「ワーナー・ショック」の本質:麻倉怜士のデジタル閻魔帳(3/3 ページ)
ワーナーがBlu-ray Disc一本化を決定したいわゆる“ワーナー・ショック”で、次世代DVD戦争は終結に向かうとみられている。この「フォーマット戦争の終わりの始まり」は何を意味するのか。
東芝に求められるかじ取り、DVDからBDへのドライブ
――HD DVDを推進してきた東芝にはどのようなかじ取りが求められるでしょうか。
麻倉氏: 東芝にはなんとか頑張って欲しいものです。2つの選択肢があります。光ディスクの世界に身を置き続けるか、あるいは撤退するかです。光ディスクの事業を継続するならば、なんらかのカタチでBDを取り込まなければ生き残れません。レコーダー「RDシリーズ」とBDは最強のコンビネーションになります。
同社の最新レコーダーは、「DVDにハイビジョン録画」を打ち出していますが、その選択は「無情」としか言いようがありません。問題はDVDというオールドファッションなメディアにこだわっていることです。これまでメディアの転換期に古いメディアにこだわって生き残れた例はありません。ソニーのβ、ソニー/フィリップスのMMCD、ビクターのVHDしかりです。
BD/HD DVD/DVDを論じる際にシンボリックなのが容量です。東芝はMPEG-4 AVCというコーデックで問題を解決できると考えているのかも知れませんが、コーデックは同社だけの独占技術ではありません。それに、最近のBDソフトをみてみると、MPEG-2からMPEG-4 AVCにシフトしています。また、BDの2層50Gバイトという容量は当初、多すぎるぐらいと言われていましたが、最近では普通に利用されています。コンテンツクリエイターとしては、容量はあればあるだけ望ましいものです。
最近ではコンテンツのデリバーに物理メディアではなく、ネットワークを利用した配信も成長しています。敗色濃厚のHD DVDにこだわるのではなく、マイクロソフトと共同でHDDを消費するにふさわしい配信というジャンルへシフトするのも東芝らしいことではないでしょうか。ただ、すぐさま花開くというわけにはいかないでしょうから、東芝の名に恥じない戦略に期待したいですね。
――フォーマット戦争は終結しても、SDからHDへのシフトという観点からすれば障害がひとつ取り除かれただけともいえると思います。フォーマット戦争の終結以外に、BDをドライブさせる要素はなにがありえるのでしょう。
麻倉氏: アメリカでは間違いなくBDソフトですね。ハイビジョンテレビの普及に追従するかたちで、間違いなくハイビジョンテレビ+BDというHD環境が普及していくはずです。International CESで行われたBDAの共同記者会見では、2011年にはDVDと肩を並べるという予測が披露されました。
日本ではエアチェックという要素を語り落とす訳にはいきません。HD映像が長時間録画できるという、BDならではのメリットが普及すれば、自然とDVDからBDへシフトしていくでしょう。ただ、「DVDからBDへ」という流れはすでに起こりつつあり、ハイビジョンテレビを導入したひとは自然とBDレコーダーを導入していくことになるでしょう。本質的な改善にはなりませんが、6月に運用開始が予定されているダビング10もBDをドライブさせる要素になりうるでしょうね。
メディア単価の下落も後押しするはずです。春には有機色素を利用してコストダウンを図ったBDメディアも各社から登場します。そうれば、25GバイトのBD-Rが500円のラインを切ると予想されますので、そうなると、ギガバイトあたりの単価でDVD-Rに並びます。ここまでくればBDの普及はさらに加速し、レコーダー市場でのBDのシェアは2008年中には50%、2010年には100%になるでしょう。
麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴
1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。
著作
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント
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