日本の「パソコン」はどこへ行く?(2/2 ページ)
日本のPCメーカーはAV機能を搭載することで、“PCの危機”を乗り越えようとしているが、それがかえって“PCの不必要さ”を浮き彫りにしているように見える。では日本のPCメーカーはどこを目指せばいいのだろうか?
そんなノートPCですら、デスクトップと遜色ないマシンが登場している。これは家庭やオフィスにおいても、もはやデスクトップではなく、ノートPCがパソコンの本流となりつつあることを示している。また機能を削ることで顧客を失うのであれば、多少のコストとバッテリーの持続時間と重さの負担には目をつぶって、搭載しておいたほうがマシ、という判断なのだろう。
そんな中、ノートPCで評判が高いのが、Panasonicの「Let's note LIGHT」だ。今どきのパソコンらしいAV機能をほとんど搭載しておらず、シンプルで低価格、そして軽い。バッテリーもヤケクソに保つ。パソコンとしてはまったく当たり前の機能しかないのだが、そこが今のノートPC市場からすれば、「機能を積まない」という意味で差別化要因となっている。
この事実からすれば、実は既に一般ユーザーにとってパソコンは、「遊ぶもの」ではなくなってきているのではないか。パソコンが我々を遊ばせてくれた時代は確かにあって、それがCD-RやDVD-Rのライティングであったり、テレビ録画機能であったのだ。だが今は、一般家庭においても実用品となりつつある。
例えば筆者の家庭では、妻も小学5年生の娘もノートPCを持っている。これで普段何をしているかというと、ほとんどがWebの検索とメールだ。情報を引き出し、コミュニケーションするという、女性が重視する行動である。パッと取りだして使い、使ったあとは閉じて、机の本棚にしまっている。
どのPCでもDVDは見られるが、そんなものDVDプレーヤーならゲーム機やレコーダーも含めて家の中にはゴロゴロしているので、そもそもパソコンで見ようという発想がない。もしかしたら見られるのだということを、知らないのかもしれない。
積む技術より捨てる技術
多くのアナリストが指摘するように、パソコンは別のものに変質すべきだとする意見には、筆者も同意する。デジタル処理ならなんでも可能なのがパソコンだが、機能を積むという方向ばかり考えずに、機能を捨てる方向で考えるのも一つの手だろう。例えばWebとメールができて、USBが付いてる程度のパソコンでも、もしかしたらあんまり困らないのかもしれない。
パソコンを買う初心者が怖がるのは、「もしかしたら自分が何かやりたくなったときにこのパソコンで大丈夫か」というところだろう。だから、「とりあえずフルスペック」に走ってしまう。そしてこれまでのパソコンの売り方は、なんでもできるが故に「これを買えば今までとは違った自分になれるかもしれない」という、潜在的変身願望に依存していたわけだ。
だが実際には、パソコンを買ったから新しく何かをやり始めるということは、ほとんどない。初心者向けの書籍を多く書いている筆者の経験からすれば、だいたいがちょっと試して「ふーん、そういうものか」で終わりだ。何かをやりたい人は、パソコンを買う前から、というかパソコンがあるなしに関わらず、やりたいことを持っているものなんである。
日本のパソコンは、市場的にも機能的にも、かなり飽和状態にある。考え方を変えて、もっと機能をゴッソリ落として低価格にしたら、ベテラン層でも初心者層でも、喜んで買う人は多いだろう。そもそもパソコンとは、やりたいことがあれば自分でソフトを入れて使うものなのである。
ただし日本人受けするためにこだわらなければらならいのは、所有欲をそそるデザインと、工業製品としての作りの良さだ。本体が変な色しかなかったり、隙間が空いてたり、持ち上げるとギシギシいうようなものは、いくら安くても日本人の気質にはそぐわない。
そこのバランスさえ間違わなければ、まだまだ日本のパソコン市場も捨てたものではないと思うのだが。
関連記事
- PC大手3社が「3年以内に消える」――Gartner予測
「あと3年で3社が撤退」――リプレース需要後の成長鈍化を乗り切れないPCベンダーが出てくると、Gartnerは予測している。 - 「大手PCメーカー3社が消える」レポートに反論
「PCベンダー上位10社のうち3社が撤退する」というGartnerのレポートに一部のアナリストが反論、15億人以上が新たにPCユーザーになる可能性や、PC各社の堅調な成長ぶりを指摘している。 - PCの技術で完璧な「専用機」を作る
PCは何でもできる魔法の箱。だが、それが弱点であることにも人々は気づき始めている。今後はニッチなニーズを満たすための「専用機化」がPCの目指す一つの方向になるだろう。BeOSを利用して最新の「編集専用機」を作ったメーカーの話から、その理由を探ってみたい。 - あなたに必要なのは「専用機化するPC」か、「PC化する専用機」か
ユーザーの裾野が広がっていくに従って、PCは汎用性を犠牲にして「TV録画→DVD」のような専用機化しつつあるように見える。一方、家電はPCでなければありえなかったアップデートのような機能を得て、PC化の道を歩み始めている。どちらの道がより多くのユーザーから本当に求められているのだろうか? - 「IBMがPC事業売却」の報道(IDG)
- 小寺信良氏のその他のコラム
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.