会風潮として、情報流出のお詫びは「500円の商品券」ということになりつつある。
最初に500円としたのがどの流出事件だったかはっきり記憶していないが、おそらく2003年6月のローソンカード会員情報流出事件ではなかったか。そして、この風潮を決定付けたのは、ソフトバンクBBのユーザー情報流出事件のようだ。
裁判にまで発展して判例が出たものとしては、京都府宇治市の住民票データ流出の際に、原告一人あたりに支払われた慰謝料としての1万5000円というものがある。これは慰謝料としての下限である1万円、弁護士費用として5000円という内訳である。
お金は払わなかったが、対応が誠実であったと評価されたケースもある。ジャパネットたかたの顧客情報流出事件では、オンラインショップを始め、テレビやラジオでの通信販売も約1カ月半自粛するなど、真摯な姿勢を見せた。
またアッカやソフトバンクBBでは、情報が漏洩した可能性をユーザーが確認できるページを設けた。この方法は、顧客側も自分がヤラレタのかどうなのかはっきりするという意味で、画期的な措置であろう。
珍しいケースはくだんのACCSの例で、被告の元研究員に毎日1回一年間、2ちゃんねる、2ちゃんねるプロバイダー、はてなダイアリーを巡回して情報漏洩を点検するということで和解が成立している。
日能研のケースは、どのように決着するのだろうか。仮に22万8000人分が流出していたとして、お金でこれを補填しようとすれば、一人あたり500円ならば総額1億1400万円、一人あたり1万5000円ならば総額34億2000万円となる。もし後者ならば、大抵の会社は一撃で倒産してしまう額だ。
「謝って済めば警察はいらないのよ!」と、子供の頃に怒られたことがある人も多いだろう。最初に言いだしたのがどこの母親なのか今となっては知る術もないが、上手いことを言ったものである。確かに世の中、謝って済むレベルのことと、済まないレベルのものがある。
そしてそれが大人になっても分かっていない人がいるのは、子供の頃に怒られ足りなかったのであろうか。そういうやつはシカクいアタマをマルくするために、日能研に入れてもう一度勉強させるというのはどうだろう。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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