“グッドデザイン”の基準(2/2 ページ)
最近、「デザイナーズ住宅」や「デザイン家電」など、カッコいいものが増えてきた。デザインに対する意識の高まりは大歓迎だが、よく見ると中身はさまざま。イメージ先行で実用性や機能性を犠牲にしていたり、割高な価格設定といった一面があるのも事実だ。
とくに印象的だったプロダクトが、8月に国際展示場で開催された「GOOD DESIGN PRESENTATION 2006」(GDP 2006)で見つけた一人乗りヘリコプター「GEN H-4」だ。GDPは、グッドデザイン賞の2次審査会を兼ねたデザインショウで、一般の入場無料。グッドデザイン賞の1次審査を通過した製品が大小を問わず広い展示会場を埋め尽くす様は一見の価値がある。
話を戻そう。GEN H-4は、長野県に本拠を置くGEN CORPORATIONが開発した同軸二重反転式の軽量一人乗りヘリコプターだ。ローター径は約4メートル、乾燥重量約75キロ。10馬力のエンジンを搭載し、時速約10キロで約30分間の飛行が可能。360万円でキットも販売も行っている。
ただし、今のところ航空法の規制により、操縦できるのはいくつもの条件をクリアして特別な認可を得た人のみ。それも飛行時は高度3メートル程度、速度は5ノット以下に制限されるという(詳細は同社のWebサイトを参照)。「GEN H4は現在、“自作飛行機”というカテゴリの中で試験運用の段階。しかし、今のような煩雑な手続きを行わなくても、ハングライダーやパラグライダーのように、もっと敷居の低い乗り物にできないものか。グッドデザイン賞に参加して認知度を上げ、状況が変わっていくことを期待しています」(説明員)。間接的であれ、応募の最終目的が規制緩和というのは初めて聞いた。やはりグッドデザイン賞は奥が深い。
なお、GEN H-4は無事にグッドデザイン賞を受賞した模様だ。
繰り返す投票は必要か?
さて、グッドデザイン賞は毎年1000近くのプロダクトが受賞するが、その年のグランプリに当たる「グッドデザイン大賞」は1つだけだ。選出方法は、審査員と受賞者による投票。しかも、2位以下に圧倒的な大差を付けないと1回の投票では終わらない。差が小さい場合は、上位の製品による“決選投票”が行われるのだが、実は2005年も2006年も投票は3回ずつ行われている。
投票にはとにかく時間がかかるため、その場で待ち続ける報道関係者などは「1回で決めればいいじゃん」などと小声で話していることも多い。しかし、実はここがミソかもしれない。
1度目の投票は、その前に行われるプレゼンテーションが大きな意味を持つ。プレゼンによって参加者は製品開発の経緯や背景にあるものを知るが、プレゼンターの持ち時間は1人3分しかない。このため、インパクトのあるもの、面白かったものが票を集める傾向が強い。
今年の場合、1回目の投票では大根おろし「オクソー・ダイコングレーター」とロボットスーツ「HAL-5」がトップを争っていた。その場にいた筆者は「どっちが大賞をとっても記事的に面白い」などと密かにほくそ笑んでいたのだが、3度目の投票で三菱自動車工業の「i」(アイ)が大逆転。ついでに「今年のグッドデザイン大賞は“大根おろし”」という魅惑的な記事タイトルは“お蔵入り”になった。
もちろん「i」(アイ)の受賞に異議はない。ベスト15に選ばれた製品は、どれが大賞を取ってもおかしくないものばかりだし、「i」(アイ)に関していえば、外観はもとより、リアミッドシップによる居住性の改善や衝突安全性などが評価された結果だ。
ただ、2度、3度と投票を行い、ノミネート作品が絞られていくと同時に、投票者にはもう一度、製品の背景にあるものを見つめ直す時間が与えられる。そのとき、「i」(アイ)のヒットそのものが、かつての悪いイメージを払拭しようと努力してきた人たちを象徴するものだということ、あるいは三菱自動車の新しいイメージリーダーを応援する雰囲気が投票の場にもあったように思われる。グッドデザイン賞には、人情が絡む余地もあるのだ。
製品のスタイルを評価するデザイン賞でありながら、間口は広く、奥が深い。人々の気持ちを汲み上げることもできる。そんなデザイン賞が存在することを、日本人はもっと誇りに思っていい。
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