次世代DVDの凄さ:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(3/3 ページ)
対応機器と作品も増えつつあるBDとHD DVDだが、最近になってようやく24pやHDオーディオといった「次世代のポテンシャル」を体感できる機会が増えてきた。“ハイビジョン・ラバー”麻倉怜士氏に、改めて次世代DVDの凄さを聞いた。
――映像に比べて目に見える違いがないせいか、音声について言及される機会はあまり多くありません。次世代DVD環境下では音声(オーディオ)も大きく変化しているのでしょうか。
麻倉氏: DVDにおける音声は位置づけ的に低い位置にとどめられていました。DVD-Videoの規格上、総ビットレートは10.08Mbpsですから映像を優先すると音声に割り振れるのは1Mbps程度です。ですが、BDならば10Mbps以上を音声に割り振ることも可能なので、単純にリソースだけを取りあげても飛躍的に拡大されているのです。
これによって恩恵を受けるのがリニアPCMです。BDの「プロデューサーズ」(ソニー・ピクチャーズ)にはDolby Digital 5.1chとリニアPCM 5.1chの双方が収録されていますが、聞き比べるとまったくの別物です。Dolby Digital 5.1chは640kbpsと、そのフォーマットとしては最高レベルの音なのですが、やはりロッシーな圧縮により音が固まり、ほぐれないです。しかし、リニアPCM 5.1chは音が解放され、非常にリッチな空気感や質感が再現されるようになり、音の体積が増えているように感じられるのです。
最近では「HDオーディオ」という言葉を聞くことも増えましたが、「リニアPCMのCDやロッシーのドルビーデジタルやDTSより上」という概念を指す言葉と理解すればいいでしょう。広域にとらえるならば、SACDやDVD-Audio、ロスレス圧縮、ハイビット・ハイサンプリングのリニアPCMまでも含めて良いかと思います。次世代DVD的で狭義にHDオーディオといえば、TrueHDとDTS-HDのロスレス圧縮フォーマットとリニアPCMのマルチチャンネルが該当します。
こうしたサウンドを再生するためには対応AVアンプが必要となりますが、Dolby/DTSの新バージョン(Dolby TrueHD/dts HDマスターオーディオ)に対してのデコード機能とHDMI 1.3aを持つものが対応アンプといえます。もちろん、プレーヤーもHDMI 1.3aが必要です。これからAVアンプを買うならば1.3a対応を買うべきですし、今秋には対応機も多く登場するはず。
さてそのサウンドですが、最近、専門誌で取材し、dts HDマスターオーディオのロスレスの音の良さには驚かされました。HDDに入ったマスター信号をHDMI 1.3a対応のAVアンプから出力して聴くというものですが、まことに素晴らしい音がしました。それはここで使ったAVアンプ(デノンです)の優秀さでしょう。これまでも、ロスレス圧縮信号が入ったディスクを対応プレーヤーで再生し、そこからアナログのマルチチャンネルで出すという方法はありましたが、今回、聴いたサウンドはまったくの別物ですね。
実はDVD普及期にも似たような状況がありました。5.1chのデコードを行える機械が少なかったので、プレーヤーがデコーダーを搭載していた時期がありましたが、プレーヤーでよい音を出そうと思うと、大がかりなリソースが必要になり、どこかに無理が生じていたのです。
そこで「信号を出すのがプレーヤー、音をよくするのがアンプ、その間をデジタルインタフェースで接続」と分化していったという歴史があります。次世代DVDにおいても同じストーリーでしょう。きれいなデジタル信号を送り出すのがプレーヤーのミッションで、それをいかにきれいなアナログサウンドとして出力するかはアンプ側の腕の見せ所になります。
ロスレスにもDolby/dtsの2種類がありますが、そのサウンドは明らかに異なります。どちらが優れているという話ではないのですが、デコード方式が違いますので、その音に違いは生まれます。ちなみにロスレスかリニアPCMかはスタジオマターで、選択の世界です。ハリウッドもソニー・ピクチャーズとディズニーはリニアPCM、FOXはdts、ワーナーはDolbyとそれぞれ選択しています。
映像と音声は本来リンクするものです。映像がフルHDや24pという要素でその存在感を高めているなか、これまで音声は追従し切れていない感がありましたが、きちんとデコードしてやればそんなことはありません。音声もようやくSDからHDに進化したという感じですね。
――先ほど秋にはHDMI 1.3a対応アンプが多く登場するというお話がありましたが、そのタイミングが次世代DVDの飛躍点になるでしょうか。
麻倉氏: パッケージソフトの充実など環境面も整いますし、各メーカーも第2世代の次世代DVD対応機をそろえてきますので、ユーザーとしても安心感が高まるはずです。これまで次世代DVDといえばマニア層が楽しむものという印象がぬぐえませんでしたが、今秋からはさらに一般的なユーザーへも広がりを見せるでしょう。
アメリカでは低価格競争になってしまっているようですが、日本ではマニアが楽しめるような製品も登場し続けて欲しいですね。
麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴
1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。
著作
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント
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