検索
コラム

テレビの広告モデルに関する一考察西正(2/2 ページ)

過去に放送されたテレビ番組をネット配信するに当たり、広告モデル、有料モデルそれぞれのビジネスモデルが検証されているところだ。ただ、ネット広告がテレビ広告市場を侵食するかどうか以前の問題として、テレビ広告にもコンテンツの調達を含めて色々な種類があることを再確認しておこう。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

 一日の放送時間のうち、ある一定割合はローカル局が自主制作番組を流さなければいけないように、プライムタイムでもローカル局が自ら広告スポンサーを獲得しなければならない。例えば、2時間ドラマが放送される際に、CM枠が14分間あるとしたら、そのうちの2分はローカル局が自ら広告のセールスを行うことになっている。

 有力なローカル局の場合には、その2分間分でもしっかりと広告収入を得てくるのだが、力のないローカル局は広告が獲れずに番組宣伝を流すような結果になる。ローカル局間でも実力の差が明らかになるのは、そうしたケースでの違いがあるからだ。「NL」の大半はこのケースである。

 番組制作には相応のコストを要する。リクープできる見込みもないのに、制作に大きな資金を投じてしまうことはリスクが大きい。そこで、自主制作枠については、他局から番販を受けるケースが多くなる。

 「L○」の実態はそうした形になっているが、「LN」であればリスクはほとんどない。全国ネットの広告スポンサーは、東京キー局が獲得してくれるのだから、番販料と広告収入の差額が大きければ、ローカル局としては十分に採算ベースに乗るからだ。

 「LL」は大変だ。「LL」を無くすことは出来ないにせよ、リスクを軽減するために人気番組を番販で買ってきて、その番組の視聴率をアピールすることにより広告スポンサーを確保していくことになる。

 ある意味では、放送局である以上「LL」こそが正しい姿のようにも見えるが、体力のないローカル局が「LL」に徹するようなことをしたら簡単に潰れてしまうだろう。全国ネットに存在意義があるからこそ、東京キー局は系列局への配慮を欠かさずにいる。簡単に潰れられては困るので、形態としては一応「LL」のようにしているが、実態としてはなるべく「LN」に近いものになるようにしている。

 最も「LL」的な経営をしている独立U局であっても、置局されているのは三大都市圏のみである。「N」的な要素も微妙にまじえてあるが、それも十分な経営ノウハウを有しているからこそ可能なのである。

 ネット広告がテレビ広告市場を侵食していくとの指摘があるが、テレビ広告自体は上記のような複雑な関係から成り立っている。ネット配信のビジネスモデルも含めて広告モデルの採用を検討するのであれば、テレビ広告の仕組みを十分に理解しておくべきだろう。

 現状のネット配信の様子を見ると、コンテンツを自力で制作しようと考えている事業者は少ない。ちょっとした映像作品でも視聴者を集うことは可能なので、その程度のコンテンツなら用意できるだろう。

 しかし、ネット配信が行われる相当以前から映像コンテンツとしてのテレビ番組を視聴してきたユーザーに対し、あまりに見栄えのしないコンテンツだけを並べていたら飽きられてしまう。それなりに見応えのあるコンテンツをそろえるためには、やはり過去に放送されたテレビ番組を購入してくることになるだろう。テレビ広告の世界で言う「L○」にならざるを得ない。

 また、広告モデルを採る以上はスポンサー企業を獲得してこなければならないが、ネット配信の場合には、テレビのようなネットワーク形態を採ることは考えにくい。スポンサー企業の獲得も自力である。つまり、ネット配信の場合には、テレビ広告の世界で最も大変だと言われている「LL」で行かざるを得ないことになる。

 「LL」に徹すると、ローカル局の経営は立ち行かなくなると指摘した通りである。ユーザーにとっては、無料で視聴できる広告モデルはなじみやすいと思われる。もっとも、テレビ広告もCM飛ばしの手法は高度化する一方であることを考えると、ネット配信の広告をどれだけ印象深く見せることができるのかは難しい問題である。仮にテレビ並みの広告効果があるという前提で推論しても、「LL」の形で採算を確保することは難しかろう。

 大手通信企業には民放ローカル局と比較しようがないだけの資金力がある。体力に物を言わせ、ビジネスが軌道に乗るまで頑張るとの考え方もあろう。しかし、テレビ局はわずか1チャンネルを運営していくだけでも、「LL」では成り立ちにくい構図にある。ネットの場合には多様なジャンルのコンテンツを並べられるだけに、ユーザーを惹きつけるためには相応の数と種類のコンテンツを用意しておく必要がある。まして「LL」を運用していくノウハウなどはない。

 現段階でネット配信のビジネスモデルとして何が正しいのかを決めることは難しく、また、決めるべき段階にもないと思われる。ただ、広告モデルの採用を検討するのであれば、テレビ広告も一様ではないことに留意しておくべきだろう。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「IT vs 放送 次世代メディアビジネスの攻防」(日経BP社)、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

前のページへ |       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る