ちょっと気になるタマゴ形、富士通テン「TD508II」:短期連載:小さな本格派スピーカーを探す(2/2 ページ)
富士通テンは、タイムドメインのライセンスを受けて同理論を元にしたスピーカーを開発、発展させてきた。同社のシリーズの中から、中核を担う8センチ口径のユニットを採用した「TD508II」を取り上げてみよう。
リビング:聴き方によって印象が変わる
小型の8センチフルレンジユニットと聴くと、昔のフォステクス製フルレンジユニットに自作エンクロージャーのスピーカーを思い出して懐かしく感じる読者もいるだろうが、当時と現在とではスピーカーユニットの性能も大きく違う。
TD508IIは、リビングの小型スピーカーとしてはやや多めのエアの中でも、無理なく高い音圧を出してくれた。筐体がグラマスなだけに、さほど見た目に“小さい”という感想はないが、しっかりと他社10センチウーファークラスの製品と同等のスケール感は出る。
ただ、タイムドメイン理論とも関連するのだろうが、このスピーカーは聴き方によってかなり印象が異なるように感じた。
周波数バランスは、結論からいえばあまり好ましいとは思えない。低域はダラリと少しづつ下がっていく印象。スピーカーを壁に近付けていくと、とりあえず低音の両は出てくるが、質感の表現や解像度は望めそうにない。中高域、ちょうど女性ボーカルでも少し高めの声あたりにややクセを感じ、高域に至ると歪みっぽい印象を受けた。周波数レンジが上に伸びている印象はなく、昨今のワイドレンジ再生スピーカーに比べると狭い。高域の歪みっぽさが、ソースの持つ透明感を失わせている印象もある。
しかしフルレンジスピーカーだけあって中域のハリやツヤっぽさ、音像定位はさすがだ。音像はカリカリとせずやや太書きだが、各パートの分離は明快で、音場の空間を描き分けるのは得意のようだ。特に各楽器パート間の微妙なリズムの変化やプレイヤーの感情表現を感じ取りやすく、ジャズセッションのライブ録音などは実に楽しく聴ける。このあたりに「音楽演奏家に音楽の表情をもっとも的確に表現すると評価されている」と富士通テンがアピールするタイムドメインスピーカーの長所があるようだ。
セッティングにも比較的寛容で、リアバスレフの関係で壁との距離を適切に調整し、置き場所さえしっかりした場所を選びさえすれば、頭の位置が少々ずれても違和感なく聴ける。小音量でBGM的に流しながら、部屋の位置を自由に動いて音楽を楽しむ際には良さそうだ。端的にいえば、気持ちのいい視聴エリアが比較的広いのである。テレビ音声を再生させるスピーカーとしてもいいだろう。
デスクトップ:音像はしっかり
デスクトップへの設置では、標準で付属している“足”が便利。上下方向の角度を調整できるため、頭よりも低い机上に直接スピーカーを置いても、頭方向にきちんと調整できる。
ただし近接でこのスピーカーを聴くと、リビング時にも多少出ていた高域の歪み感がより強調されて耳に入ってくるように感じる。その一方でリビングでは太書きだった音像はしっかりとした輪郭を描くようになる。
とはいえ、リビング環境、デスクトップ環境、双方での音の差は比較的少ない方だ。
MattBiancoは、独特の見通しが良いカラッとしたサウンドに、ややウェットな艶っぽさが乗ってくる印象。ボーカルがより女性っぽく、エロティックになった。その一方、リズム感は気持ちいい。
Joe Sampleのピアノも、ジャンルは違えど傾向は同じだ。プレーヤ同士の掛け合いが生む、絶妙の間合いが生み出すノリが気持ちよく音楽を聴かせる。ソロパートの感情表現も素晴らしい。これはDonald Fagenのような緻密な計算の元に組み立てた音楽でも有効で、音楽表現を崩さずに耳元へと届く。
ただしいずれの場合も、音域バランスの崩れや高域の歪み感、伸びやかさ、透明感は希薄。このあたりが本製品を評価する上でのポイントといえそうだ。
まとめ
TD508IIを聴いて最初に持つ印象は“レンジの狭さ”だ。最上位モデルではさほど感じないが、TD508IIではやや気になった。特に高域に乗る独特の歪みっぽさは、透明感のある音を求めるユーザーには向かない。
しかしやや狭めの音場ながら、明確な音像定位と情感溢れる音楽的表現力は、このサイズ、価格のマルチウェイスピーカーからは得難いものだ。
ただ、低域の再生能力は、やはりもう少し欲しいところ。ヴォーカル中心のソースならば不満はないだろうが、低域にもう少し表現力がくわわると、全体の質感が大幅に向上するだろう。同社にはTD508II、TD510などとマッチする、実力の高いサブウーファーの提供を望みたい。
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