「メディアは安い方がいいでしょう?」――東芝がDVD-R(VR)を採用したワケ:インタビュー(3/3 ページ)
東芝が発表した新型HDD/DVDレコーダー「RD-X5」の目玉機能の一つが、業界初となる“VRモード記録におけるDVD-Rメディアのサポート”だ。この機能を他社に先駆けて搭載する意義、そして、その位置付けを、RD-Styleシリーズの生みの親としても知られる同社の片岡秀夫氏に伺った。
片岡氏はこの状況に「値段とHDD容量だけが争点となるような昨今のレコーダーに関する状況には、憂いを禁じ得えない」という。
「“デジタルの本当の価値ってなんだろう”という疑問から私たちはスタートして、RDをここまで育ててきたわけです。今の状況は、デジタルの悪い面だけを助長していると言ってもいいのではないでしょうか」(片岡氏)
RD-X5に搭載されたDVD-RへのVRモード記録は、危機感を感じる片岡氏の新たな「チャレンジ」とも取れるものだ。というのは、DVD-RへのVRモード記録は、以前から、規格上は認めれられていたといっても、既存のDVDプレーヤーやDVDレコーダーなどでは、その再生をサポートしていない。そう、現状では、事実上の“自己録再”以外のなにものでもないのだ。
このため、うがった見方をすれば、DVD-R/RW/RAM、DVD+R/RWと5種類のメディアが存在する記録型DVDに「新たなフォーマットが登場した」と取れないこともない。しかし、片岡氏は、それでもあえてDVD-RにVRモードで記録するという新たな録画モードを導入した。「安価にソコソコのものができてしまう=ソコソコのものを作っておけばいいんだ、という考えをメーカーが持ってしまうと、便利で良いものというものを作っても商売できない土壌ができあがってしまう」(片岡氏)からだ。
「そうなると、お店に行っても似たような商品ばかりで、価格とブランドイメージ、宣伝の量、ハードディスクの容量競争となり、新たなイノベーションで商売が成り立つ市場がを失われることで、日本の電機メーカーそのものが、競争力を失ってしまうのではないでしょうか。新しいアイディアがあっても、それを活用して開発を進めるより、とにかく安くて売れるものを作るという方がいいという判断をするしかなくなってきます」(片岡氏)
「どこが安いとか、それだけが判断基準になってしまうことを、手をこまねいて見ている訳にはいかないと思うんです」と話す片岡氏は、今後も「デジタルの多様性・可能性を追求していくことで、簡単からこだわりまでのレンジでデジタル時代におけるユーザーの多様性に対応していきたい」という。
「PCと違ってレコーダーは見た目が鉄の箱なので、すべて同じように見えてしまうのかもしれません。“安くて録画ができればいいや”“細かい機能なんて使いこなせないし”と考える人がいることは事実だと思います。ですが、レコーダーは市場規模の大きく多数の企業によって活性化しているPCの世界と異なり、アーキテクチャーからハードウェア、細かなソフトウェア機能までをメーカーが一つのソリューションとして作り上げています。安易なハードウェア競争に走ってしまうと、本来、デジタルが持っているソフトウェア的な利便性や価値の拡大、利便性の多様化といったキーワードに象徴される部分がなくなり、海外の新たなビジネスモデルと競争していく体力さえも失ってしまう恐れがあると思います」
「そんなことにならないためにも、そこそこで安価な製品を作る安易なデジタル化ではなく、人それぞれに異なる利便性を提供できる多様化としてのデジタル化を追求し、健全な市場を作り上げていくよう微力を尽くしたいと思います」(片岡氏)
片岡氏は、RD-X3開発時のインタビューで、「レコーダーとして、より本質的な部分を優先して開発したい」とレコーダー開発における基本姿勢を述べている。
“DVD-Rという記録型DVDにおいて最も安価なメディアに、VRの利便性をプラスしてユーザーに提供する”ことは、片岡氏の考える、デジタルの価値を高めるための一つの形と言えるのではないだろうか。
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