近そうで遠い「著作権問題の解決」:西正(2/2 ページ)
地デジのIP再送信についての議論が活発に交わされているが、放送局と通信事業者の間での技術的な検証は進んでも、実際の再送信に至るまでの道のりはまるで狭まった感じがしない。肝心の著作権問題について、何の進展も見られないからだ。
それでも各IP放送事業者が慣れないハリウッドで映画を買ってくるくらいならば、その巨額の資金の一部でも構わないから、国内での制作投資に資金を投じるべきなのではないだろうか。
最初からIP方式で流すことを前提としてソフトが制作されるのであれば、著作権問題など起こりようがない。今のところ、大手通信事業者からそういう取組みが行われた例はないと言ってもいい状況に近い。しかしながら、もし自前でソフトを作ったとしても、マーケットが育っていない現状では赤字になるだけかもしれない。
つまるところ、VOD的な視聴スタイルは、まだまだ日本では普及していないのだ。それだけに著作権料が十分な水準に行かないため、権利処理も進まないのである。VODのマーケットが拡大して、相応の市場を形成するようになれば、著作権料も払いやすくなるだろう。マーケット形成が先なのか、それより前に良質なソフトが次々と提供されるべきなのかは、チキン&エッグのような関係でしかない。
しかし、もともとVODという視聴スタイルは進展・普及はしていないことからすると、そこに使うソフトを出せと言われても、放送局としては二の足を踏まざるを得ないだろう。
赤字は覚悟で著作権料を払ってマーケット・メイクに出て行くという選択肢はありだろう。様子を見ていながら、そろそろマーケットも出てきたなという時点での参入も有り得る。ただし、時期を間違えれば、先行した事業者にメリットが集中する可能性もある。
著作権団体の動向を見ている限りでは、許諾に応じないところも出てくるだろう。まして蓄積して視聴されたり、VODのソフトに使われたりするソフトが多くなってくると、複製権についても厳しい条件が付いてくることは間違いない。
話題の中心の一つである、コピーワンスの見直しについてだが、確かにユーザーにとっては便利になるとは思うが、著作権者たちからの複製権の要求もコピーが可能な回数の分だけ、単純に現状の整数倍にされる可能性も高い。それ故に、たとえ単品ベースであったとしても、簡単に権利処理が進まないことも考えられる。
そう考えると、IP方式による再送信というのもずいぶんと一足飛びの話であると感じる。にもかかわらず、肝心の行政は技術上の検証ばかりに目が向けられている。いくら実験を行って技術上の問題をクリアできたとしても、著作権問題が解決しないことには、一歩も前に進めないことを再確認しておくべきだろう。
IP方式での再送信については、反対意見も数多く寄せられている。だが、論点がバラバラなため、パブリックコメントも行政お得意の単なる「ガス抜き」に使われるだけになるかもしれない。
筆者の目から見て、行政と通信事業者には、放送局の抱えるジレンマのようなものを一緒に解決していこうという姿勢がどうにも感じられないのである。しかし、著作権問題が片付かない限り、IP方式による地デジの再送信は実現しない。縦割り行政について批判ばかりしていても仕方がないのだが、やり方によっては法改正も必要になってくる話である。
面倒に思われることから片付けていくことが、結果として解決を早めることにもつながるものである。IP再送信を実現のための最大の課題は著作権問題の解決に尽きるということを改めて再確認しておくべきだ。
西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。
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