「視聴」をテレビから切り離そう(3/3 ページ)
いつでも見たい番組が見られるというのは便利なものだ。しかし弊害もある。それは、テレビが生活の区切りにならなくなった、ということである。受動的にテレビを“見させられ続ける”のではなく、自分の見るものを選び、ムダなTV視聴時間をより有意義ななにかに使うという「工夫」が今必要なのではないだろうか?
先日ソニーが発表した新PSXには、PSPへの変換機能が付いた。だがその実装は、まことにお粗末なものだ。
まず本体には、PSPのメモリである「メモリースティック デュオ」がダイレクトに挿せない。独自規格内でありながらアダプタが必要というのでは、何のためのプロプライエタリなのかさっぱりわからない。
またコンテンツの変換には、実時間の4倍から5倍かかるという。しかもこの変換は、自動実行ができない。人間が「ダビング」を実行してから、初めて変換動作がスタートするのである。
CPUの質が違うので、変換に時間がかかることは仕方あるまい。だが少なくともこの機能を実用と言い張るには、録画予約時に変換予約もできて、本体の未使用時間を見計らって変換作業を実行しておくぐらいの仕掛けは必要だろう。
もうひとつの課題は、デジタル放送のコピーワンスをどうするかである。現時点では、せっかく高画質で録画したファイルがあっても、低ビットレートへ変換する際には、オリジナルのファイルは消去しなければならない。最初からポータブル機でしか見ない番組だと割り切ればそれでいいかもしれないが、それではあまりにも窮屈だ。
解決策の1つとして、ダブルチューナーを使って、高解像度視聴用と低ビットレート変換用の2ファイルを作成するというのはどうだろう。ずいぶんリソースの無駄使いのような気もするが、現時点ではしかたない。
もう1つの解決策として、音楽では不評だったチェックイン・チェックアウトシステムを、映像用にリファインし直したらどうだろうか。オリジナルファイルを消さずに、権利情報をポータブル機に移し替えるのである。見終わったらレコーダーに権利情報を書き戻すことで、オリジナルファイルが視聴できるようになるという仕組みだ。
もちろん筆者は、これらがベストな方法だと言うつもりはない。諸悪の根源はコピーワンスであり、これがある限りわれわれは、貴重な時間を無為にテレビの前で消費されられることを強要されるのだとも言える。
この「無慈悲なまでに公平なテレビの暴力」は、人がより豊かな人生を送るための足枷となる可能性があるというところまで、考えを進めておくべきだろう。
小寺信良氏は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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