フラットディスプレイの色調表現は、何を目指すべきか:小寺信良:CEATEC Preview(3/3 ページ)
10月5日から開催されるCEATECの目玉の一つがフラットディスプレイだ。各社が最新技術の開発でしのぎを削る中、私たちはどこにポイントを置いて“それ”を見ればいいのか――筆者なりに考えてみた。
そもそもなんでキヤノンが、という話になるわけだが、彼らはこういう微細なものの製造に、プリンタ技術を応用できないかと長年研究してきたわけなんである。SEDの電子放出部の形成には、インクジェットの技術が使われているという。
製品としての絵作りは東芝が担当するそうだが、あまり変な処理とか色づけをせずに、素直な表示デバイスとして育ててほしいと思う。SEDの色空間特性を示す資料は見当たらないが、もしブラウン管に近いのであれば、将来的には放送用スタジオで使うマスターモニタへの応用も可能ではないかと思うからだ。
今後に期待すること
現在放送用スタジオのマスターモニタは、まだまだブラウン管式モニタが主流だ。というのも放送ではSDでもHDでも、インタレース方式だからである。原理的にプログレッシブ表示となるフラットディスプレイを、マスターモニタとして使用するのは厳しい。
だが将来的にはプロでも、プログレッシブ方式のディスプレイ装置を無視するわけにもいかなくなることは目に見えている。
理由は二つ。一つは720Pや1080 24P/60Pといったプログレッシブのフォーマットも、HD方式として存在すること。もう一つは、コンシューマでプログレッシブ方式のテレビが主流になってくると、ちまたでは誰も見ていないブラウン管を、プロだけがいつまでもで見続けていることになるという状況に陥るからだ。
実は既に液晶の放送用モニタというのもいくつかあって、松下電器産業のBT-LHシリーズ、ソニーのLUMAシリーズなどがある。だが液晶は今のところ、表示可能な色領域がNTSCの規定範囲よりも80%ほど狭いという問題があり、特に色を作り込むテレシネやポストプロダクション用のメインモニタとしては厳しい。しかしこの問題も、トリルミナスやSEDといった技術が救うことになるかもしれない。
筆者はこれまで、コンシューマー用テレビモニタのレビューなどは積極的に行なってこなかった。それというのも、モニタ側で勝手に色を作り込んでしまうという風潮を、快く思っていなかったからである。
映像制作の現場では、目指す色味を作るのにどれだけの時間と労力と金が投入されているか、普通の人には想像が付かないであろう。
例えば肌色一つとっても、カタログサンプルのような綺麗(きれい)なものではなく、時には冷たく青く表現したいことだってある。血を吐く思いでようやく作り上げた繊細なトーンが、コンシューマーテレビのLSIによって一撃で作りかえられてしまったら、制作者が表現したかったものが、何も伝わらないことになる。
だがそれも新デバイスの登場で、考えを改めるべき時かな、とも思う。テレビは、オリジナルのソースを忠実に再現するものであってほしいというのが、今後のコンシューマーテレビに対する筆者の希望である。
明日からのCEATECでは、派手な色やコントラストばかりに気をとられず、是非「ナチュラルな表現」という視点で見てほしい。あなたの中では、一体いくつの製品が残るだろうか?
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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