CEATECで見つけた3つの次世代トレンド:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(5/5 ページ)
20万人以上の来場者を迎え、今年も盛り上がった国内最大級の情報通信・エレクトロニクスの総合展示会「CEATEC JAPAN」。今回の「デジタル閻魔帳」は、麻倉怜士氏にCEATECを通じて見つけた次世代のトレンドを語ってもらった。
――となると、ハイブリッドという道もありそうですね。
麻倉氏: 私が東芝の担当者ならば消耗のフォーマット戦争に突入するのではなく、自社の力を「強い製品づくり」に投入しますね。つまりフォーマットではなく、売れる市場で製品力で勝負する道です。フォーマットにこだわっていては負けですね。こだわるべきは「モノ」です。オヤジギャグでは「規格より企画(商品企画)」です。
そう考えるとBDの採用は戦略的な選択肢となります。DVDからHD DVD、BDまで、あらゆる規格に対応するのです。過去にはベータを提唱したソニーがVHSに転換しましたし、東芝もベータをやめVHSにしました。ですが、今回は「転換」ではなく「追加」するのです。
HD DVDをやめるのではなく単にBDを追加するだけですからメンツも保てますし、日本市場を考えるなら東芝にとってはBDを持つことが最善のソリューションでしょう。既にHD DVD陣営のNECはPC用ドライブでBD市場へ参入しました。これはBD記録/BD-ROM再生/HD DVD再生というソリューションで、残るは東芝だけです。すでに韓国メーカーはハイブリッドになりました。
NEC型のソリューションならHD DVDのソフトもこれまでと同様に再生できますから、東芝的にも問題はありませんし、BDメディアの記録とBD-ROMの再生が加わるとなるとユーザーにとって大きな魅力です。レコーダーに搭載されれば両フォーマットが使える最強の次世代機になりますし、技術力のある東芝ならBD-JAVAとHDiの2つのインタラクティブ機能を同時にサポートすることなど、たやすいことのはずです。
実際、ハイブリッドが実現できるのは東芝しかありません。BD陣営ではHD DVDのサポートなんてこれっぽっちも考えていません。HD DVD機器を買ったお客さんは「パイレーツ・オブ・カリビアン」や「スパイダーマン」が見れません。こういうお客のためにもBDの取り込みは歓迎されますね。またエクスキューズのないRDで長時間記録するためにもBDは恰好の要素でしょう。多くの東芝ファンが望んでいるのは、「RDの編集機能を持ったBDレコーダー」です。ハイビジョン・エアチェックでは決してトランスコーティングではなく、容量が決め手ですからね。
――なるほど。それは迷っているユーザーを救いますね。でもその考えは東芝に届くでしょうか。
麻倉氏: なかなか難しいのではないでしょうか。でも冒頭に述べたよう、東芝にはワン・アンド・オンリーの製品を作り出す力があります。製品力で進むべきということを自覚して欲しいですね。ユーザーはそれを一番望んでいますしね。
力のひとつはもちろんRDの編集機能です。「ダビング10」環境ではプレイリストを作っての編集機能がレコーダーの大きな要素となるので、これまでRDシリーズで培ってきた編集機能は大いに強みになるでしょう。
性能で圧倒的に凌駕するためのアイテムとしては、東芝ブースで展示されていたCellを用いてSD信号をHD信号に変えるデモが印象的でした。この技術を用いれば、VHSやDVDのSD映像をきれいなHD信号に変換することが可能になります。また、Cellをリアルタイムの解像力向上ツールとして使う手もあります。ソニーがCellを事実上見限ってしまっているので、東芝がキラーアプリとして投入して欲しいですね。
BD陣営の各社はそれぞれの特徴をBDレコーダーに反映させています。今秋登場の新製品では、シャープが「ストリーム録画」、パナソニックは「長時間録画」を主張するなど、多彩な選択肢を用意できているのもBD陣営の強みです。東芝としてはフォーマットにこだわらず、自社の持つ強みを最大限に活かした魅力ある、そして正しい製品づくりに邁進してもらいたいです。
なんだか少し東芝を肩入れし過ぎた感じもしますが、私もRDユーザーですから、東芝には大いに期待しています。
麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴
1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。
著作
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント
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