デジタル分野総ナメ――「2007年デジタルトップ10」:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(5/5 ページ)
今年最後の「デジタル閻魔帳」は、2007年に麻倉怜士氏の印象に残ったモノを、ランキング形式で紹介する「麻倉怜士のデジタルトップ10」。ハードだけでなくソフトまでカバーする総合ランキングにランクインしたデジタルトピックスは?
――そして第1位はソニーの有機ELテレビ「XEL-1」です。「オーガニックパネル」と銘打たれたパネルの薄さはもちろん、その映像の美しさもお披露目以来話題です。
麻倉氏: XEL-1についてはいろいろな表現の仕方があります。まず言われるのが最薄部3ミリという薄さですが、パネル自身の厚みはわずか200ロングストロームに過ぎません。圧倒的な薄さはいろいろな可能性を示しており、完全な壁掛けや折りたたみ式もそのひとつですね。
画質コンシャスの立場からは、その画質に注目せざるを得ません。コントラスト比は100万:1といわれますが、これは全白と全黒の比なので、常用域では4500:1程度になります。ですがこれでも一般的な液晶パネルの5倍以上にあたります。
コントラスト的に白と黒の間が広いだけではなく、精細感が非常に高いのが特徴です。それはプラズマや液晶の比でもありません。本製品の画素数はフルHDの1/4に過ぎませんが、そこから得られる精細感は非常に高く、ピークをきちんと表現する力もあります。本製品は放送画質がどこまで向上しているのかを確認できる、実験的なプラットフォームともいえるでしょう。
ブラウン管はピークをきちんと表現できますが、構造上、高電圧領域でボケが生じます。プラズマや液晶はそもそもピークを表現できません。ボケることなくここまでのピークを実現したのは、実はこの有機ELテレビが初めてなのです。人類が初めて手にした映像を実現しているのです。
その映像は「11型の窓から現実を眺めている」、そうした表現が一番適しているでしょう。いままでのテレビは情報を伝えている、モニターしているという感じですが、本製品ではテレビという媒体を介して向こうへいっているような臨場感を得られるのです。
ディスプレイとして映画「オペラ座の怪人」を見ても、チャプター5のクリスティーヌの肌のふくらみなどはこれまでの映像装置ではなし得なかった領域の表現ですし、チャプター9のファントム出現シーンでは背景の壁にすら存在感を感じます。従来のディスプレイでは“何か”がつぶれていたのですね。
本製品の出現でディスクへ記録された映像がどれほどのものなのか、ようやくそのすべてを明らかにできるようになったのです。11V型・960×540ピクセルのサイズですらこれほどなのですから、開発中と言われる大画面タイプ・フルHDの製品が与えるインパクトは図り知れません。
50V型の有機ELテレビの登場は2009年ごろと目されていますが、そうすると、2011年に放送がアナログからデジタルへ移行するころ、液晶は有機ELへ導かれることになるでしょう。
麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴
1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。
著作
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント
関連キーワード
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