松下のBlu-ray戦略――現状と今後:2007 International CES(2/2 ページ)
CES会場近くにて、松下の次世代光ディスク事業の舵取りを実質的に判断している松下電器産業・役員の津賀一宏氏に、次世代光ディスクの現状と今後について話を聞いた。
――一方、パッケージソフト中心の北米では、本格的な市場の立ち上げ時期が遅れたこともあり、当初はHD DVDに先行を許しました。11月以降の追い上げは激しかったことが売り上げデータからも分かってきていますが、こちらは“終戦”宣言には早い気がします。
津賀氏: その通り、残りは北米だけです。日本市場はすでに終戦しましたから、今年は北米でのフォーマット戦争を終わらせ、早期に事実上の規格統一を目指したいと考えています。
――そもそも、昨年はPS3が発売された11月まで、BDのビジネスは北米市場でほとんど行われていなかったに等しい状況でした。これではHD DVDに先行を許しても致し方ないですよね。
津賀氏: 自社の製品に関して言えば、(発売が)遅くて(値段が)高いと言われましたから、今年はコストバリューの高い製品を早期に揃えていきます。元々、昨年は規格立ち上げ時期ということで、プラズマのフルHD化とセットでハイエンド層を狙っていました。北米のハイエンド層向けに65インチプラズマテレビとともに、フルHDの良さを訴求することを狙い、プレーヤもハイエンド向けの仕様としています。今後はこれを購入しやすい製品へと展開していきます。
一方で、ディスプレイとしてPDP、プレーヤとしてBDで高品質の映像を楽しめるプラットフォームを提供し、さらに高画質のコンテンツオーサリングを行うためにパナソニックハリウッド研究所でH.264エンコーダの開発とオーサリングサービスを提供するという、当初から考えていた戦略は実践できました。製品だけでなく、その上で楽しむコンテンツも含め、トータルで高いクオリティを提供していく。この狙い通りのミッションは達成できました。
――PS3以降、北米でもBDソフトの売り上げが急伸しているとのデータが示されましたが、しかし米マスコミの反応を見ると、まだまだ均衡感があるように捉えられているようです。今後、松下としてはどのように北米市場を攻略するのでしょう。
津賀氏: ひとつは映画スタジオに、もっともっと多くのBDソフトタイトルを出してもらうことです。北米は日本とは異なり、プレーヤ中心の市場です。BDソフトが再生できる環境としては、すでにPS3が100万台出荷され、そのうちの80%がBDプレーヤーとして使われている。さらに75%のユーザーは、この製品をビデオプレーヤーとして使い続けたいと考えていますから、ソフトを売るための受け皿としては圧倒的なボリュームが存在します。
現在、低価格のプレーヤーが存在しないこともあり、家電のプレーヤーも販売を伸ばしていく必要がありますが、これは松下だけでなく、ソニー、パイオニア、フィリップス、サムスンなどが販売していけば、自然に数が伸びてくるでしょう。
ソフトを販売する受け皿が広がれば、当然、ソフトの供給数は増えていきます。現在、映画会社はクオリティの高いオーサリングサービスを求めて、オーサリング可能なキャパシティめいっぱいを使ってタイトルの開発を行っています。もっと多くのタイトルを供給できる体制を整えなければなりません。
さらに我々は2層ROMのレプリケーション技術を開発し、これをオリジン電気を通じてハリウッドのディスクレプリケーション会社に納めています。昨年末から米シンラムの工場でオリジン電気の2層ROM製造ラインが稼働し始めました。ディスク製造は設備さえあれば大量の発注にも対応できますから、ソニーが開発した製造装置とともに、ラインを拡充していけばROM供給のニーズには対応していくことは簡単です。
こうした、表にはあまり出ないコンテンツ業界を支える部分に取り組める企業は、業界全体を見渡しても我々とソニーぐらいしかありません。サムスンなのか? それともLGなのか? 僕らしかいないんですよ。ですから、裏で業界を支えることでHDコンテンツの立ち上げを積極的にサポートしていきます。
――表だったプロモーション活動を行うよりも、まずは足場を固めて業界全体でビジネスの骨格を強化していくということですね? そうした取り組みの成果が、6人の映画スタジオ系ホームビデオ販売会社・社長が一同に会しての記者会見につながったのでしょうか。北米のBDAチェアマンであるパーソンズ氏は、北米市場もほぼ終戦が決定的といった趣旨のプレゼンテーションを行いました。津賀さんはこの点を、どのように予測しているのでしょう?
津賀氏: まさに、私もそのように感じています。従来の記者会見ではハードウェアメーカーが中心に自社規格の優位性を訴えてきました。しかし、今回は映画スタジオ自身が発表会にあれだけのサポート、協力をしてくれました。規格をどうするかではなく、実際にビジネスをどう立ち上げていくかを考える段階に入っています。こうしたフォーマット戦争では、発売するタイトル数やサポートするハードウェアの数、それに実際のソフトウェア販売数が開いていくと、それを逆転することはまず不可能です。数カ月後、今年第1四半期の実数が出てくれば、北米市場も圧倒的な大差がついて“終戦”するでしょう。これ以上、市場を混乱させないためにも、そうしなければならないと思っています。
そうなった時のために、我々もオーサリングとディスク製造の両面で、BDビデオのビジネス立ち上げをサポートしていきます。スタジオ側もビジネスが始まってみると、目先の利益やコストよりも"画質"について徹底的に高い要求をしはじめました。今後、MPEG-2でオーサリングされるタイトルのほとんどは50Gバイトの2層が前提ですし、H.264で2層を使い切ろうというスタジオもあります。さらにフォックスなどは、50Gバイトよりも大きな容量が欲しいと言い出しました。品質に“これで十分”ということはありません。高い品質にも慣れてくると、より高い品質を求めたくなる。ならば最初から可能な限りの高いクオリティを提供できるよう、映画スタジオをサポートしていきます。
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