オーディオの楽しみを再び:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(3/3 ページ)
これまで「音が聞こえればいい」と思っていた人が、趣味として、音楽を積極的に楽しみたいと考え始めている。ただ、オーディオの世界は広く深く、お手軽とは言い難い側面もある。デジタルメディア評論家・麻倉氏にナビゲートしてもらおう。
――ここまでは1つのメーカーでプレーヤー(アンプ)とスピーカーをそろえた例ですが、各社の製品をチョイスしてきたい場合、なにかおすすめはありますか。
麻倉氏: 「ハイエンドオーディオの復権」の回でも触れましたが、まずはAura(オーラデザイン)の「note」をオススメします。メーカー自体は既になくなってしまいましたが、かつてはおしゃれな、スッキリした製品を出していました。音にも透明感とスピード感がありました。倒産時に設計図が日本のプロデューサーでに引き継がれ、再現機がYUKIMUからが登場しています。
noteはプリメインアンプとチューナー、CDプレーヤーを一体化した製品です。天面にガラスを配したデザインも素晴らしく、「音楽を聴くぞ」という気持ちにさせてくれるたたずまいの良さが凝縮されています。レトロモダンとでも表現できるデザインではありますが中身は先進的で、そのサウンドの情報量は多いものの決して押しつけがましくなく、艶や質感も保たれています。
この製品に組み合わせたいのが、DYNAUDIOのスピーカーです。noteが情報量に富んだタイプなので、「EDITIONS 52SE」などしやなかに音を出すタイプがマッチします。実際に音を出してみるとバランスがよくナチュラルで、自然さに富んだサウンドとなります。noteの押し出しの強さを受け止められるので、お互いの特徴がしっかりとかみ合います。
そのほかには、ELACの「BS-203 ANNIVERSARY」やKRIPTONの「KX-3」、B&Wの「804S」もおすすめですね。BS-203 ANNIVERSARYと組み合わせると、上質に間接音が広がる、価格からは想像できないサウンドになります。ハイエンドへの道しるべとなるようなサウンドです。
KRIPTONの「KX-3」は長くスピーカー製造を続けてきた職人が作り出した製品で、彼の指向する自然さと強さ、シャキッとした部分がnoteのもつ情報量指向と上手にかみ合います。B&Wの良さは情感、質感の表現なのですが、それらの特徴もnoteにマッチします。
――ここまではある意味定番ともいえる製品を選んで頂きましたが、これから注目すべきアイテムがあれば教えてください。
麻倉氏: いま注目しているのは、NuForceのデジタルプリメインアンプ「IA-7E」です。NuForce(ニューフォース)はアメリカのベンチャー企業なのですが、なんといってもそのサウンドが素晴らしいのです。駆動力があるのですが、かといって力みを感じさせず、すっと音が立ち上がります。
立ち上がりが軽やかで滑らか。音の中の情報量が多いながらも無色透明と、最近チェックした製品の中では出色のデキです。しかもとても小さく、軽いので、出てくる音とのギャップに驚かされます。デジタルアンプでここまでの音を出せる製品が登場したあたり、新しい技術の潮流が音楽の世界にやってきたことを感じさせますね。
あとひとつ、とっておきがあります。それがPS3です。AVファン的にはPS3はゲーム機ではなく、ハイエンドプレーヤーとして見るべきです。Cellを搭載した成長する家電であり、登場してから時間が経つほど価値が上がってくる稀有な例です。最近のアップデートで行われたSACDの音質改善はまさにその真骨頂ともいえます。
登場直後からPS3でのSACD再生は可能でしたが、このバージョンアップが行われてから音が非常によくなりました。単体SACDプレーヤーの開発で得られたエッセンスが投入されているのではと想像します。「音作り」は明確なポリシーを持たずに行うと迷走しかねないのですが、音の切れ味、SACDならではの音のキレも表現されています。
ただ、仕様上HDMI伝送になってしまうので、“HDMIっぽさ”が消えきらないのが残念です。今秋に各社から出るであろうAVアンプはHDMI伝送について強化と改善が行われますので、それらと組み合わせるとよいのではないでしょうか。SACDはメディアの能力は高いのですが、それを引き出そうとするとそれなりの投資が必要になります。PS3ならば低価格でそれが実現します。この恩恵はCELLを持つPS3ならではのものですね。
――最後に、具体的な「買い方」について教えてください。どうしても初めてのこととなると、Webや店頭でカタログをにらんだり、店員にアドバイスを求めるぐらいしか情報を得る手段が思いつかないのですが……。
麻倉氏: 極論してしまうと、カタログは大きさの参考程度にしかなりません。とにかく試聴室に足を運んで音を聴くことです。店員によく聞く音楽や好ましいと感じる音の傾向や伝えた上でお勧めを聞き、試聴のできる場所へ足を運んでみるのがいいでしょう。店頭では集中して聞けませんし、セッティングが完全である保証もありませんから。一番よくないのは、ネットの評判だけで購入してしまうことです。オーディオは絶対に自分の耳しか参考にならない世界なのです。聴かずに買ってはだめですよ。
取材協力:DYNAUDIO JAPAN
麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴
1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。
著作
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント
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