「HD DVD/BD両互換は難しい」〜東芝、山田氏:2005 International CES(2/2 ページ)
強気のスケジュールをブチ上げたHD DVD陣営は、それが可能になる理由として0.6ミリカバー層によるディスクメディアの作りやすさを挙げた。前回に引き続き、東芝デジタルメディアネットワーク社の首席技監、山田尚志氏に話を聞いた。
──このまま規格が分離したままでは、ユーザーはなかなかついてこないのではないでしょうか。どこかに問題の落としどころは見つけられませんか?
「落としどころといっても、HD DVDに採用した技術はBDに何でも実装してしまい、結局違いは何もなくなってきています。違いがないならば、BDをサポートしている企業もHD DVD取り組んで欲しいですね。アプリケーションが同じなら、複製コストが安い方がいい。
確かに、過去を振り返ると容量が大きい方が勝ってきた歴史がありますが、レーザーディスクはVHDより記録時間が短くとも生き残りました。必要な記録時間が得られるなら、パッケージソフトに限っては容量が小さくとも、ほかのメリットで容量をカバーできるでしょう」。
──録画に関してはどうでしょう? HD DVD-ARWの容量は1層で20Gバイト、2層で32Gバイトですが、これで十分と言えるでしょうか?(関連記事)
「録画マニアで容量が大きい光ディスクがどうしても欲しいのであれば、BDを使うのもいいのではないでしょうか。しかし、BDの場合、記録型メディアも安くはならないのではと予想していますから、そう簡単に普及させることは出来ないでしょう。
とくに2層ディスクのコストは下げにくいハズです。それに対してHD DVD-ARWは、1層ならば初期のDVD-RAMよりも歩留まりがずっといい。2層は難度が高くなりますが、2層BD-REよりはずっと楽です」。
──HD DVD-ARWはランドグルーブ記録ですが、ランドグルーブでは2層化が難しいと聞いています。ARWの2層化は本当に可能なのでしょうか? また、2層ARWは1層目と2層目の容量が異なりますが、これはトラックピッチを変えているのでしょうか? それとも外周部を使わないようにしているのでしょうか?
「ランドグルーブ記録では、層間の干渉が問題となりやすく、ウォブルグルーブ記録よりも難度が高いことは確かです。しかし2層32Gバイトまでは確認しており、無理なく実装できると考えています。
レイヤによる容量の違いは、トラックピッチと外周部の余白の両方の理由からです。HD DVDは物理記録部分で無理をせず、メディアコストを下げることを基本方針としています。もっとも、コスト効率を考えると将来的には書き換え可能ディスクではなく、ライトワンスメディアの勝負になるでしょう。その点でもわれわれは有利です」。
──HD DVD-Rは、1層15Gバイトになるのでしょうが、さすがに15Gバイトではハイビジョン記録用途として不足ではありませんか?どのような点でHD DVD-RがBD-Rよりも有利なのでしょうか?
「HD DVD-Rは、CD-RやDVD-Rと同じように色素染料の塗布で製造できますが、BD-Rは塗布ではなくスパッタリングで色素層を作らなければなりません。コスト重視のライトワンスメディアでこの違いは大きいでしょう。15Gバイトでは不足という点も認識していますから、将来的には2層記録化を進めます。
なお、1層のHD DVD-RとARWは、すでに10数社の間でラウンドロビンテストを行っており、全面フルカットのメディアで初期サンプルから高い互換性と良品率の高さが実証されています」。
──とはいえ、もう少し容量に余裕が欲しいのでは? 米国のHD放送はビットレートが低く問題にならないでしょうが、日本では高ビットレートのBSデジタルもあり、地上デジタルでも米国のHD放送の2倍程度のビットレートがあります。
「ハードディスクも垂直磁気記録が実用化され、容量の壁を越えてきています。ハードディスク容量が増え、さらに半導体技術が進歩すれば再エンコードで光ディスクに記録する使い方も現実的になるでしょう。あと3年ほどで、ハイビジョンのリアルタイム再エンコードが家庭向け機器でも搭載可能になるはずです」。
HD DVD/BD両互換は難しい
──コスト的に難しいことがわかった上で伺いますが、HD DVD/BDの互換ドライブ開発の可能性はあると思いますか?
「われわれの方からそれをすることはありません。BDを推進している企業には気の毒ですが、メディアが高すぎて両互換にする必要があるほど普及しないと考えています。
BDの場合、録画メディアをどこまで下がるかがカギになるでしょう。ご存じのように、HD DVDとBDは同じ波長の光を用いていますから、ひとつのレンズで異なるカバー層のメディアをサポートすることはできません。レンズ切り替えならば可能ですが、そこまでする必要はないでしょう」。
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