私的録音録画制度に潜む問題:対談 小寺信良×津田大介(2)(3/3 ページ)
ここ2年で最も話題に登った著作権関連の話題と言えば、私的録音録画補償金の問題、いわゆる「iPod課金」の問題だろう。小寺・津田の両氏はこの問題についてどのような意見を持っているのか。
日本がお手本にならざるを得ない世界
小寺氏: そもそも補償金というモノはメーカーが払うモノなんですよ。録音録画機材は著作権侵害の幇助にあたるので、それはメーカーが保証しなさいというのがコトの発端なのに、コピーする消費者が悪いからそこに負担させるというのは日本だけですよ。補償金問題については、まずそこからクリアにする必要があると思いますね。
「世界と足並みを揃えよう」と著作権の有効期限を70年にしたがっている人もいるようですが、足並みを揃えるならそこからじゃないでしょう。
津田氏: 消費者敵視としか考えられないような発言をする人もいますね。ただ、そうした発言をするのが、実際に創作をしているクリエーターじゃないという現状はありますね。
小寺氏: 著作権の法制度を取りあげれば、日本は諸外国に遅れていません。先進的とも言えます。送信可能可権なんてモノを考えたのは日本が最初ですからね。もはやお手本がないぐらいのところまでいってますから、これからは私たちが世界の前例となる事例がたくさん出てくるんですよ。
――その先進的な著作権は、権利者と利用者の幸せな関係を築くために機能しているのでしょうか
小寺氏: 著作権といってもしょせんは商売のルールなので、本来は権利者と利用者が話し合って落としどころを決めるべきなんです。でも、現実は著作隣接権者とメーカーの話し合いになってしまっている。
津田氏: ですが、個人と個人を結ぶインターネットのような仕組みが普及して、個人も自由にコンテンツを流通させることが可能になりました。自らコントロールできない流通経路をコンテンツホルダーは恐れています。
小寺氏: SARAH(私的録音補償金管理協会)やSARVH(私的録画補償金管理組合)、JASRACはあくまでもお金を集める「とりまとめ屋」なんですが、ネットワーク化が進むことでとりまとめる必要がなくなってしまいます。DRMが発達すると利用者と権利者を直結させる可能性がありますから。
津田氏: 究極的な話ですが、DRMですべての曲の再生回数や補償金の管理が行えるようになれば、JASRACも音楽出版社もいらないわけですよ。そのことに対して本当はアーティストももっと自覚的にならなきゃいけない。もっとも、そうした展開に備えてJASRACもいろいろと対抗策は考えているとは思いますが。
小寺氏: DRMで追跡管理できないモノのひとつが実演ですね。実演に関する管理は従来のやり方しかできないので、そこは組み合わせていくことになるのではないでしょうか。
津田氏: ただ、補償金がまったく発生しないけれど、DRMでガチガチに管理される世界が望ましいかと言えば、そうとも思えないんです。だったら、補償金があることである程度の曖昧さ、グレーなものをグレーとして残しておいてくれるならば、そのほうが結果的に見れば消費者利益になるのかなとも思います。特に放送の世界に顕著ですが、音楽についても現在は過渡期といえる状態ですよね。
過渡期であるのにもかかわらず、DRMによる強固な管理体制を作り上げてしまって、それが既成事実化するぐらいならば、曖昧さを残すために補償金制度を利用するのも現実的ではないかと思えます。難しい問題であることは変わりないですが。
音楽業界も、CDに完全なDRMを施すことが無理なのは分かっているんです。知っているのに無理をしたからCCCDなどの問題が起こった訳ですよ。rootkitみたいな「ヘマ」をしてくれたから、うやむやのうちにまだCDが出てますけど、もうちょっとうまくやられたらCCCDの普及率は変わっていたかもしれない。
小寺氏: その無理を通してしまったのが放送業界ですよ。有識者の意見を求めたり消費者の意見を聞くことなく、コピーワンスというDRMを導入してしまった。
津田氏: それは音楽と放送の業界体質の違いも影響していると思いますよ。乱暴な言い方ですが、放送業界は消費者不在でも成立しますが、音楽業界はCDを買ってくれる人がいないと成立しませんから。
小寺氏: ダイレクトに物販しないと収入が得られない音楽業界と、広告という産業の中でも珍しいスタイルの収入源がある放送業界では、確かに体質は異なるでしょうね。
(次回に続く)
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